前回は「会議室の換気タイミングをチェックしたい」というお題に対して、温度、湿度、CO2を計測するセンサーを使って、室内の空気の状況を把握する方法を紹介しました。このシステムは、会議室のようなオフィススペースはもちろん、店舗やレストランなどの商業施設や、倉庫や工場など温度・湿度管理を要するさまざまなケースに応用できます。

前回までは屋内でのIoT活用に目を向けてきましたが、IoTは屋外でも役立ちます。そこで第5回となる今回のテーマは「車両のトラッキング」です。例えば、倉庫から荷物を運ぶトラックが、いつ頃目的地に到着するのかを知りたい場合、どのようにIoTを使えばよいでしょうか。一緒に考えていきましょう。

「今どこにあるか」をリアルタイムで知る、モノの追跡

位置情報の活用の身近な例としては、スマートフォンの「地図アプリ」を思いつく方も多いのではないでしょうか? 地図アプリを開くと、リアルタイムで自分の現在地が表示されます。これは、後述するGPSという衛星システムを利用した位置測位を利用しています。

この仕組みは“モノ”にも応用可能です。例えば、営業車やタクシー、トラックのような車両に活用すると、車両の位置を把握できます。車に「トラッカー」と呼ばれる位置情報を取得できるIoTデバイスを搭載し、数秒おき、数分おきに位置情報を取得することで、車両管理や管理の改善に役立てられます。

モノの位置情報を取得する方法

では、今日のお題です。あなたは入庫担当で、工場から届く荷物を受け取る必要があります。しかし、交通状況は日々変わるため、トラックの到着時刻をある程度予測したいと考えています。

リアルタイムでトラックの位置情報を知るには、どのような方法があるでしょうか?

位置情報を知る方法として、屋外では「GPS」を使った位置測位が一般的です。GPSとは、全地球測位システム(Global Positioning System)の略で、米国で開発されました。スマートフォンの位置情報の把握や、カーナビなど、今では世界的に使われている位置情報システムです。仕組みとしては、人工衛星から発信される電波を受け、その距離・位置・時刻などのデータから位置測位を行います。GPSを受信できるデバイスやモジュールは比較的安価で利用しやすいというメリットがある一方で、精度に誤差が出ることがあり、利用用途によってその精度を上げるための開発が必要になることがあります。

日本版GPSとも言われる準天頂衛星システムが「みちびき」です。GPS同様、測位したいモノに、受信できるデバイスを取り付けることで利用できます。準天頂軌道の数台の衛星、およびGPS衛星も含め数台の衛星のデータを使うことで、対応している受信モジュールによっては数センチメートル単位での位置測位が可能とも言われており、より高精度な位置測位を実現します。

GPSやみちびきといった人工衛星を利用した位置測位は、屋外での利用に向いており、今回のテーマにも合っています。屋内ではその性格上、精度が低くなることからWi-Fiやビーコンなどの補助情報と併用することになりますが、別途対応する仕組みが必要になることを覚えておくと良いでしょう。

  • 左:マイコンと接続して利用する「 Grove - GPS 」、中央:筐体内に温度湿度センサーが組み込まれている「GPSマルチユニット SORACOM Edition」、右:車のシガーソケットに挿して給電・利用できるGPSトラッカー「RT299」

IoTで荷物を追跡する仕組み

まず、用途に合わせてIoTデバイスを用意します。GPSトラッキング専用のIoTデバイスを選択する方法が一番簡単です。また、食料品などを運ぶ際は、位置情報だけではなく温度・湿度も一緒に計測することもあります。こうしたケースに対応するものとして、GPSと必要なセンサーがパッケージになったようなデバイスも市販されています。市販のデバイスで用途に合うものがない場合は、マイコンにGPSを含め、必要となるセンサーを組み合わせて開発する方法もあります。

また、移動体の位置情報トラッキングをする際に最初に検討すべき項目の一つが「給電方式」です。位置情報は常に変わり続けるデータであり、その送信回数に応じて電力を消費します。バッテリー内蔵型のデバイスは、定期的な充電が可能な場合は便利に使えます。また、車体から電力を供給するという手段もあるでしょう。シガーソケットから給電するか、もしくは配線することで車からの給電が可能ですが、この場合は車のエンジンがかかっていない場合は計測が止まってしまうことを頭の片隅に入れておいてください。

今回は、移動中だけGPSによる位置情報を取得できれば良いので、むしろ設置の簡便さを優先し、シガーソケットに挿して給電できるタイプのGPSトラッカーを使うことにします。

次にトラッカーから位置情報を送信するタイミング、間隔を設定します。専用のGPSトラッカーの多くは、マニュアル通りに設定すればその送信間隔を設定できますが、プログラムで制御する場合は、プログラムの中にそれらの指示を記載する必要があります。例えば、「GPSのデータを取得し、1分ごとにサーバやクラウドに送信」といった具合です。

ちなみに適切な送信間隔としては、「物体の予想される平均的な移動速度」が一つの目安になります。自動車が一般道を移動する場合の平均速度は20~30km/hで、1分当たり350m~500mです。バッテリー内蔵型デバイスを利用している場合、これよりも粗い情報でもよければ、送信間隔をあけることで消費電力を抑えたりすることもできます。

そして、ネットワークです。移動中の車体のデータを計測するには、セルラー通信を選択します。スマートフォンと同じ長距離無線通信なので、場所を移動しても、最寄りの基地局を経由してインターネットに接続し続けることが可能です。

クラウド側には、データを取得した日時ととも位置情報を格納します。地図上に移動中のデータを表示することで、リアルタイムの位置情報を閲覧できます。

入庫担当として、「トラックが店舗に近づいたら通知する」という仕組みを作る場合は、加えて「ジオフェンス」を追加すると良いでしょう。ジオフェンスでは、例えば「店舗から1km圏内」といった具合に仮想的に境界線を引き、その枠内に入ったときに通知する仕組みなどを作ることができます。

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今回は、倉庫から店舗に向かっているトラックの位置情報を把握する方法について考えてみました。GPSのように他の技術と組み合わせることで、IoTの活用の幅が広がることがおわかりいただけたのではないでしょうか。

次回は、「IoTで紛失防止タグを実現する」仕組みとアイデアについて考えます。

さらに詳しく!

今回の仕組みは、以下の3点を用意することで実現できます。

  1. GPSトラッキングができるIoTデバイス
  2. 移動中の車両からデータを送信するためのセルラー通信
  3. 位置情報を表示したり通知したりするためのアプリケーション

使うセンサーを絞り込んだら、ぜひ実際にシステムを作って試してみることをお薦めします。実際に試して調整することで、より目的に合ったセンサーをさらに絞り込むことができます。

具体的な開発手順を詳しく知りたい方は、ソラコムが無料で公開しているSORACOM IoT DIY レシピ「IoTで車両のトラッキングがしたい」を参考にしてください。

レシピでは、今回紹介したGPSトラッカーを利用して、車両の位置情報をトラッキングするIoTシステムを作る手順をより詳細に説明しています。レシピをご覧いただいて、まず自分で手を動かして作ってみることもできますし、理解が難しい部分があれば自社のシステム部門やエンジニアに相談することも選択肢になります。