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約4万年前から1万8,000年前にかけての全球平均海面水位の変動史(単位:m)。濃い青色の線は全球平均海面水位(青色の網掛けは95%信頼区間)を、破線は全球平均海面水位の変動史における5つの期間の境界を示す。略語は、LD:最終退氷期、LGM:最終氷期最盛期(最新研究に基づきLGM-aとLGM-bに区分)、MIS3:海洋酸素同位体ステージ3 (出所:FPUニュースリリースPDF)
今から約4万〜3万年前の地球全体の平均海面水位は、現在を基準とすると約101〜119m低く、約3万5,000年前から急激に低下していき、最も寒さが厳しかった「最終氷期最盛期」に突入したことが明らかになった。福井県立大学、琉球大学、東京大学、名古屋大学、九州大学、東北大学の6者が10月16日に共同発表した。
この研究成果は、福井県立大 恐竜学部の藤田和彦教授(元・琉球大 理学部所属)、琉球大 大学院理工学研究科の仲田潮子大学院生(研究当時)、同・柳岡範子大学院生(研究当時)、東大 大気海洋研究所の横山祐典教授、同・宮入陽介特任助教、名大大学院 環境学研究科のHumblet Marc准教授、九大大学院 比較社会文化研究院の菅浩伸主幹教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、地球・惑星科学を扱う専門論文誌「Earth and Planetary Science Letters」に掲載された。
過去の平均海面水位から分かること、その推定における課題
地質学的には、現代は「(新生代の)第四紀」という時代であり、約258万年前から始まり、相対的に寒冷な「氷期(氷河期)」と相対的に温暖な「間氷期」とが約4万年や約10万年の周期で繰り返されてきた(現在は第四紀の中の「完新世メガラヤン」で間氷期)。
氷期には地球上の高緯度地域で氷床や氷河が拡大し、その結果海水の量が減って海面水位が低下する。一方、間氷期には氷床や氷河が融解し、その分だけ海面水位が上昇する。このように気候の変動と地球上の氷の量と海面水位の高さには密接な関係がある。
しかし、過去の氷床や氷河の発達規模・量に関する直接的な記録は限られるため、より詳細な記録が残るサンゴ礁や深海底の堆積物に含まれる化石の「酸素同位体比」から過去の海面水位を復元し、当時の氷床・氷河量を推定する必要がある。
なお、酸素同位体比とは、存在率が圧倒的に高い酸素16(16O)と存在率が極めて低い酸素18(18O)の比率(18O/16O)のことで、深海堆積物中の化石の酸素同位体比から当時の海水の酸素同位体比がわかり、そこから当時の氷床量や全球平均海面水位を推定することが可能だ。
最終氷期は今から約11万年前から約2万年前まで続き、中でも約3万年前から約1万7,000年前には氷床や氷河が最も発達し、「最終氷期最盛期」と呼ばれている。さらにそれ以前の約5万7,000年前から約3万年前までの「海洋酸素同位体ステージ3」は、どのように氷床や氷河が発達して最終氷期最盛期に突入したのかを明らかにする上で重要な時期とされる。
高緯度地域における当時の海岸線や氷床分布域に関する最近の研究では、約5万〜4万年前には氷床が少なく、海面水位が高く、その後急激に低下していくことが示されたが、この見解は従来のサンゴ礁や深海底堆積物に基づく海面水位記録とは一致しないことが課題だった。
そこで研究チームは今回、2010年にオーストラリアのグレートバリアリーフの沖合で実施された統合国際深海掘削計画(IODP)第325次航海で掘削された多数の柱状堆積物コア試料を詳細に調べることにした。
今回の研究成果
今回の研究では、コア試料に含まれる殻を持つ単細胞生物「有孔虫」(星砂の仲間)の化石が注目された。有孔虫は殻がそのままの形で化石として残りやすく、形態の差異から種を識別することが可能だ。また、サンゴ礁域に分布する有孔虫は光合成をする微小な藻類と共生しているため、水深に伴う光量や栄養塩濃度の変化に敏感で、種類により生息する水深が異なる。
まず、この有孔虫化石の種構成から当時の水深を復元し、同化石の放射性炭素年代測定により地層の年代が特定された。続けて、これらのデータから統計学的手法により、当時の相対的海面水位(地域的な海面水位の変化)が復元された。加えて、氷床量と海水量の分配の変化に伴う表面荷重変化(ハイドロアイソスタシー)や堆積物の荷重による変化を補正し、地球全体の平均海面水位(全球平均海面水位/汎世界的海面水位)の復元に成功した。
その結果、海洋酸素同位体ステージ3の後期から最終氷期最盛期にかけて(約3万9,000年前〜1万8,000年前)の全球平均海面水位の長期的な傾向が判明。特に、約3万9,000年前から約3万年前にかけての連続的な全球平均海面水位記録は世界初であり、当時の全球平均海面水位は現在を基準として-101mから-119mまでの範囲にあったことが導き出された。
この時期の全球平均海面水位は徐々に低下していく傾向を示すが、特に約3万5,000年前から2万8,000年前までの約7,000年間に低下の傾きが大きくなり、海面水位が約17m低下した。このことは当時、北半球の高緯度を中心とした氷床の発達が加速したことを意味するという。
今回の研究対象は、現代の地球温暖化とは真逆の「地球寒冷化」だが、温暖化と無関係ではないとする。温暖化の将来を予測するには、その予測モデルやシミュレーションの基礎データとなる過去の正確な観測値が必要だ。気候が大きく変化する時期である海洋酸素同位体ステージ3や、気候の極限状態である最終氷期最盛期をモデルがどの程度精度よく復元できるかを検証することにより、モデルの信頼度を高めることができるからだ。
今回の研究により、約4万〜3万年前の日本列島では海面水位が少なくとも100〜120mほど低かったことが示唆された。この時期は人類が大陸から日本列島へ渡ってきた時期でもあり、全球平均海面水位の低下に伴う陸地の拡大と人類の移動との関連が注目されるという。
さらに福井県の三方五湖の1つである水月湖の湖底には「世界標準のものさし」として重要な年縞堆積物が約7万年間分存在し、今回の研究で明らかにした約4万〜2万年前の時期の年縞も保存されている。年縞堆積物から明らかにされる当時の陸域の気候と今回明らかにされた当時の海洋の変化の記録とを比較することで、地球全体の気候変動・氷床変動・海洋変動の関連性や仕組みを理解することにつながるとしている。