「Microsoft IME」と「Google 日本語入力」は、どちらも日本語入力を実現してくれるIMEだが、予測入力時や漢字変換時に一覧表示される候補は大きく異なるようだ。そこで今回は、両者の比較実験を行ってみよう。

  • 「Microsoft IME」と「Google 日本語入力」の比較

    「Microsoft IME」と「Google 日本語入力」の比較

なお、予測入力や漢字変換における候補の並び順は「学習機能」によっても大きく左右されるため、今回の実験は“あくまで参考レベル”であることを事前にお断りしておく。

今回の実験では、両者とも「入力履歴を消去した状態」で文字入力のテストを行っている。実際の動作環境では、各自の入力履歴やIMEのアップデート状況に応じて「表示される候補」は変化していく。よって、今回の実験と同じ結果になるとは限らない。むしろ、同じ結果にならないほうが一般的といえるだろう。そういった点も考慮しながら、本記事を読み進めて頂ければ幸いだ。

予測候補(サジェスト)の比較

まずは、タイピング時に表示される「予測候補」の比較・検証を進めていこう。予測入力(サジェスト)として表示される候補の数は、Microsoft IMEが5個であるのに対し、Google 日本語入力は3個に初期設定されている。

  • 予測候補の数(左:Microsoft IME、右:Google 日本語入力)

    予測候補の数(左:Microsoft IME、右:Google 日本語入力)

そこで、Google 日本語入力の候補数も5個に変更した状態で実験を進めることにした。念のため、その設定手順を紹介しておこう。IMEにGoogle 日本語入力を選択する。続いて、「A」または「あ」と表示されているアイコンを右クリックし、「プロパティ」を選択する。

  • Google 日本語入力の設定画面の呼び出し

    Google 日本語入力の設定画面の呼び出し

Google 日本語入力の設定画面が表示されるので、「サジェスト」タブを選択し、サジェストの最大候補数を「5」に変更してから「OK」ボタンをクリックする。これでタイピング時に表示される予測候補数を最大5個に変更できる。

  • 予測候補の数の変更

    予測候補の数の変更

それでは実験を行っていこう。なお、以降に掲載する画像は、左側がMicrosoft IME、右側がGoogle 日本語入力の予測候補となる。

最初の例は「さとう」とタイピングしたときの予測候補だ。両者とも「佐藤/佐藤さん/砂糖」といった、よく使われるであろう単語が予測候補として表示されている。Microsoft IMEには「佐藤様」という候補もあり、人名が重視されている傾向がある。一方、Google 日本語入力には「サトウキビ/さとうきび」といった候補が表示されている。

  • 「さとう」の予測候補

    「さとう」の予測候補

次の例は「かとう」とタイピングしたときの様子だ。両者の相違点を見ていこう。先ほどと同様に、Microsoft IMEの予測候補は「加藤様/加藤先生」など、人名に関連する予測候補が中心になっている。一方、Google 日本語入力は「果糖/加東市/可倒式」といったバリエーション豊かな予測候補になっている。

  • 「かとう」の予測候補

    「かとう」の予測候補

どちらも間違った予測候補とはいえないが、一般的な用途を考えた場合、「サトウキビ」や「可倒式」といった単語を使う機会は比較的少ないと思われる。そういう意味では、人名表記が豊富なMicrosoft IMEのほうに分があるかもしれない。

続いては「でざい」とタイピングしたときの予測候補を比較していこう。どちらも「デザイン」が筆頭候補で「デザイナー」という単語も含まれている。他の候補についても見ていこう。Microsoft IMEには「デザイナーズ/デザインの」といったデザイン関連の用語が表示されている。一方、Google 日本語入力は「Design/design」などの英単語が数多く並んでいる。

  • 「でざい」の予測候補

    「でざい」の予測候補

「すーぱー」とタイピングしたときも似たような傾向が見られた。Microsoft IMEは「スーパー」で始まる単語が提案されているのに対し、Google 日本語入力は「Super/SUPER」といった英単語がサジェストされている。

  • 「すーぱー」の予測候補

    「すーぱー」の予測候補

このようにGoogle 日本語入力は「カタカナ語」を「英単語」にしたがる傾向が見受けられるが、必ずしもそうとは限らない。

次の例は「くらふ」とタイピングしたときの様子だ。両者に共通している候補は「クラフト/クラフトビール」の2つ。続いて、Microsoft IMEには「クラフトテープ/クラフター」などの単語が並んでいる。一方、Google 日本語入力には「クラファン/クラフトコーラ」のように、最近のトレンドを意識した候補が表示されているのが特徴的といえる。

