Cray-1の実装
Cray-1は、図1.34に示すように、直径103.5インチ、高さ19インチのドーナツ状のベース部分と、直径56.5インチ、高さ77インチのタワーから成っている。タワー部分にプロセサやメモリなどが入っており、ドーナツ状のベース部分には、電源と冷却装置が入っている。どちらも完全な円ではなく、一部の切れたC形になっている。
論理回路は、5入力と4入力のOR-NORゲートを2個集積したECL(Emitter Coupled Logic)で作られ、これとデュアルD-FF、16×4bitのレジスタ、4K×1bitのRAMという4種類のチップで作られた。
16×4bitのレジスタのアクセスタイムは6ns、4Kbit×1のSRAMのアクセスタイムは25nsである。
論理ゲートは5入力、または4入力のOR-NORゲートだけであり、どこにあるゲートを使っても同じであるので、配線遅延を短くするよう、近くのあるゲートを使うようにしているという。プリント板の入出力信号は、青と白のツイストペアケーブルで接続されている。
ICを搭載するプリント板は6×8インチで、ここに最大144チップを搭載する。プリント板は2枚をペアにしたモジュールで、2枚のプリント板の間に銅の放熱板を挟むという構造になっている。次の図1.36に示すように、銅の放熱板は両側のフレオン冷却された金属ブロックに接続されて放熱を行う。
冷却系は図1.36にみられるように、フレオンを通すステンレスの管がアルミのブロックを縦方向に貫いている。このステンレス管を漏れの無いように溶接する技術を開発するのに苦労したとのことである。
ステンレス冷却管の温度は21℃、銅のコールドプレートの温度は25℃で、プリント板の中央のICのケース温度は54℃である。
図1.37はキャビネット内部の写真で、直径1m程度と非常に狭く、保守がやりにくいが、配線を短くすることを優先している。
回路としてECLを使い、OR側とNOR側の両方の出力を使っているので、出力の状態が1でも0でも消費電流は変わらない。出力がスイッチする瞬間には、多少、電源電流が変化するが、それは電源キャパシタで吸収し、それ以外には電源安定化回路などは入っていない。それでも電源電圧は一定に保たれるという。
電源は400Hz、150kWのモータージェネレータから供給されており、AC入力の変動は、ここで吸収されている。モータージェネレータは発電機をモータで回して発電するもので、モータの回転数は電気-機械的に制御されて、一定の発電電圧が得られるようになっている。また、サージなどの高速の電圧変動は、モータージェネレータの回転子の機械的な慣性モーメントで抑えられている。
(次回は6月22日に掲載します)