弊社IASでは、世界中で毎月何兆ものデジタル広告配信におけるデータを計測し、世界のメディア品質動向としてリアルタイムで計測している。そして1年に2回、世界中のクライアント様をはじめとするデジタル広告に携わる皆様のお役に立てればと、各国の計測マーケットごとにベンチマーク指標をMedia Quality Reportとして発表している。
手前味噌な前置きが長くなったが、今回はそのMedia Quality Reportから見える、日本国内の最新の状況についてお話する。
「配信状況の品質」を定める3つの指標
まず「Media Quality=メディア品質」の定義について説明する。ここでいう「メディア品質」は単純な媒体の「質」ではなく、「広告配信が行われている配信面の品質」という意味で使用する。よって、日本を代表するデジタルメディアの品質の高さ・低さではなく、その他多くの有象無象にある品質の保証がない個人サイト、違法サイト、ブログ、まとめサイトなども含めたものが、「配信状況の品質」の平均値になる。
「配信状況の品質」を定める主な指標としては、以下の3つがある。
- ブランド毀損につながる粗悪な面に配信されていないか(ブランドセーフティ)
- 人以外のボットなどでインプレッションやクリックが偽装されてないか(アドフラウド)
- 人に見られる可能性がある枠に配信されているか(ビューアビリティ)
広告は、広告主にとって安心安全でブランドイメージを損なわない面にきちんと配信され、人が広告を目視できる状況にあって初めて、価値を発揮できる状況に置かれるため、これらをもって「配信状況の品質」とされるのだ。
日本のメディアクオリティとグローバル平均
今回10月に発表された2022年上半期のMedia Quality Reportにおいて、日本のMedia Quality は、グローバル平均と前年同期と比べると以下のようになっている。
各指標において言うまでもなく問題が散見されるが、ここから1つずつ解説していく。
ブランドセーフティ
広告が安心安全な面に配信されているか。公序良俗に反するような面にブランドの広告が配信され、問題となることもまだまだある。第1回でも述べた通り、国内でアドベリフィケーションが大きく話題となるきっかけも、2018年から2019年にかけ、不適切な配信面やアドフラウドへの配信に関する報道が相次いだことに由来する部分が大きい。炎上や企業イメージへの損害も起こり得るため、ブランドにとってこのブランドセーフティを最も気にする広告主も少なくないからだ。
今回、このブランドリスクの平均がデスクトップディスプレイで5.2%、モバイルウェブで6.7%となったわけだが、どちらもグローバル平均、前年同期と比べ、高い水準にあることがわかる。各国と比べてもどちらも群を抜いて1番高い水準にあり、少なければ少ないほうが良いブランドリスクにおいては非常に危惧する状況になっている。
ブランドリスクに関しては引き続きウクライナ問題など、グローバルでも広告主が「リスクあり」として避けたがるコンテンツが急増し、それに伴いブランドリスクが悪化した国も見られる。日本でもウクライナ問題に関する報道など、ブランドリスクが悪化する要因となる報道が相次いだ。しかしながら、その環境下でもグローバル全体では数値が改善している中、日本のブランドリスクが悪化した理由にはなりうる。グローバルと日本の違いの大きな要因は、ブランドリスクに対する対策にある。
グローバルではアドベリフィケーションのツールを用いて配信時や入札時にブランドリスクを効率的、効果的に除外していく方法が主流となっている。だが、日本国内ではセーフリストやブロックリストの利用が主流で、ドメインスプーフィングなどの配信面の偽造行為もあり、問題の対策として無効化されてしまうことが多い。よって同じリスクが上昇し得る状況においても、グローバルでは効果的な対策によりリスクを抑え込めている中で、日本はそのまま配信面へのインパクトが見られるのだ。
アドフラウド
広告が消費者に閲覧されることの大前提として、まず消費者、実際の人間に届かなければならない。アドフラウドは「広告詐欺」とも言われ、国際的な犯罪組織の収入源にもなっており、毎年多額な被害額が報告されている。欧米などではこれを「社会悪」と断定し、アドベリフィケーションなど、テクノロジーを使ったアドフラウド対策が進んでいる。
そんな状況の中、日本のアドフラウドの数値は2017年より年々悪化傾向にある。今年はデスクトップにおいてはシンガポールに続き2番目、モバイルウェブにおいてはドイツに続き2番目に問題が大きい国になっており、モバイルウェブでは減少したものの、デスクトップディスプレイでは増加している。
国内のアドフラウド問題に関しては、詐欺が狙うメリットが大きい日本の広告予算の規模やアドベリフィケーションをはじめとするフラウド対策の導入の遅れなどが毎年挙げられる。今年はさらにブロックリストやセーフリストの利用が増えたことが一部起因している。
JICDAQなどの影響でブランドリスクやアドフラウドの問題が水面化した反面、特にブランドリスクにおいては、前途の通りセーフリストやブロックリストの利用が主な要因となっている。これらはブランドリスク対策として効果が期待できないだけではなく、リストによって絞られたドメインに対して変わらぬ入札を生むことによって発生する隙間を埋めるようにアドフラウドが増えてしまう。結果としてブランドリスクは減らず、アドフラウドが悪化してしまうという元も子もない状況が発生している。
ビューアビリティ
広告はもちろん、見られなければ効果を発揮することはできない。その「見られる可能性があったか」を図る「ビューアビリティ」は、欧米などでは広告配信の重要なKPIとして挙げられ、当然それに応じて各国のビューアビリティの平均は年々上がっている。日本においては、残念ながら横ばい傾向が続いていたが、今年は昨年に比べ大きく下向し、グローバル平均より大幅に低く、IASの計測対象国の中で唯一50%を下回る国となってしまった。
特にデスクトップディスプレイに関しては各国がビューアビリティの水準を上げている中、日本は大きく下がってしまったのだが、この要因にもアドフラウドで挙げたリスト運用の多様が関係している。
日本の広告配信の現状
リストを利用することにより入札の候補は絞られる。業界全体でブランドリスク対策としてリスト運用が広まると有限の「優良」なサイトに入札が集中するが、インプレッションやクリック単価を引き続き低く保とうとすると、そこにまた歪みが生まれる。どのサイトにも高額で掲載位置が高い、ビューアビリティの良い枠と低額で掲載順の低い、ビューアビリティの悪い枠があるが、この歪みを解消すべく、後者への入札が増えてしまう。そして結果としてリストを多用することにより、ビューアビリティが下がってしまうという悪循環が発生するのだ。