エンジンというのは大抵、燃料を燃やすものだから熱が生じる。しかし、温度が上がりすぎると動作に不具合が生じたり、エンジンを構成する素材が熱でダメになったりする。だから、冷やしてやらないといけない。

飛行機のエンジンにも冷却が必要

クルマのエンジンにはラジエーターがついていて、オーバーヒートしないように冷却している。燃料を燃やして発生させた熱のうち一部は、結果的にラジエーターを通じて外に出て行ってしまうことになり、動力を生み出すために使われないことになる。もったいない話だが、致し方ない。

飛行機のエンジンのうち、ガソリン・エンジンやディーゼル・エンジンは、クルマのエンジンと同様に、空冷あるいは水冷式になっている。ではジェット・エンジンはどうかということになるが、これもやはり冷却を必要としている。

ジェット・エンジンは、「コールド・セクション」と「ホット・セクション」に分けられる。前半部の圧縮機は取り込んだ空気を圧縮しているだけで、何か燃えているわけではないので、「コールド・セクション」に分類される。一方、燃焼室とその後ろのタービン部分は、燃料を燃やして発生させた燃焼ガスが通る部分で、こちらが「ホット・セクション」に分類される。

問題は後者である。ジェット・エンジンの性能を測る指標の1つにタービン入口温度というのがあって、要は、タービン部に入る直前の燃焼ガスが何度ぐらいになっているかという話だ。これが大体1000~1500度ぐらいになる。タービン部を構成する部品は、その高温に耐えられないといけない。

特にタービンの羽根(ブレード)は、高温に強い合金素材が必需品になっている。そこで使用する合金素材では、ニッケルやコバルトが多用される。ブレードは鋳造によって作られるが、製造工程に工夫をして、強度上の隘路になる結晶構造の境目ができるだけ生じないようにする、といった工夫もしている。それでも、素材単独での耐熱限界は1000度をいくらか上回る程度だという。

しかも、タービンは高速で回転するから、熱に耐えるだけでなく、高速回転によって生じる遠心力にも耐えなければならない。そして、回転する際にバランスが崩れると振動の元になるので、重量のバラツキが生じないようにする必要もある。

さらに、形状を決める段階で空力的な問題も関わってくる。当然、コンピュータを駆使して構造解析や流体解析を行い、しっかりと設計を煮詰めてから試作に進む必要がある。確かに、エンジンをテストする時は「壊してナンボ」だが、それは基本的な設計が固まった後の話。形状を決める段階から実物を作って試行錯誤を繰り返していたのでは、時間も費用もかかりすぎる。

ブレードを冷却する方法

さて。素材の工夫によって熱に耐えられるようにすることも必要だが、それとて限界はある。そこで、ブレード自身を冷却する必要もあるが、どこからどうやって冷やすかという問題がある。燃焼ガスが通過するただ中にブレードがあるのだから、外部から冷却するわけにはいかない。

そこでどうするかというと、ブレードの中に空気が通る流路を作る。付け根の部分からブレード内部に冷却用の空気を送り込んで、それがブレードを冷やす仕組みだ。だから、タービン・ブレードはムクの金属ではなくて、内部に空洞がある。

冷却に使用する空気は、圧縮機からくすねてきた高圧の空気である。圧縮した分だけ温度が上がっているが、それでもタービン部の燃焼ガスに比べれば温度は低いから冷却に使える。それに、圧力が高いということはそれだけ密度が高いということだから、冷却の効率は良くなりそうだ。

タービン・ブレードの内部を通って冷却する際に熱せられた空気は、再びブレードの付け根から外に出て行くこともあれば、ブレードの表面に開けられた小穴から外に出ることもある。後者の場合、その空気がブレードの表面を流れることで、外から冷やす効果と、燃焼ガスの熱から保護する効果を期待できる。

たまたま、タービン・ブレードの内部構造や表面の小穴がよく分かる図面と写真が載っている文書を見つけたので、リンクを張っておこう。以下のPDF文書の2ページ目だ。

民間航空機用エンジンの使用済みタービンブレードにおける内部クラック分布と組織変化の観察(日本金属学会誌 第71巻 第11号)

なお、冷却が必要になるのは高温にさらされるタービン・ブレードだけで、圧縮機側のブレードは内部に空気を通して冷却しなければならないほどの高温にはならない。だから、こちらはムクの金属素材でも済むわけだが、重量バランスの厳密さが求められるのは同じだ。もちろん、そうした要求条件を満たした上でのことだが、傷んだブレードを修理して再使用することもあるそうだ。

ブレードに穴を空ける加工

さて。その冷却用空気の流路をどうやって作るのか。タービン・ブレードは鋳造だから、内部に空洞ができるような「型」を造り、そこに素材となる溶けた金属を流し込んで固めれば済みそうだが、そう簡単な話でもない。特に、小穴を開けて空気を表面に吹き出させようとしたときには、多数の小穴を用意しなければならない。

日本で、短距離離着陸実験機「飛鳥」を製作した時、エンジンは国内開発品のFJR710を使用した。そこで使用するタービン・ブレードを製作する過程で、この穴空けをどうするかという話が出てきた。検討の結果、ブレードを鋳造した後でひとつずつ穴を開けたそうである。その直径は0.4~0.8mm。深さは35mm。

ただし、当時の技術ではレーザーだと能力が足りず、放電加工だと穴がきれいに開かないということで、電解を使用したそうだ。つまり、穴の場所に細い針を当てて塩溶液を注入して、ブレードを構成する金属素材を少しずつ溶かして穴を掘っていくのだ。最初は1つの穴を開けるだけで数時間かかり、それを1つのブレードについて何回も繰り返したという。それでようやくブレードが1つできるのだから、気が遠くなる。

ジェット・エンジンを構成するパーツの中でも、特にタービン・ブレードはある種の白眉と言える。ただでさえ、複雑な形状を持っているものを精密に鋳造しなければならないのだから高い技術力が求められるが、さらに穴開けとか素材の改良とかいった話も関わってくるからだ。

近年、ジェット・エンジンでも国際共同開発の場面が増えているが、そこでホット・セクションを受け持てるかどうかは、メーカーの技術力あるいは技術力がどこまで評価されているかを推し量る指標になる、と言える。

コールド・セクション側であれホット・セクション側であれ、実際にエンジンで使われているブレードの現物を見ると、ある種の美しさを感じてほれぼれする。

ボーイング787が搭載するGEnxエンジンを正面から見たところ。微妙な曲線を描くファン・ブレードの美しさを御覧あれ