今回の選書

世界で通用するリーダーシップ(三谷宏幸) 東洋経済新報社

世界で通用するリーダーシップ(三谷宏幸) 東洋経済新報社

選書サマリー

米国に留学して改めてわかったことがある。それは、日本のスケールの小ささ、そして「幅」の狭さだった。考え方は極めて限定的で、「みんなで渡るから、怖くない」という発想だ。

そこには、目に見えないが、優れた「中庸の制度」がある。たとえば、日本企業の年功序列の仕組みや、それを支えるための偏差値教育がそうだ。

これらは、中庸を作るために生み出された日本人の知恵だ。だからこそ「幅」が小さいのは当然だ。給料の差も小さいし、待遇の差も小さいのだ。

小さな幅をみんなで享受できる制度を、優秀な政治家や官僚が作り上げた。そして「ここにいれば大丈夫」「みんなで頑張ろう」という考え方を定着させた。それが日本の強さだったのだ。

そこには、根底に共通の認識がある。話は簡単に通じ合う。つまり、「あうん」の呼吸だ。こうして日本全体の経済が成長した。そして、みんなが得をした。日本は、いわば総合力を駆使して成功したのだ。

だが、一方で、システムから外れる人間を作ることができなかった。これが日本の弱点になっている。

米国は、これとは反対だ。多様性に富んだ人が違う発想をしている。経済も、人種も、思考も多様だ。こういう環境で理解し合うには、相互に多様性を認め、共通認識を持てるように説明するしかない。

米国の強さの一つが、このダイバーシティだ。そこでは、リーダーは、誰にでも理解できる理屈で、物事を説明することを要求される。米国は、こうして世界をリードしてきたのだ。

米国が強いのは、いつも世界を見て、次の打ち手を模索し、多様な背景を持つ人に説明をしてきたからだ。残念ながら、日本には、このような論理性とダイバーシティが欠けている。

「幅」が違えば、やるべきことも異なる。やれることと、やれないことの幅が広いのが米国であり、それが狭いのが日本だ。日本はやるべきことに対し、この狭い幅の中で判断している。

そして、真っ先に出てくるのが、できない理由だ。実際、何度もできない理由を聞かされてきた。こちらからの要求に「できない理由」が返ってきたら「なぜできないのか」を問い返すことにしている。

問い続けると、最終的には「今までやったことがないからです」という答えに突き当たる。残念だが、これが「幅」なのだ。「幅」の外側にあるものは、認めたがらないのだ。

「日本の常識が、世界の非常識」ということは少なくない。ところが、最近はそれをおかしいと思う人さえ減っている。グローバル競争に苦戦するのも当然だ。

求められているのは、パラダイムシフトだ。「なぜ、できないのか」でなく「どうすればできるのか」を考えるべきだ。ピンチの時こそ「何か、やり方がないか」考えるべきだ。

日本人は、物事をネガティブに考えがちだ。ネガティブな発想が多いと、議論が建設的ではなくなる。それどころか、人の話もきこうとしなくなる。これでは絶対に成長も成功もできない。

さらに、日本人の創造の妨げになっているのは、横並び意識だ。隣を気にして周りと同じ発想をしようとする。だが、一見安全そうな発想ほど、往々にしてリスクを伴う。

一方、米国人はポジティブな発想で物事に臨み、必要なら自分までも変えてしまう。自分をどんどん変え、最後は目指す価値に自分を合わせようとする。こうした進化こそが、成長には不可欠なのだ。

米国人がいつもすばらしいと言うつもりはない。だが、彼らのポジティブさは、日本人も学ぶべきだ。とりわけ若い人は、もっと挑戦すべきだ。挑戦は、若さの特権なのだ。

決断も挑戦もせず、手堅く安全にやり過ごす人は決してリーダになれない。リーダーは、不確実で、リスクの高い判断を行わねばならないからだ。ぜひ、若いうちから、リスクを取って挑戦してほしい。

選書コメント

世界標準の仕事、リーダーシップ論です。外資系企業で経営トップを歴任してきた著者が、グローバルに活躍するためのヒントを教えてくれます。

決して、海外で活躍するための指南書はありません。今や、国内においても、世界標準を意識して仕事をする時代です。日本独自のやり方では通用しなくなりつつあります。

では、具体的に、何を変え、どんな意識で、どんなことに気を付けて仕事をしていけばいいのか、具体的なやり方を分かりやすく教えてくれます。

31年ぶりの貿易収支の赤字など、日本の国力低下をうかがわせるような報道が連日のようになされています。国内だけに目を向けていては、チャンスを失うばかりです。

外に目を転じれば、活躍の舞台は無限に広がります。多くの日本人、日本企業がグローバル化に適応できず苦しんでいるからこそ、いち早く適応できた人にはチャンスが訪れます。

本書は、日本企業がグローバル化に適応できず苦戦する理由を分析し、その対処法を教えてくれます。自ら外資系企業でトップを歴任した経験がもとになっていますので、その指摘は的確です。

もちろん、世界標準で仕事をするには、語学はもちろん、考え方や価値観など、身に着けるべきことがたくさんあります。本書は、その手引きをしてくれます。

外資系で働きたい人や、すでに働いている人、世界を視野に活躍したい人はもちろん、現在の仕事を見直したい方、これからのキャリア形成を考えたい方にもお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。