あってはならないことだが、さまざまな努力にもかかわらず根絶できないのが航空事故。厳密にいうとメカニズムの話ではないが、航空事故にまつわる話を取り上げることで、航空事故のニュースに接した時の理解が進むのではないか。ということを考えてみた。

事故機はどこだ?

多くの人が見ている場所で発生した事故であれば、事故現場の特定は容易である。わかりやすいところだと、飛行場の中や、その近隣で発生した事故が該当する。

ところが、そういう場面ばかりとは限らない。山に突っ込んだ事故、洋上で消息を絶った事故、といった事例もたくさんある。そうなると、まず事故機の所在を突き止めるところから始めなければならない。

もしもレーダーで当該機をとらえていたのであれば、レーダー・スコープから当該機のブリップ(輝点)が消えた場所、ないしはその周辺という可能性がある。しかし、ブリップが消えた場所の直下とは限らない。なぜか。

まず、地球は球形だから、表面は真っ平らではない。したがって、レーダーで見通せる範囲には限りがある。水平線より向こう側の場合、ある程度の高度に達するとレーダーの捜索可能範囲に入るが、高度が下がると(レーダーから見て)水平線の下に隠れてしまう。その後の動向は、レーダーでは把握できない。

そして、空を飛んでいるものが相手だから、真っ直ぐ落下するとは限らない。たとえば、真西に向けて飛んでいる飛行機のブリップがレーダー・スコープから消えた場合、そのブリップが消えた地点だけでなく、その西方も捜索する必要がある。しかも、針路がぶれる可能性もあるから、真西だけでなく、南北に幅を広げないと見落としの可能性がある。

そして、レーダーで得られる探知目標の位置は、緯度・経度といった絶対座標ではなく、「レーダーの位置を起点とした方位と距離」という形で得られる。だから、ブリップが消えた地点を割り出すためには、レーダー・スコープから得られる方位と距離の情報を基にして、位置を地図上にプロットする必要がある。

そのプロットの作業にミスがあると、事故機の所在に関する情報が間違ってしまい、誰もいない場所を捜索する事態になりかねない。実際、事故の直後とその後で、公表された位置のプロットに違いが生じた事例もあった。

また、当初に情報が錯綜することもある。2019年4月9日に発生した航空自衛隊所属・F-35Aの墜落事故では、最初は「三沢基地北東135kmの地点でレーダーから機影が消えた」との報道があったが、後で「東方135km」に変わった。北東と東方ではだいぶ違う。

それでも、レーダーの覆域内で消息を絶ったのであれば、まだしも手がかりがあるだけマシである。

  • 航空機の安全運航・定時運航を図り、管制業務などの円滑な実施を支援する「航空交通管制情報処理システム」の概要 資料:国土交通省

    航空機の安全運航・定時運航を図り、管制業務などの円滑な実施を支援する「航空交通管制情報処理システム」の概要 資料:国土交通省

  • 航空路管制処理システム(TEPS)の概要。同システムは、全国の航空路監視レーダーなどからの位置情報とFACE(飛行情報管理処理システム)からの飛行計画情報を照合し、表示装置上に航空機の位置を示すシンボルに加え、便名、高度情報及び対地速度などを表示するために必要な情報を生成している 資料:国土交通省

    航空路管制処理システム(TEPS)の概要。同システムは、全国の航空路監視レーダーなどからの位置情報とFACE(飛行情報管理処理システム)からの飛行計画情報を照合し、表示装置上に航空機の位置を示すシンボルに加え、便名、高度情報及び対地速度などを表示するために必要な情報を生成している 資料:国土交通省

  • F-35A戦闘機墜落事故の航跡概要図(イメージ) 資料:航空自衛隊

    F-35A戦闘機墜落事故の航跡概要図(イメージ) 資料:航空自衛隊

レーダーが使えなかったら?

航空路監視レーダー、あるいは軍が運用する対空捜索レーダーといった設備は、陸地の上にしか存在しない。こうしたレーダーがカバーできない、広い洋上ではどうすれば良いか。

たまたま、事故現場の近所でどこかの軍が早期警戒機を飛ばしていたとか、軍艦がいて対空捜索レーダーを作動させていたとかいう僥倖があれば話は別だが、そんな都合のいい話は滅多にない。

洋上で行方不明になった機体の捜索に難渋するケースは少なくないし、事故から1年以上が経過してから、ようやく破片が見つかったマレーシア航空370便の事故(2014年3月8日)みたいなケースもある。この事故では2017年1月17日に海底の捜索が終了したが、未だに精確な所在はわかっていない。

民航機が洋上を飛行する場合でも、航空管制の対象にはなっている。飛行経路のところどころに定められた位置通報点で、パイロットが管制官にポジション・レポートを無線で送れば、(機の航法が間違っていないという前提だが)ポジション・レポートがあった時刻に、対応する位置通報点を通過したということはわかる。

もっとも最近では、慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)で得られた位置情報をADS-B(Automatic Dependent Surveillance - Broadcast)で常時告知するケースが一般化している。すると航法ミスの可能性が減るだけでなく、機位を外部から常時把握できる利点もある、といえる。

方形拡大捜索と平行航跡捜索

そうはいっても、洋上で消息を絶った飛行機の所在を、いきなりピンポイントで突き止められるとは限らない。それに、消息を絶ったから墜落とは限らず、無線機が故障しただけで実際には飛んでました、ということもあり得る。変わった事例では、フェリー飛行中の小型機が機位を喪失、「ここはどこ?」状態になってしまったこともある。

そこで、何らかの捜索が必要になる。しかし、ただ闇雲に走り回るだけでは、漏れや重複が発生する可能性があるので具合が悪い。そこで用いられる方法は、大きく分けると2種類。

1つは方形拡大捜索。最後に判明していた当該機の所在を基準点として、そこを中心として周囲に対処範囲を広げながら捜索する。方形という名前の通り、90度ずつ針路を変えながら捜索するのだが、ずっと同じ距離ごとに針路を変えたのでは対象範囲が変わらない。

そこで、変針点ごとに間隔を広げていく。例えば、こんな具合(距離の数字は適当に決めた)。

  1. 基準点から東に5マイル飛んで左90度旋回
  2. 北に5マイル飛んで左に90度旋回
  3. 西に10マイル飛んで左に90度旋回
  4. 南に10マイル飛んで左に90度旋回
  5. 東に15マイル飛んで左に90度旋回

つまり、2レグ(この場合、レグとは変針点と変針点を結ぶ行程を指す)ごとに、直進する距離を一定範囲ずつ増やす。すると、機体は四角い渦巻き状の軌跡を描くことになる。

距離の増分が多すぎると漏れが生じる可能性があるから、機の前後左右・捜索可能な距離を基準にして決める必要があるだろう。見える範囲が前後左右5マイルずつなのに増分を10マイルにしたら、捜索できない隙間ができてしまう。

それに、消息不明機の捜索では海面を目視捜索することになるだろうから、そんなに高度を高くとることはできない。すると見通せる範囲が少なくなるから、個々のレグをむやみに長くはできない。

もう1つ、平行航跡捜索という方法もある。こちらはまさに雑巾掛けと同じ理屈で、捜索対象範囲の端から順に、東西、あるいは南北に行ったり来たりする。

こういった捜索パターンを図にした資料を見つけたので、リンクしておく。

SAR PATTERN (神戸大学Webサイト)

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。