近年、換気の重要性が注目を集めています。商用施設やレストランのような場所はもちろん、ビジネスシーンでも人が集まる会議室や食堂、オープンスペースのような場所では、空気の状態をモニタリングしたいというニーズが少なからずあるはずです。

そこで、今回はIoTを活用して「空気のモニタリング」を実践してみます。

会議室を換気するタイミングを見計らいたい

では、今日のお題です。あなたは総務担当で、会議室を換気するタイミングを見計らいたいとしましょう。定期的に現場に赴いて確認するのではなく、リアルタイムで「空気の状態」を計測・数値で把握し、必要に応じてアクションを取りたいと考えています。

では、空気の状態とは具体的に何が計測できれば良いのでしょうか? 対象としては、以下のような項目が考えられます。

◆温度

温度の変化を記録することは、空調の効果を把握したり、予期せぬ熱中症などのリスクを低減したりする上で役立ちます。

◆湿度

湿度は蒸し暑さなどを感じさせる要素です。室内で高湿度が続くと不快感が増すだけでなく、カビの発生、さらには設備の故障などのリスクが高まります。

◆二酸化炭素(CO2)

室内のCO2濃度が高まると、室内にいる人の集中力低下や、頭痛などにつながることがあります。

◆気圧

気圧の急激な変化は、体調不良につながることがあると言われています。

◆PM2.5

「PM」とは、「Particulate Matter(粒子状物質)」の頭文字をとったものです。工場のばい煙や自動車の排気ガスに含まれるほか、燃料の燃焼によって排出される化合物が大気中で光やオゾンと反応して発生するケースもあり、呼吸器系への影響があると言われています。

◆総揮発性有機化学物(TVOC:Total Volatile Organic Compounds)

ホルムアルデヒドなど、シックハウス症候群を起こすと言われている13の有害物質の総称です。

上記のなかから計測したい項目を満たすセンサーデバイスを選択します。センサーには、筐体に複数のセンサーが搭載されているセンサーユニットや、通信機能付きセンサーなど、さまざまな種類があるので、用途に応じて扱いやすいものを選ぶと良いでしょう。初めて使う場合は、センサーユニットがお薦めです。

センサー

(左から)マイコンと接続して利用する「GROVE - デジタル温度・湿度センサー」、筐体内に温度湿度センサーが組み込まれている「GPSマルチユニット SORACOM Edition」、CO2濃度と温湿度の計測に対応する「RS-LTECO2」

会議室の空気の状態をモニタリングする仕組み

まずは計測する対象(場所)から、計測が必要な項目を絞り込みます。例えば、商業施設や店舗などでは温湿度とCO2濃度、工事現場では追加でPM2.5を計測するケースが考えられます。計測が難しい項目を選んだり、精度の高さを追求したりすると、その分センサーの価格も上がる点は考慮してください。

今回の目的は換気するタイミングを計ることなので、温度、湿度、CO2濃度を計測します。これらを計測できるセンサーを設置し、10分おきに計測してクラウドにそのデータを保管することに加え、管理者が時系列のグラフでデータを閲覧できるシステムを作ってみたいと思います。

初めに、会議室内部に温度、湿度、CO2濃度を計測できるセンサーを設置します。それぞれを計測できるセンサーをつないでも良いですし、先に紹介したセンサーユニットのように複数のセンサーが1つになったものを選んでも構いません。

なお、計測精度はセンサーによって異なります。試しに1つ購入し、求める精度を満たせるかどうかをチェックしておくと良いでしょう。

次に用意するのはマイコンです。センサーだけを設置しても、データは送信されません。マイコンとセンサーをつなぎ、マイコン側に「センサーの値を取得、10分ごとにサーバやクラウドに送信」というプログラムを書きます。

そして、通信にはネットワークが必要です。会議室のWi-Fiを利用する場合は、設定や利用に関して管理部門と調整してください。セルラー通信(LTE)を利用すれば、会議室のWi-Fi設定が不要になるほか、ネットワーク設備が無い環境でも測定できるようになります。

クラウド側には、計測したデータを計測日時と共に保管し、特定の期間を指定してグラフで閲覧するためのアプリケーションを準備します。

これで、総務担当が、リアルタイムで会議室の空気の状態を把握できるようになります。

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実際に設置してみると、会議している人数の多寡や、会議室のドア・窓の開閉で温度やCO2濃度の数値が変化することがわかるはずです。あまりにCO2濃度が高い日が続くようであれば、しきい値を設けてアラート通知する仕組みを追加しても良いでしょう。

* * *

今回は、会議室を換気するタイミングを見計らうために、会議室内の温度、湿度、二酸化炭素濃度をモニタリングするシステムについて考えてみました。計測したい項目に応じてセンサーを選ぶことで、空気の状態を可視化できることがおわかりいただけたのではないでしょうか。

次回は、「IoTで荷物を追跡する」仕組みとアイデアについて考えます。

さらに詳しく!

今回の仕組みは、以下の3点を用意することで実現できます。

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  1. 温度、湿度、CO2濃度など空気を計測する「センサー」
  2. センサーのデータを送信するための「プログラム」と「ネットワーク」
  3. 部屋ごとの室内の空気の状態を計測して、時系列で記録する「アプリケーション」

使うセンサーを絞り込んだら、ぜひ実際にシステムを作って試してみることをお薦めします。実際に試して調整することで、より目的に合ったセンサーをさらに絞り込むことができます。

具体的な開発手順を詳しく知りたい方は、ソラコムが無料で公開しているSORACOM IoT DIY レシピ「IoTで、CO2と温湿度を計測し換気促進」を参考にしてください。

レシピでは、LTE通信「LTE-M」内蔵のCO2センサーを用いて環境データをクラウドに送信・保存し、それらのデータをビジュアルで把握できるようにするまでの手順が紹介されています。

レシピをご覧いただいて、まず自分で手を動かして作ってみることもできますし、理解が難しい部分があれば自社のシステム部門やエンジニアに相談することも選択肢になります。

著者紹介

Max

株式会社ソラコム
テクノロジー・エバンジェリスト
松下 享平(ニックネーム:Max)

エバンジェリストとして、SORACOMサービスを企業・開発者により理解、活用いただくための講演活動を担当。エバンジェリストとしてのTIPSを紹介するブログも執筆。

最近は、IoTをもっと手軽に使っていただけるデバイスを提供する「SORACOM IoT ストア」にて、IoTで身近な作業を便利に改善する「IoT DIYレシピ」の作成をリード。これからのDXを実現するためのキーテクノロジーであるIoTを民主化し、アイディアとパッションをもつあらゆる人がIoTを使えるようにするべく情報発信を続けている。

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