みなさんにとってAIはどのような存在でしょうか。

信頼できるパートナー? 
便利だけどやっかいなもの? 
ちょっと怖くて距離を置きたい存在?

AIに便利さを感じる一方で、その急速な発展に戸惑いや不安を感じる人もいるかもしれません。人間の指示に応じて文章や画像を生成するだけでなく、AIが自律的に複数の作業を進めるなど、この数年でAIは驚くべきスピードで発展しています。AIが私たちの学びや仕事、暮らしに大きな影響を与え始めている今、私たちはAIとどのように向き合い、未来をつくっていけばいいのでしょうか。
2026年8月8日、日本学術会議と日本科学未来館は共同イベント「AIとワタシの未来予想図」を開催しました。このブログでは研究者と中学生、高校生、大学生を中心とした参加者が集まり、AIとともにある未来について考えた1日について、その様子と舞台裏をご紹介します。

イベントの一幕。

日本学術会議ってなに?

まずは未来館といっしょにこのイベントを行った日本学術会議。いったいどんな組織なのでしょう?
日本学術会議は、人文・社会科学、生命科学、理学・工学など幅広い分野の研究者によって構成される日本の学術を代表する機関です。学術の立場から社会に向けてさまざまな発信をしています。そのひとつに「提言」というものがあります。提言とは、科学的知見にもとづき、総合的・俯瞰的な見地から政府や関係機関、広く社会に向けた提案を発表するものです。提言の背景には、多様な専門分野の研究者による議論があります。一つの専門分野だけでは捉えきれない課題について、それぞれの知見を持ち寄りながら検討を重ね、その議論が提言としてまとめられます。発出された提言はWeb上に公開されていて、誰でも閲覧することができます。

イベントの出発点となった提言

今回のイベントの企画の出発点となったのもそんな提言のひとつでした。
2025年2月、日本学術会議は「生成AIを受容・活用する社会の実現に向けて」という提言を公表しています。この提言は生成AIの可能性を活かしながら、そのリスクにも向き合い、社会全体でよりよいAIの活用のあり方を考えていくための提言です。研究開発の体制やAIに関する制度設計、教育など幅広い観点からAIに関して示されています。このイベントを担当した科学コミュニケーター4名で何度も議論したのは、この提言にもとづいて、参加者の皆さんといっしょに考えるべき「AIとワタシの未来予想図」とは何なのかということでした。提言に示されているのは社会全体のあり方に関わる大きなテーマです。それを土台として、イベントという限られた時間の中で、幅広い分野の研究者の視点と参加者一人ひとりの実感を伴った視点が出会う場をどうつくればよいだろうか。どうすればAIと共にある社会の未来について考えると同時に、それを自分自身の未来についての問いとしてとらえることができるだろうか。そんなことを日本学術会議の先生方とも話し合いを重ねながら考えてきました。

AIはひとつの分野だけでは語れない

そんな議論を重ねながら迎えたイベント当日。
第一部では、理学・工学、生命科学、人文・社会科学という3つの視点からAIについてお話がありました。

第一部ゲストスピーカーの先生方。左上から時計回りに、黒橋禎夫先生(国立情報学研究所 所長)、奥野恭史先生(京都大学大学院 教授)、中村征樹先生(大阪大学 教授)、美馬のゆり先生(公立はこだて未来大学 特命教授)、野口伸先生(北海道大学大学院 教授)、長谷山美紀先生(北海道大学大学院 教授)。

生成AIがどのように文章を紡いでいるのかや、言葉だけでなく画像や音もまとめて理解・判断できるマルチモーダルAIのしくみと活用。創薬や農業の現場での課題に対してのAIを使った解決のアプローチ。そして少し立ち止まって、AIのような新しい科学技術に対してどのように向き合えばいいのか、AIが答えを生成する時代に人間にしかできないことは何なのか。面白かったのは先生のお話を聞くごとにそれまでのセッションで話されたAIの見え方も変わっていったことです。AIの仕組みを知ったうえで活用の話を聞くとそこで新たな疑問や問いが生まれてくる。社会でどのようにAIと向き合っていくべきなのかを聞いた後には、技術の話をもっと深く聞きたくなる、そんなサイクルが生まれていました。AIはさまざまな分野で活用されており、AIによって生まれる問いもまた、一つの学問分野だけでは考えきれません。理学・工学、生命科学、人文・社会科学という異なる視点が並ぶことで、AIというテーマの広がりと複雑さがより立体的に見えてきました。
先生方の熱いお話の最後には参加者のみなさんへのメッセージも。ぜひアーカイブ動画をご覧ください。

