私たちは世界的にも早い時期から、自然言語処理の深層学習をサービスに適用してきた。今回のシリーズでは、弊社がこれまでの経験で得た、ビジネスにおける対話AI活用のノウハウを紹介する。これによりさらなるAIビジネスのマーケット拡大の一助になればと考えている。
目次
1. チャットボット等の対話AI市場の動向
国内市場において業務効率化を目的としたチャットボットが普及
売上向上を目的としたAI導入
2. 対話AI技術をビジネスへ
経験から考える、ビジネス領域でのAI活用で必要なこと
3. 心に寄り添う対話の実現を目指して
対話AI技術に求められるコミュニケーションとは
1. チャットボット等の対話AI市場の動向
近年、AIにキャラクター性を付与したチャットボットが、企業とユーザーの新たなタッチポイントとして注目を集めている。例えば、ECサイトの接客やカスタマーサポート、旅行や交通手段の予約等の機会において、ユーザーが24時間効率的に知りたい情報を得たり、タスクの早期完了を実現できたりする。また導入企業にとっては、人件費の削減や業務効率化につながる例もある。しかし、AI技術活用による様々なメリットが注目される反面、どの領域にどのようにAI技術を利用すればいいのか、明確になっていないのが現状だ。
一方、ドイツや米国などに目を向けてみると、導入の目的が日本と異なっている。図1で示すように、日本では「業務効率化」が目的になることが多いが、ドイツや米国では「売上増加」と「売上に対するプロセス」を実現するために導入されている。例えば、ある旅行会社のホテル予約サイトでは、予約にチャットボットを導入したことで100万件もの予約数の増加があったとされる。この先、売上につながるツールとしてチャットボットを利用するためには、現状の技術で出来ることと、どんな課題に対し効果的であるかを理解する必要がある。
2. 対話AI技術をビジネス領域へ
NTTレゾナントが提供する「goo AI x DESIGN」は対話AIサービスの導入を支援するセミオーダーソリューションである(図2)。自社サービス含めエンタメ、旅行・観光、金融、ライフスタイル、ゲームなど幅広い業界で対話AI技術を提供している。また弊社への問い合わせにおけるAI導入目的の割合は、図3に示す通りである。業務効率化目的が46%と全体のほぼ半数を占め、続いて42%が売上向上などのマーケティングでの利用を目的とした問い合わせである。
対話AI技術をビジネス領域に取り入れる上で、業界を問わず留意すべきことは、「課題の解決手段として対話AI技術が適していること」「特定のトピックから外れた発話による対話の破綻を防ぎ、ズレのない回答を提示する」「対話データ蓄積を活かした成長も視野に入れ、サービス設計を行う」等が挙げられると筆者は考えている。
弊社のAI担当が関わった事例である、日本テレビ放送網(以下日本テレビ)のドラマ「過保護のカホコ」における「AIカホコ」(図4左)を用いて説明する。
課題の解決手段として対話AI技術が適していること
本件は視聴者の情報収集の主体としてテレビよりもWeb・SNSが優位になりつつある環境変化を課題とし、押し付けにならない視聴者とのコミュニケーションが目的で始まった。解決手段として、ドラマ主人公と視聴者が双方向に関わり合うことのできるチャットボットを構築した。これは、日本テレビ提供のデータを元にしたドラマの世界観を反映した会話以外に、多くのユーザーから寄せられる多種多様な雑談にも対応することができる点で、対話AI技術との親和性が高かったと言える。
特定のトピックから外れた発話による対話の破綻を防ぎ、ズレのない回答を提示する
特定のトピックつまりドラマ内容から外れた雑談にも、「わからない」といった単一の回答ではなくキャラクター等身大の自然な回答をするよう学習した。これがまるでドラマ主人公がひとりひとりに回答してくれているような面白さにつながった。
対話データ蓄積を生かした成長も視野に入れ、サービス設計を行う
成長について、各週のドラマ内容・ユーザーとの応答履歴をディープラーニングで学習させドラマと連動させた。このことが視聴者を魅了し、サービスの継続利用や、回を追うごとのユーザー増を促した。
その結果、約3か月で友だち登録者数44万人突破、AIとユーザーの会話数は1億回を超え、リーチとエンゲージメントにおいて高い効果があった。
さらに高機能な対話AIとして、日本テレビのドラマ「家売るオンナの逆襲」(図4右)に登場する複数キャラクターと会話できる「AI家売るオンナ」を2018年12月にリリースした。AIキャラクターとユーザーの1対1での対話が特徴であった「AIカホコ」に対し、「AI家売るオンナ」は4~6人のAIキャラクターとのグループ会話を可能にしている。また、「AI家売るオンナ」には会話数の多少や継続性、キャラクターへの呼びかけにより親密度が変化し、会話の内容が変わる機能も実装。蓄積した対話データを生かして、よりユーザーに楽しんでもらうための仕組みを実現した。
3. 心に寄り添う対話の実現を目指して
チャットボットの導入は、Webページだけでなく、LINEなどのメッセージアプリにも広がっており、ユーザーの日常生活にチャットボットが身近になりつつある。ユーザーに親しまれる対話AIには、例えばキャラクター性や、心に寄り添うような対話が求められる。つまり、ビジネス領域においても、対話AI技術に求められるコミュニケーションは、予め設定されたルールやシナリオに沿った機械的な対話だけでは物足りない。チャットボットに加わった「親しみやすさ」の要素は、AIとユーザー間におけるコミュニケーション量の増加・質の向上につながり、企業の目指すユーザー接点の拡大に有力であると考える(図5)。
今回の連載では弊社AI技術と事例を解説しながら、ビジネス領域での効果的な対話AI技術の活用について考えていきたい。
著者プロフィール
渡辺早紀NTTレゾナント株式会社
スマートナビゲーション事業部 サービステクノロジー部門
AI担当
2018月よりNTTレゾナント株式会社 AI担当に配属、旅行AIを担当。現在は「goo AI x DESIGN」のマーケティング・営業を担当する。JDLA Deep Learning for GENERAL 2018#2を取得。