CDCのCyberスパコン

CrayもThorntonも居なくなったCDCは、CDC 6600/7600をベースとした「Cyber 70」と「Cyber 170」というシリーズを出す。Cyber 70はマイナーなアップグレードで、Cyber 170はトランジスタに代えて集積回路を採用したマシンである。

Cyber 170は、クロックを最大40MHz(25ns)まで引き上げ、PPUの数も最大20台まで拡張していた。

一方、「Cyber 200シリーズ」はSTAR-100の改良版で、Cyber 205は演算パイプラインを高速のECL(Emitter Coupled Logic)で構成し、最大4本のベクトルパイプラインを持っていた。このマシンは、64bitデータでは400MFlops、32bitデータでは800MFlopsのピーク演算性能を持っていた。一般的なプログラムでは、このピーク性能のような高い性能は得られなかったが、Cyber 205はこの時代を代表する高性能スパコンであった。

ETA 10

独立したSeymour Crayが自分の会社を作りCray-1を出してから、劣勢になったCDCは1983年にスパコン部門を分離してETAシステムを設立した。ETAは、Cyber 205をベースに、回路をCMOS LSI化し、液体窒素で冷却して7nsクロックで動作させるというアプローチをとった。これでピーク演算性能は571MFlopsとなり、これを2つまとめたものをノード(CPU)とし、8CPUで「ETA 10システム」を構成する。したがって、ETA-10全体ではピーク演算性能は9.14GFlopsとなる。

  • ETA-10

    図1.33 ETA-10。中央のタンクに液体窒素をいれて回路素子を超低温に冷却して高速で動作させる (写真はComputer History Museumで筆者が撮影したもの)

なお、CMOSトランジスタを流れる電子は、熱エネルギーでシリコン原子の格子が振動することで散乱されて、電子の流れが妨げられて電流が減少するが、超低温に冷やすことで格子の振動が減り、より多くの電流を流すことができるようになる。ETA 10では、液体窒素で冷やすことで、より多くの電流を流し回路の動作速度を上げて、7nsのサイクルタイムでの動作を狙っていた。

日本でも、東京工業大学(東工大)がETA-10を導入した。当時は、日米の貿易摩擦が激しかったときで、車などの輸出に自主規制が行われ、買える米国製品があれば購入して、貿易黒字を減らせという時代であった。その対策の一環として東工大に予算が付いてETA-10を輸入することになった。

しかし、東工大のETA-10は、結局、液体窒素の冷却状態で動作することはほとんど無く、空冷で半分程度の動作速度で動かしていたという。また、ソフトウェアが不備で、8CPUがあっても1CPUしか使えないという場合が多かったという。

ETAシステムには、30GFlopsのETA-30という計画もあったが、結局、実現されることは無かった。

(次回は5月25日に掲載します)