ではそんな多様な視点を受け取った参加者は、どのような「AIとワタシの未来予想図」を描いたのでしょうか。第二部のディスカッションへと続きます。

研究者と、みんなと、話してみよう! AIとワタシたちのこれから

グループディスカッションではAIとワタシの未来予想図を「開発」、「応用」、「ルール」、「教育」の4つのテーマに分け、中・高・大・大学院生の参加者がそれぞれのテーマでディスカッションをしました。日本学術会議の研究者も加わり同じテーブルでいっしょに意見を出し合いました。ここからは各グループでどんな対話が行われたか、各グループでファシリテーターを担当した科学コミュニケーターからご紹介します。

グループ1:開発
テーマ「AIにどこまでできるようになってほしい?」

「AIにどこまで任せたいか」、そして逆に「何はAIに任せたくないか」を入り口に、参加者それぞれの考えを聞きました。印象的だったのは、AIに求めるものが人によって大きく異なっていたことです。「仲良くしてほしい」「感情を理解してほしい」「先回りして動いてほしい」と、自分に近い感性を求める声がある一方で、「自分にはない発想で驚かせてほしい」と、むしろ違う感性を期待する声もありました。また、「イラストは思いを込めて自分の手で描きたい」「F1レースは人間だからこそミスもあるし面白い」「ものづくりは人間にやってほしい」など、たとえAIができるようになっても、人が取り組む過程や行為そのものに価値があるのではないか、という意見も出ました。議論を通じて、「AIに何を任せるか」を考えることは、私たち自身が「何を大切にしたいのか」「なぜ人がやることに意味を感じるのか」を見つめ直すことでもあるのだと感じました。AIとの関わりを考えることが、改めて「人が大切にしたいこと」を考えることにもつながる、そんな時間になりました。

(担当科学コミュニケーター:出沢良樹)

グループ1のグラフィックレコーディング。ディスカッションの様子はリアルタイムでグラフィックレコーディングされました。
グループ2:応用
テーマ「AIを使って解決できそうな社会課題は何だと思う?」

身近な困りごとのうち、AIが解決できそうな課題には何があるでしょうか。「日々の食事の栄養管理をしてほしい」、「通勤ラッシュがつらいのでAIが管理して混まないようにできないか」……そんななか、学生の参加者から「何百人も学生を見ている先生がいる。AIで負担を減らせないか」という意見が出ました。これに対し、先生の参加者からは「自分は学生の意見を聞きたいから、むしろAIは使いたくない」という意見が。授業の課題でAIを使うことについては、学生側から「AIを使って良い評価を得ている人がいるとモヤモヤする」という意見が出た一方、先生側からは「AIをうまく活用できるような課題を先生側が出すべき」という意見も出ました。
立場が異なる人と話し合うことで、課題だと思っていたことがそうではないとわかったり、むしろより根深く複雑な課題であることに気づいたりすることがあります。今回は10人程度での対話でしたが、これを社会全体で行うことが、AIを使って社会をより良くしていくために必要なのだと実感しました。

(担当科学コミュニケーター:安藤未来)

グループ2のグラフィックレコーディング。
グループ3:ルール
テーマ「AIとともに生きる時代に、どんなルールが必要だと思う?」

ルールといっても、社会全体のルールから学校でのルール、自分なりのルールまでさまざまです。まず身近な経験から考え始め、みんなのルールについて議論を広げていきました。
特に盛り上がったのは、「宿題にAIはどこまで使っていいの?」という話題。「読書感想文の相談をAIにしてみた」、「AIの使用について学校からの指示が曖昧で困る」、「AIに課題をやってもらった友達が良い成績をとっていて複雑な気持ちになった」など次々と実体験が飛び出しました。「AIでつくった部分は明記したほうがいい」、「どこまでがAIでどこからが自分なのかを正直に伝えたほうがいい」という意見もあれば「ルールも大事だけど、自分で判断することも必要だよね」という意見も。
印象的だったのは意見が違っていても「それわかる!」とお互いに共感する場面がたくさんあったことです。参加者のみなさんが共有してくれたのはAIを日常的に使う中で感じた迷いやモヤモヤでした。ルールを考えるときには、こうした実際に使う人たちの経験や実感も欠かせない。そんなことを感じたディスカッションでした。

(担当科学コミュニケーター:青木皓子)

