Armadilloのラインナップ体系

初代Armadillo発売の2002年からArmadillo-200シリーズが出揃った2006年まで - この5年間が、10年の歴史の前半部分ということになります。形状・機能違いの複数の製品ラインナップを揃えたことにより、最初の頃に比べて多様な組み込み機器をカバーできるようになり、ブランドとしての体を成すようになりました。さらに後半の5年間は、前半5年間に発売されたそれぞれのモデルの発展系と、新たな発想によるタイプとの複数系統に分化していきます。体系的にご覧いただくため、Armadillo全製品のラインナップを図示します。

Armadilloラインナップの発売年と体系

Armadilloブランド10年の歴史で後半の最初に登場するのは、新たな発想による無線LAN対応モデル「Armadillo-300」です。しかし実は、Armadilloの無線LAN対応への取り組みはもっと以前から存在しました。今回は、Armadilloブランドの無線LAN対応の歴史と、Armadillo-9/200シリーズの後継モデルとなる「Armadillo-400シリーズ」を取り上げます。

無線で繋ぎたい! - Armadilloの野望

今では当たり前となった無線LAN。統一規格であるIEEE 802.11が策定された時期は1997年まで遡りますが、この頃はまだ2Mbpsと低速で対応機器も非常に高価でした。11Mbps(理論値)と高速化されたIEEE 802.11bが1999年までに規格化されますが、ノートPCに接続できるPCカード形状のデバイスがPCショップなどで普通に買えるようになったのはもう少し後、2002年頃だったように思います。初代Armadillo(HT1070)が発売され1年ほど経った2003年初頭には、実売1万円を切るPCカードも市場に出始めていました。「これを使ってArmadilloで無線LAN対応できないかな?」…と私たちが調べ始めたのも、当然の流れといえました。

初代Armadillo(HT1070)を共同開発した梅沢無線電機の製品として、PC/104接続PCカードインタフェースボード「HT3040」が既にありましたので、物理的にはArmadilloにも無線LANカードが接続可能に思えました。問題は、Linuxに対応したデバイスドライバを用意できるかどうかです。米IntersilのPrismチップ向けにオープンソースのものがあることがわかり、Prismチップを搭載した市販品を調査したところ、使えそうなものが数種類見つかりました。さっそく数枚をPCショップで買ってきて、実験開始。そしてここから動作するまで四苦八苦…することを覚悟していたのですが、実のところそんな苦労はありませんでした。まずは「Linux PCMCIA Card Service (pcmcia-cs)」プロジェクトの最新ソースを入手し、Armadillo向けにちょっとした修正を加えます。Prismチップ向けのドライバはというと、これはpcmcia-csにそのまま含まれていたので、特別にすることはなし。ソフトウェアをビルドしてイメージを書き込み、無線LAN設定を行ったArmadilloを2台用意するだけで、やや拍子抜けするほどあっさり無線通信が実現できてしまいました。

このエピソードが正真正銘、最初のArmadillo「無線LAN対応」です。その時点の私たちにとってはオープンソースが実現してくれた新しい技術であり、オープンソースにより開発期間の大幅短縮が実現できた事例ともいえます。この体験を通していち早く「オープンソースの可能性」を実感した私たちは、「オープンソースの発展は広く世界に寄与するものであり、もたらされた成果は広く世の開発者にも知ってもらうべきであるー」と考えました。こうして「無線LAN対応」の成果はArmadilloサイト「Howto : PCMCIAを使う(Armadillo)」として公開されることになり、現在も掲載され続けています。Webサイトのリニューアルを経て見た目の掲載日こそ変更されてはいるものの、内容自体は2003年5月に書かれたもの"ほとんどそのまま"です。

そして2003年7月には、ArmadilloにHT3040と無線LANカードをセットにした「HT1070-SWL」を発売しました。現在のラインナップには残っていませんが、これが最初の「無線LAN対応モデル」といえます。HT1070-SWLは限定10セットのみの限定販売でしたが、発売開始からすぐに完売し、その後の無線LAN対応を進める上での足がかりになりました。

歴代の無線LAN対応Armadillo

IEEE 802.11g対応への道と「Armadillo-300」

初代Armadillo(HT1070)の無線LAN対応から2~3年ほど経つと、世間では最高54Mbps(理論値)のIEEE 802.11g対応無線LAN機器が一般的になってきます。この頃には既にUSBホスト機能のあるArmadillo-9/220/240がありましたので、USB無線LANデバイスで11g対応ができるのではないか…と考え、実際に数種類のUSB無線LANチップについて調べ始めました。しかし調査を進めても、オープンソースドライバが存在しなかったり、あったとしても動作が不安定だったり…と、試行錯誤はしたものの、実用に耐えうるものにはなりませんでした。

それでも、高速無線LANのニーズの高まりには応えなければなりません。思い切って「高速なPCIバス接続の無線LANデバイスを搭載したArmadilloを」と発想し、新たなArmadilloの開発を開始しました。Armadillo-Jで採用したDigi International製のSoCに、PCIバス対応のSoC「NS9750」(ARM9/200MHz)があったのは好都合でした。問題は無線LANチップですが、Linuxでの動作実績が十分豊富といえるものとしてはAtheros(現Qualcomm Atheros社)製チップが良さそうです。他条件も考慮した結果、miniPCI接続タイプのサイレックス製無線LANモジュール「SX-10WAG」(Atheros AR5414Aチップセット搭載)の採用を決定。こうして開発されたボードは「Armadillo-300」と命名され、2007年3月に発売されました。

Armadillo-300は、無線LANをメインの機能とする組み込み機器に広く使われていきました。とはいえ、その前から調査していた「USB無線LAN対応」についても、完全に諦めたわけではありませんでした。オープンソースドライバ開発がその後も進んでいることは知っていましたし、これが使えるようになることで助かる人だっているに違いないのです。改めての調査によって、Zydas(後にAtherosに買収された)のZD1211チップ用オープンソースドライバが、Armadillo-9/220/240で比較的安定して動作することが確認できました。この時の成果もまた、Armadilloサイトで「Howto : USB無線LANモジュールを使う」として公開されています。

「無線LANを使いたい」という目的は同じでも、機能・性能・安定性がどの程度必要かについては、組み込む機器により、使われる環境によりバラバラです。無線LAN機能をメインに据えたArmadillo-300が必要な機器がある一方で、多少性能は劣っても手軽に後付けできる無線LANで十分な機器もある…組み込み機器でこそ、選択肢の豊富さは強みになります。これを実現してくれる「オープンソース」、この面でも「組み込み機器開発」との相性は抜群といえます。見過ごされがちですが、オープンソースが本来的に持つ「自由」と「面白さ」は、こんなところにも寄与してくれているのです。

著者:花田政弘

アットマークテクノ
開発部マネージャー