  • 「くらふ」の予測候補

    「くらふ」の予測候補

これまでは“人名にもなる読み”や“カタカナ語”について比較・検証してきたが、もっと一般的な例も紹介しておこう。以下の図は「はじめ」とタイピングしたときの予測候補だ。

  • 「はじめ」の予測候補

    「はじめ」の予測候補

この結果について優劣を決めるのは難しい。似たような例として「よろし」や「おいそ」とタイピングしたときの予測候補も紹介しておこう。

  • 「よろし」の予測候補

    「よろし」の予測候補

  • 「おいそ」の予測候補

    「おいそ」の予測候補

これらも、どちらが優れているかを判断するのは難しいが、一般的な傾向としてはMicrosoft IMEはビジネス向けで長めの単語(フレーズ)、Google 日本語入力はバリエーションが豊富で口語調の単語を提案することが多いように見受けられる。また、「追いソース」のように、こちらの予想の斜め上を行く単語を提案してくるケースもある。

このように、それぞれの予測候補に違いはあるものの、「その優劣を比較するのは難しい」というケースが大半を占める。この記事の前半では少し特徴的な例を示してみたが、一般的な文章に関しては(何が一般的なのかは定義できないが……)、各自の用途や好みに応じて評価が分かれると思われる。

また、予測候補として表示される単語(フレーズ)は、学習機能により少しずつ“自分がよく使う言葉”に変化していくことも考慮しなければならない。入力履歴を削除した状態(学習効果ゼロの状態)というのは一時的なものでしかないため、予測候補の初期値の比較も“あくまで参考”として捉えるのが基本といえるだろう。

読みを間違えやすい単語(もしかして機能)

続いては、少し趣向を変えて、“読み”を間違えやすい単語の入力を検証してみよう。Google 日本語入力には<もしかして>という機能が装備されているため、多少の読み違え(勘違い)があっても問題なく入力できるようになっている。

以下の図は「シミュレーション」を「シュミレーション」と勘違いして覚えていた場合の例だ。「しゅみれー」とタイピングしてもMicrosoft IMEは適当な予測候補を表示してくれない。よって、文字入力を完遂できない。一方、Google 日本語入力では「もしかしてシミュレーションのこと?」といった感じで、いくつかの予測候補を表示してくれる。

  • 「しゅみれー」の予測候補

    「しゅみれー」の予測候補

この<もしかして>機能は、GoogleがWeb検索で培った技術をIMEに応用したものとなる。ほかにも似たような例は沢山ある。

以下の図は「体育館」と入力しようとした例だ。「体育館」は“たいくかん”と発音することが多いが、正確な読みは“たいいくかん”となる。このため、「たいくかん」とタイピングしても求めている予測候補は表示されない(Microsoft IMEの場合)。一方、Google 日本語入力では「もしかして体育館では?」という予測候補を返してくれる。

  • 「たいくかん」の予測候補

    「たいくかん」の予測候補

明らかな読み間違いにも対応している。以下の図は「凡例」を間違って「ぼんれい」と読んでしまった例だ。Microsoft IMEは、これといった予測候補は表示されない。一方、Google 日本語入力では、そのまま「凡例」を入力することが可能となっている。

  • 「ぼんれい」の予測候補

    「ぼんれい」の予測候補

このように“読み違い”や“勘違い”にも対応できるのがGoogle 日本語入力の強みといえる。ただし、それにも限界はある。以下の図は「手持ち無沙汰」を勘違いして“てもちぶたさ”とタイピングした例だ。この場合、両者とも適切な予測候補は表示されない。

  • 「てもちぶたさ」の予測候補

    「てもちぶたさ」の予測候補

Google 日本語入力は候補が1つしか表示されていないので、「Tab」キーを押して予測候補を追加表示した例も紹介しておこう。候補を増やしても“ぶたさ”の表記が変化するだけで、いずれも意味不明なフレーズが並ぶ結果になってしまう。

  • さらに予測候補を表示した様子(Google 日本語入力)

    さらに予測候補を表示した様子(Google 日本語入力)

このように、必ずしも間違いを修正してくれるとは限らないが、<もしかして>機能が便利な機能であることに変わりはない。よって、この点においてはGoogle 日本語入力のほうが優秀といえる。