グループ3のグラフィックレコーディング。
グループ4:教育
テーマ「AIとともに生きる時代に、どんな力を大切にしたい?」

どんな力を大切にしたいか。たとえば「うのみにしない」「頼りきらない」などの意見が上がりました。これらは「AIを使いこなすための力」と言い換えられそうです。確かに、こうした力は大切ですよね。
一方で、対話の大半を占めていたのは「AIを使いこなす」こととは少し別の種類の意見でした。
「全身で感じる」「リアル空間を大切にする」「なんとなく思いつく」「モヤモヤを楽しむ」
これらに名前をつけるとしたら、何と呼べばいいでしょう。「人間らしい営み」などでしょうか。私たちは、AIに文章をまとめてもらうことも、アイデアを出してもらうこともできます。それでも、身体を通して世界を受け取ったり、曖昧さやモヤモヤした感情を楽しんだり、「どうしてだろう?」と問いを立てたりする営みには、人間だからこそ大切にしたい何かがあるように思います。もしかしたら、これらの営みもそのうち (もうすでに?) AIにもできるようになるのかもしれません。だからこそ、人間にしかできないことを探すのではなく、またAIにできるかどうかを気にするのでもなく、「私たちは何を大切にしたいか?」を問い続けることが重要なのではないでしょうか。

(担当科学コミュニケーター:平井元康)

グループ4のグラフィックレコーディング。

「AIとワタシの未来予想図」を描くには?

イベントを通して考えてきた「AIとワタシの未来予想図」。
このイベントタイトルを付けたとき、この“ワタシ”という言葉には、自分自身という意味の私だけでなく、自分とは違う立場にいるかもしれない“ワタシ”や、時には私を含む「私たち」という、多様なワタシを包含したい、想像したいという意味も込めました。

イベントのキービジュアル。AIと人との多様なかかわり方を表現しています。

AIにもっと多くのことを任せたいと思う人もいれば、AIを使わず自分で考え続けることを大切にしたい人もいます。期待するAIの姿は、その人の立場や何を大切にしたいかによって変わるのかもしれません。またAIを活用することで新たな可能性が生まれる一方で、新たな課題も生まれます。AIが担うことで解決できることもあれば、人と人との関係や価値観が関わるため、AIだけでは解決できないこともあるでしょう。

グループディスカッションでは各チームそれぞれ異なるテーマについて議論していたはずなのに、どのチームも話は何度も人間の価値観や社会のあり方についての問いへと戻っていきました。それはAIが他の科学技術と比べても、非常に幅広い領域に影響し、その変化のスピードも速く、これまでできなかったことを次々と可能にしていく技術だからかもしれません。AIは私たちの学びや仕事のあり方、社会課題の解決などに新たな可能性をもたらす一方で、新たな判断や選択を私たちに迫るものでもあります。だからこそAIそのものに関しての問いだけではなく、私たちは何を大切にしたいのか、どんな社会を目指したいのかという問いが自然と表れてくるのではないでしょうか。

一方で今回のイベントでその問いへの答えがすべて出たわけではありません。
今回の企画の出発点となった提言では、AIに関する制度設計のあり方について、「アジャイル(迅速かつ反復的)でマルチステークホルダー型」のガバナンスの必要性が指摘されています。変化する技術や社会に合わせて、多様な立場の人が関わりながら考え続けていくという姿勢を示すものだと感じています。このイベントで多様な「ワタシ」と出会ったことも、そのための大切な一歩だったのかもしれません。
「AIとワタシの未来予想図」は、自分一人では描けません。
さまざまな人と対話し、問いを深め、時にはAIともいっしょに考えながら、どんな未来を望むのかを問い続ける。
その過程そのものが、「AIとワタシの未来予想図」なのかもしれません。
このイベントが参加者のみなさんにとって、そしてこのブログを読んでくださったみなさんにとっても、自分なりの未来予想図を描き続けるきっかけになっていたならうれしく思います。

関連リンク

  • AIとワタシの未来予想図 https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202608084530.html
  • 日本学術会議 https://www.scj.go.jp/
  • 提言「生成AIを受容・活用する社会の実現に向けて」 https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-26-t381.pdf


Author
執筆: 青木 皓子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、主に研究エリア入居プロジェクトのイベントや研究者とのトークイベント・実験教室などを担当。

【プロフィル】
幼少期は、立ち止まっては石を拾ったり花を摘んだり、空を眺めたりと、家に帰るのに時間がかかる子どもでした。学生時代の旅の経験から、いろいろな国や背景をもつ人とお話しすることが好きです。日常の出来事に「なぜ?」「どうして?」と考えるくせがあり、大きなテーマを社会全体で考えていくための場づくりに関心があります。多様な人の立場や感じ方を想像しながら、科学と社会をつなぐ方法を考え中です。

【分野・キーワード】
生命科学、植物