世の中には、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)だけでなく、有人機を無人化するケースや、有人機を無人化するけれども有人運用も可能にするケースもある。後者をOPA(Optionally Piloted Aircraft)というが、もちろん商業施設の名前とは関係ない。

既存の有人機を無人化する

最初から無人化するつもりで機体を設計するなら話はシンプルで、飛行制御コンピュータからの指令で操縦翼面やスロットルを操作するように設計する。有人機の無人化でも、フライ・バイ・ワイヤ(FBW)なら操縦指令は電気信号の形で出ているから、それを人間が操縦する操作系の代わりにコンピュータから送り出せば、無人化は比較的容易に実現できると考えられる。

では、索やロッドで操縦翼面を動かす、メカニカルな操縦系統を使用している既存の有人機を無人化しようとしたら、どうすればよいだろうか。

という面白い課題に取り組んだのが、米空軍研究所(AFRL : Air Force Research Laboratory)。ここがDZYNE Technologiesという会社と組んで、「ROBOpilot」というプログラムを立ち上げている。名前からすると、「ロボットが飛行機を操縦するんですか?」と思いそうになるが、実際、その通りなのだ。

なにしろ、ROBOpilotはRobotic Pilot Unmanned Conversion Programの略。つまり、「ロボットを用いて有人機を無人機に転換する」という意味である。セスナやパイパーといったメーカーが製造する軽飛行機がアメリカ国内で多用されているが、この手の機体を迅速に無人化できるようにしよう、という趣旨。

まず、2019年8月9日にユタ州のダグウェイ実験場で、2時間の初飛行を実施した。ところがこの機体、着陸事故を起こしていったんは飛行停止になってしまった。しかし原因究明と対策が進み、2020年9月に飛行再開を実現できた。9月24日にダグウェイで実施した通算4回目の2.2時間のフライトでは、試験に際して設定した目標はすべて達成できたとしている。

では、どうやって無人化したのか。まず、パイロット用の座席を取り外してフレームを設置する。そこに、アクチュエータ、電子機器、カメラ、電源、マニピュレータといった機器を取り付ける仕組み。そして、アクチュエータが操縦桿やラダーペダルやスロットルレバーを操作するのである。

  • 2020年9月にユタ州ダグウェイ試験場で4回目の飛行試験を成功させたROBOpilot。2.2時間で試験を完了したという 写真:AFRL

    2020年9月にユタ州ダグウェイ試験場で4回目の飛行試験を成功させたROBOpilot。2.2時間で試験を完了したという 写真:AFRL

  • 「ROBOpilot」を導入した機体の操縦席。パイロットに代わって、機体を操縦するためのアクチュエータなどが陣取っている 写真 : AFRL|

    「ROBOpilot」を導入した機体の操縦席。パイロットに代わって、機体を操縦するためのアクチュエータなどが陣取っている 写真 : AFRL

ROBOpilotで難しそうなポイントとは

パイロットが飛行機を操縦する時は、計器を見て機体の姿勢や動きを把握した上で、自分の意図に合わせて操縦桿、ラダーペダル、スロットルレバーといったものを操作する。ROBOpilotでは、人間の手で操作する代わりに、これらをアクチュエータで操作する。

例えば、右旋回する時は、操縦桿を右に倒すとともに、右のラダーペダルを踏み込む操作が必要になるし、旋回によって速度が落ちればパワーを足す。つまり、複数の操作系を調和させながら動かす操作が求められる。

操縦桿、ラダーペダル、スロットルレバーの操作はON/OFFしかない単純なものではなくて、デリケートな操作を要求される。だからもちろん、微妙な動きを正確に実現できなければ困る。いうまでもなく、レバーやペダルにアクチュエータを取り付けるところで、あるいはアクチュエータそのものの動きに、ガタが出るようなことはあってはならないだろう。

特定の機体に合わせて専用の機材を用意するならまだしも、汎用性のある機材を実現しようとすると、機体によって操作系の位置が違ってくるから、それに合わせて調整できる仕組みが必要になると思われる。しかもガタが出ないようにしながら。

そして、機体の姿勢や動きを常にフィードバックさせる、クローズド・ループの仕組みを構成する必要がある(これは、人間が操縦する場合でも同じことをしているのだが)。どの機種でも操作系を同じだけ動かせば同じように動くとは限らないから、操作によって生じた機体の動きをフィードバックさせて調整するようにしないと操縦にならない。

すると、機体の飛行状態をどうやって知るかという課題も出てくる。グラスコックピットになっている機体なら、電気信号の形で飛行諸元を取り出すことができるが、軽飛行機なら機械式アナログ計器が付いているものと考えてかからなければならない。

では、どうやって飛行諸元を読み取るのか。人間がやるのと同様に、計器の表示をカメラで読み取るのか、それとも別途、速度や姿勢や高度を知るためのセンサーを用意するのか。そういう課題もある。

こうしてみると、「ロボットで軽飛行機を操縦しましょう」といっても、見た目よりもずっと難しい作業をしているのではないかと推察されるし、それだからこそAFRLが乗り出してきて開発に関わっているということなのだろう。

最後に余談

なお、空ではなく陸上の話だが、既存の有人の機器をロボット仕掛けで無人化する製品は、日本国内ですでに存在する。それがコーワテックの「アクティブロボSAM」で、パワーショベルのような建機を無人化するもの。

履帯仕掛けのパワーショベルでは、前身・後進・旋回といった操縦操作のためのレバーと、バケットを動かすためのレバーがある。その両方をロボット仕掛けで動かす仕組みを作り、制御用のコンピュータともどもひとつのフレームの中に組み込んである。これをオペレーター席に固定して、レバーを操作するアームを連結すれば準備完了というものだ。

既存の建機を無人化できるから、危険な現場での作業が発生したときに、わざわざ無人の建機を持って来なくても済む利点がある。主に、災害対処のような場面での利用を想定しているという。

参考 : アクティブロボSAM製品情報

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。