少しユニークな例として、「過不足」という漢字を入力するときの例も紹介しておこう。「過不足」の正確な読みは“かふそく”となるが、誤読である“かぶそく”も広く世間に浸透している。こういった単語はMicrosoft IMEでも問題なく入力できる。一方、Google 日本語入力では、<もしかして>機能の対象になっている。

  • 「かぶそく」の予測候補

    「かぶそく」の予測候補

最近は、“かふそく”だけでなく、“かぶそく”の読みも掲載している辞書(※)があるようで、十分に普及してしまった単語は、誤読であっても正しく入力できてしまうケースがあるようだ。

(※)IMEのシステム辞書ではなく、一般的な「紙の辞書」や「電子辞書」のことを指している。

最新の用語、流行語への対応

最新の用語や流行語に強いこともGoogle 日本語入力の特長とされている。いくつか例を紹介しておこう。

最初の例は、EXPO 2025 大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」を入力しようとした例だ。Microsoft IMEには「脈々と」などの予測候補が並んでいるが、カタカナの「ミャクミャク」は見当たらない。一方、Google 日本語入力では2番目の予測候補に「ミャクミャク」が表示されている。

  • 「みゃくみゃく」の予測候補

    「みゃくみゃく」の予測候補

“短期間に転職を繰り返す人”を指す「ジョブホッパー」、消費者が生産者へ製品を返品(回収)する“通常とは逆方向の物流”を指す「リバースロジスティクス」も同様だ。Microsoft IMEは適当な予測候補を表示してくれないが、Google 日本語入力なら問題なく入力を完遂できる。

  • 「じょぶほ」の予測候補

    「じょぶほ」の予測候補

  • 「りばーすろじ」の予測候補

    「りばーすろじ」の予測候補

なお、Microsoft IMEもクラウド候補をオンにすることで、最新の用語に対応できるケースもある(クラウド候補の設定方法については本連載の第8回を参照)。ただし、予測候補が表示されるまでにタイピングする文字数が「Google 日本語」より若干多い傾向があるようだ。

  • クラウド候補をオンにした場合(Microsoft IME)

    クラウド候補をオンにした場合(Microsoft IME)

漢字変換時に表示される候補

最後に、漢字変換時に表示される候補について比較・検証しておこう。以下の図は「さいこう」とタイピングして「Space」キーを押した様子だ。両者とも「最高」を筆頭に、読みが“さいこう”になる漢字が一覧表示されている。並び順に違いはあるものの、どちらも妥当と思われる範囲内で変換候補が表示されている、といえるだろう。

  • 「さいこう」の変換候補

    「さいこう」の変換候補

「しかい」を漢字変換した例も紹介しておこう。それぞれの第1候補は「司会」と「視界」で異なっているが、おおむね「よく使用される単語」ほど上位に並んでいると考えらえる。

  • 「しかい」の変換候補

    「しかい」の変換候補

「かてい」を漢字変換した様子も大差はない。どちらも「家庭→過程→課程→……」という並び順になっている。ちなみに「仮定」の漢字は4番目の候補になっている。

  • 「かてい」の変換候補

    「かてい」の変換候補

実際に文章を入力するときは、もう少し長くタイピングしてから漢字変換するケースが多いだろう。この場合、前後の文脈も参考にしながら漢字変換が行われる。よって、さらに差のない状況になる。

以下の図は「もしもよさんがあったとかていすると」とタイピングしてから「Space」キーを押した様子だ。変換結果はどちらも同じ。先ほど4番目の候補になっていた「仮定」が正しく選択されている。このように長文になればなるほど、両者の差は小さくなっていく。

  • 文章を変換した様子

    文章を変換した様子

両者に大きな差が生じるのは予測入力(サジェスト)として表示される候補だ。しかし、これも文字入力(学習)を繰り返していくうちに、各ユーザーの趣向に合わせた候補に変化していくはずである。この学習機能について両者の比較実験を行うのは非常に難しい。

よって、最終的には、各自で実際に試してみるしか比較のしようがないと思われる。初めてGoogle 日本語入力を使用するときは多少の“使いづらさ”を感じるかもしれないが、それは学習効果がゼロであることに起因している。十分に学習を重ねたMicrosoft IMEと比較するのは酷な話だ。そういった点も考慮しながら、少しずつGoogle 日本語入力を試してみるとよいだろう。