環境省のレッドリストで準絶滅危惧のチョウであるクロツバメシジミは、幼虫の時に外来植物を食べて育つと羽の色が変わることを、大阪公立大学などのグループが発見した。羽の色が変わったメスは交尾の相手としてオスの興味を引きにくくなることも確かめられ、外来植物がチョウの繁殖に間接的に悪影響を及ぼしている可能性があるという。絶滅の恐れのある昆虫類の保全対策に役立つと期待される。

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    クロツバメシジミ成虫の可視光写真(左)と紫外線写真。いずれの写真も左2匹が在来植物、右2匹が外来植物で育った。上2匹はともにオス、下はメス(大阪公立大学大学院生の久井花恋さん提供)

クロツバメシジミはシジミの貝殻を合わせたような形のチョウで、羽の表側が黒っぽい。新潟県から鹿児島県にかけて河川敷や岩場などに生息している。環境省のレッドリストでは「現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する恐れがある」として準絶滅危惧と評価されている。

チョウの多くがそうであるように、オスが少し先に羽化して飛び回りながらメスを探し、羽化したてのメスを見つけたら近づいて何回か接触して交尾をする。チョウの繁殖行動で重要なシグナルになる羽の色について、クロツバメシジミの場合、幼虫の時期にどんな植物を食べるのかによって違ってくるのではないかと考えられている。

大阪公立大学大学院農学研究科の平井規央教授(昆虫生理生態学)は、幼虫期の食べ物の違いで成虫の羽の色が変化することを実証するとともに、それが繁殖行動にどのような影響があるのかを調べようと考えた。平井教授が指導する大学院生の久井花恋さんが室内や野外で実験をした。

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    クロツバメシジミの成虫(左)と幼虫が食べる在来植物のツメレンゲ(中央)、外来植物のツルマンネングサ(大阪公立大学院生の久井花恋さん提供)

クロツバメシジミの幼虫を在来植物のツメレンゲを食べさせる群と外来植物のツルマンネングサを食べさせる群に分けて飼育したところ、幼虫でいる期間やさなぎの重さについて両群で違いはなかった。しかし、成虫の羽の裏の写真を撮ったところ、通常の可視光写真では在来植物群が黄色みを帯びていたのに対し、外来植物群は灰色がかっていた。昆虫が見ている紫外線を撮影した写真では在来植物群の方が暗く写り、外来植物群より紫外線を多く吸収していることがわかった。光を当てて反射スペクトルを調べると、同様の傾向があったという。

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    羽に光を当てたときの光の波長と反射率の関係。在来植物ツメレンゲで育てたクロツバメシジミは44匹、外来植物ツルマンネングサで育てたのは55匹(大阪公立大学院生の久井花恋さん提供)

こうした羽の色の違いが野外での繁殖行動にどう影響するのかを調べるため、オスが飛び交う生息地に在来植物で育てたメスと外来植物で育てたメスをひもでつなぎ、オスがどちらの個体を選ぶかを観察した。すると、飛びながらオスがメスに接触する配偶行動が、在来植物で育てたチョウの方がより頻繁に観察できた。フェロモンの影響が少ない標本を使った実験でも同様の傾向が見られた。

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    在来植物を食べたクロツバメシジミのオスとメスに対する野外で飛んでいるオスの接触回数と、外来植物を食べたオスとメスとへの接触回数を調べたグラフ(大阪公立大学院生の久井花恋さん提供)

実験をしたクロツバメシジミの生息地では、在来のツメレンゲが生えている場所に外来のツルマンネングサも育っているという。平井教授は「外来植物で育ったメスの成虫がオスと交尾ができずに死ぬと、繁殖に不利な影響を受けていることになる。外来植物の侵入が、クロツバメシジミの個体数の減少につながるかもしれない」と話す。

羽の色が幼虫期の食性によって変わることについては、植物の色素フラボノイドの組成の違いが羽の紫外線の吸収に関わっているという先行研究もある。久井さんは「羽の色が変化する仕組みについて生理学的に研究を進めるとともに、クロツバメシジミのほかにも同様な事例がないか調べたい」という。絶滅の恐れがある昆虫の保全や、外来種の問題の解決に役立つことが期待される。

研究は東京大学総合研究博物館と共同で実施し、成果は3月10日に国際誌「ベーシック・アンド・アプライド・エコロジー」電子版に掲載された。

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