これまで、航空交通管制(ATM : Air Traffic ManagementまたはATC : Air Traffic Control)に関わる話題を取り上げてきた。管制官が指示する項目の1つに、経由する誘導路、離着陸に使用する滑走路がある。

同じ「経路」絡みの話ということで、空に上がった後の話も取り上げてみたい。初回となる今回は、滑走路や誘導路の名前の話を。

滑走路と誘導路のお名前

滑走路は番号が付いていて、磁方位の上2桁を使用する。340度のほうを向いた滑走路なら「34」だ。ちょっと格好をつけると「R/W 34」などと書く(R/W = Runway)。

大抵の滑走路は双方向の利用が可能で、風向きに応じて使い分けるので、双方向に番号が付く。離着陸とも向かい風が基本だから、風向きに合わせて使用する向きが変わる。

その数字は滑走路の手前側の端辺りに大書してある。便利なもので、インターネット上で提供されている地図サイトの航空写真を見れば、容易に確認できる。

例えば、羽田空港のD滑走路は、北東向きに使う場合は「05」、南西向きに使う場合は「23」である。ただしこの滑走路、「05」は離陸専用、「23」は着陸専用である。神戸空港も同様に、完全な双方向にはなっておらず、常に西側から出入りする。これらは、近隣にある施設や空港との絡みによる制約だ。

では、同じ向きの滑走路が複数ある場合はどうするか? その場合、左側は「L」、右側は「R」をつけて区別する。羽田空港だとA滑走路とC滑走路がそれで、A滑走路は「34L」または「16R」、C滑走路は「34R」または「16L」である。方向が変わると左右の関係も逆転するので、こうなる。

では、滑走路が3本平行していたら? そんな空港があるのかというと、ある。例えば、シンガポールのチャンギ空港がそれで、その場合は真ん中の滑走路に「C」がつく。北向きなら「02L」「02C」「02R」が並ぶ。

さらに意地悪をして、滑走路が4本平行していたら、どうなるか? そんな空港があったかいな、ということで思い出したのが、2016年に訪れたダラス・フォートワース空港。ここは、北向きだと、ターミナル西側の2本が「36L」「36R」、東側の2本が「35L」「35R」となっている。角度が10度も異なるようには見えないのだけど。

ロサンゼルス空港も4本の平行滑走路があるが、こちらは東西方向。西向きだと、ターミナルビル北側の2本が「24L」「24R」、南側の2本が「25L」「25R」となっている。こちらも、角度が10度も異なるようには見えないのだけど。

では誘導路はどうか。一般的にはアルファベット1文字のようだ。ただ、大きな空港になると数が増えてアルファベット1文字では足りなくなるから、数字をつける。誘導路の入口にはそれぞれ、その誘導路の名前を記した標識がある。

  • 伊丹空港の滑走路32L手前にある、誘導路「W1」を示す標識

  • こちらはロサンゼルス空港のもの。滑走路については、6R-24L、つまり双方向の番号を記してある

  • これもロサンゼルス空港。誘導路の路面に、その先にある滑走路の番号を大書してある

エンルートの飛行経路

滑走路や誘導路は物理的な制約要因だから、そこから外れることはできない。では、物理的な「道」がない空の上はどうか。

超短波全方向式無線標識(VOR : VHF Omnidirectional Range)、距離測定装置(DME : Distance Measuring Equipment)、無指向性無線標識(NDB : Non-Directional radio Beacon)といった無線航法援助施設に頼る場合はわかりやすい。

無線航法援助施設がある場所を基準にして、それら同士を結ぶ形で「道」をつけることで解決できる。飛ぶ側にとっても、無線航法援助施設に向かえばいいのだな、となるのでわかりやすい。

しかし、近年では機上の測位手段が進化して、確実に高精度の測位ができるようになってきた。そこで、広域航法(RNAV : Area Navigation)という考え方が出てきた。

無線航法援助施設に頼る場合、それらを結ぶ線上に乗るので、トラフィックが多いと渋滞が起きる。そして前後に一定のセパレーションをとらないといけないから、同じ高度をとれる機数は限られることになり、結果として高度の奪い合いが起きる。

そこで、無線航法援助施設を結ぶ線に制約されず、自機で測位した結果に基づいて自由に経路を設定できれば、空域を有効利用できるし、目的地までの最短経路をとることもできる理屈となる。

ただし実際には、完全にフリーダムというわけでもなくて、「ある程度の決まったルートがあって、その範囲内で選択の幅を拡げる」という形になっているようだ。それに、完璧に信頼できる高精度の測位手段がなければ、理想通りのRNAVは実現しがたい。

入ってはいけない場所

つい「広い大空を自由に飛んで……」などと書きそうになるが、空というのは広いようでいて狭い。例えば、民航機が行き来する場所と、自衛隊機や米軍機が訓練空域にしている場所は分けてある。安全のためである。

しかし、軍の飛行場も同じ陸上にあるから、そこと訓練空域の間を行き来する経路が必要になる。そこで、軍用機が訓練空域に向かうための回廊(コリドー)を設定したり、軍民の管制官が互いに情報をやりとりして調整したりしながら、衝突を防いでいる。

相手が無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)でも同じこと。例えば、横田基地に米空軍のRQ-4グローバルホークが展開したときには、地上の管制ステーションに陣取ったオペレーターが、必要に応じて日本の民間航空管制当局とやりとりしていたという(報道公開の時に訊いたら、そういう返事だった)。

ただし現状では、UAVが自由に飛べる空域と民間機が飛べる空域は分けてある。民間との関わりが生じるのは、そこまで行き来する過程の話。同じ空域に民航機もUAVも混在できるようにするための研究開発はなされているが、まだ進行中である。

このほか、軍が専有していて民間機が立ち入れない空域もある。アメリカだと、例えばネバダ州の北半分はそんな場所だらけだ。うっかり立ち入れば無線で退去を求める警告が飛んでくるし、それでも引き返さないと……

こうした恒常的な制限なら、航空路図(チャート)に書いておくことができる。例えば、軍の訓練空域は出入り禁止だし、石油化学コンビナートや原子力発電所の上空は避けたほうがいい。こういう情報はチャートに載っている。