自社工場を持たない形態のファブレスメーカーであるアルムは「Microsoft Azure AI Speech」と「Microsoft Azure OpenAI Service」を活用した独自のAIキャラクター「KAYA」を開発。同社のマシニングセンター「TTMC Origin」に搭載して、自然言語で対話をしながら、操作ができる環境を実現した。同社は、熟練技能者不足の解消などに貢献できると説明している。

米Microsoft(マイクロソフト)が3月24日に、東京・有明の東京ビッグサイトで開催したグローバル年次イベント「Microsoft AI Tour Tokyo」において、展示エリアであるConnection Hubにアルムが出展し、KAYAとTTMC Originを紹介。さらに、アルム 代表取締役 CEOの平山京幸氏がメディア向けに説明を行った。日本の企業が実現するフィジカルAIの取り組みの1つだといえる。

  • 「Microsoft AI Tour Tokyo」のConnection Hubに出展したアルム

    「Microsoft AI Tour Tokyo」のConnection Hubに出展したアルム

ファブレスメーカー アルムとは何者か - 完全自動マシニングセンター「TTMC」の強み

アルムは2006年に創業し、石川県金沢市に本社および工場、ラボを置く企業だ。ファブレスメーカーとして製造業向けAIソフトウェアの開発や、工作機械および周辺自動化システムの開発に取り組んでおり、スギノマシンやニデック、オークマなどと連携してモノづくりを行っている。

社員数は40人弱でありながら、売上高は約80億円、純利益は約30億円を誇り、国内では250社への導入実績を持つ。完全自動マシニングセンター「TTMC」では、切削加工の全12工程をAIを活用しながら、完全自動化を実現している。

  • TTMCは切削加工の全12工程を完全自動化する

    TTMCは切削加工の全12工程を完全自動化する

同社の説明によると、12工程をカバーして自動化したのはTTMCだけだという。価格は約3億3000万円で、2024年から販売を開始し、現在は約40社に導入。2026年末には、国内だけで100社に導入する予定だ。今後、同社は米国および韓国への輸出も計画している。

  • TTMCの特徴

    TTMCの特徴

平山氏は「これらをMicrosoft Azureで接続することで、災害時には同じマシニングセンターを導入している工場に生産を振り分けるなどの活用が可能になる。金属部品の調達ネットワークに成長させるほか、業界横断での製造データプラットフォームの構築につなげることができる」と話す。

  • アルム 代表取締役 CEOの平山京幸氏

    アルム 代表取締役 CEOの平山京幸氏

製造AIによるNCプログラミング自動化がもたらす現場改革

TTMCには「TTMC Brain」と呼ぶ頭脳が搭載されており、空間・形状認識、意味理解、工程設計、加工条件最適化、CNC(コンピュータ数値制御)プログラム生成で構成。

  • TTMCの頭脳部には「TTMC Brain」が搭載されている

    TTMCの頭脳部には「TTMC Brain」が搭載されている

同氏は「3Dモデルデータを読み込むことができ、職人が持つ57兆6000億通りの加工条件を活用した最適化を図ることもできる。自律型ロボットの制御、PLCへのロジック制御などを行える」と述べている。

アルムでは、秋田市に本社を置く超精密部品加工のオーエスイーを買収し、20~30年の経験を持つ同社熟練技能者が持つノウハウをTTMC Brainに活用し、加工条件の最適化を可能にしている。平山氏は「空間・形状認識や意味理解は、組み立てなどにも活用できる。横展開が可能であると考えている」とも語る。

  • TTMC Brainのコア技術

    TTMC Brainのコア技術

また、製造AIの「ARUMCODE」はAzure Open AI Serviceを活用したAI解析で図面を読み込むだけで、NCプログラム(数値制御プログラム)を自動作成することを可能とし、16時間かかるプログラミングの時間が15分に短縮し、約98%の削減を実現している。

従来は、人とマシンが1対1で運用していたものが、1人で複数のマシンを運用できるという成果も生んでいる。同氏は「製造原価の50%以上を占めると言われるNCプログラミング作業の自動化で製造現場の人員不足を解消し、コスト削減を実現できる」と力を込める。

LLMとフィジカルAIを融合した「TTMC Origin」とAIキャラクター「KAYA」

そのほか、アルムでは、同社が持つソフトウェアを中心とした要素技術を活用して、大手メーカーの製造ラインの自動化などに取り組んでいる。

平山氏は「金属部品は全世界で100兆円の市場規模を持つが、すべての企業が1%以下のシェアであり、群雄割拠となっている。一方で、日本、ドイツ、中国、米国は高齢化などによって熟練技能者の不足が深刻化し、インドなどの新興国ではITや観光業などに人材が流れることで熟練技能者が不足している」と指摘。

そのうえで、同氏は「金属部品製造における熟練技能者の不足は、コアパーツの供給不足を引き起こし、それを使用したモノが市場に供給できなくなる事態が想定される。飛行機や鉄道にも多くの金属部品が使用されており、スマホの成形にも金型が使用されている。影響は自動車、半導体、データセンター、PC、ドローン、医療機器など幅広い。当社は製造AIと完全自動化技術を有しており、これにより製造現場を変え、金属部品を取り巻く課題を解決しようと考えている」と強調した。

アルムが新たに開発した「TTMC Origin」はLLM(大規模言語モデル)を搭載し、切削加工機に搭載した複数の製造アプリケーションやCNCを統括制御することができるのが特徴だ。本体だけで構成され、付帯設備がないため家電製品のように導入できる手軽さも併せて持つという。

  • KAYAを搭載したTTMC Origin

    KAYAを搭載したTTMC Origin

また、KAYAと呼ぶAIキャラクターが対話で加工作業をナビゲート。作業者に対して、加工工程を自然な対話形式でステップごとに案内するため、熟練工でなくても、マシニングセンターを操作できる。未経験者でも、0.001mm単位の加工ができるほか、製造現場だけでなく、大学や高専でも導入しやすい設計としている。

  • KAYAとの対話でTTMC Originを操作している様子

    KAYAとの対話でTTMC Originを操作している様子

TTMC OriginはAI Foundryを通じて、Azure AI Speechを採用し、音声のインプットとアウトプットの双方に活用しており、TTMC Originが設置される騒音が激しい製造現場においても、音声が聞き取れるように、指向性マイクの採用と、ソフトウェアの調整によるノイズキャンセリングを行っている。

平山氏は「開発時点では2台のTTMC Originを試作したが、搭載したAI同士が会話を行い、工程を分けあって作業することも実現している。製造現場では複数のマシニングセンターを導入し、工程管理者が作業分担の指示を行っているが、AIが代替して作業指示を行うことができる。製造現場では、フィジカルAIが注目を集め始めている。製造AIによる完全自動化という切り口で製造現場を変えていくことが、当社のミッションである。KAYAにより、製造現場における生産性の拡大とともに、技術継承にも貢献できる」と期待を示している。

  • デモンストレーションを行うKAYA

    デモンストレーションを行うKAYA

マイクロソフト製品の全社活用で実現するアルムのデジタル経営

一方で、アルムはマイクロソフト製品の積極的な社内活用を進めており、全社員がMicrosoft 365を活用。ERP連携を行っているほか、全社員がクレジットカードを保有し、出張精算をなくしたり、勤怠管理や決済承認もデジタル上で行ったりといったことを進めている。

また、社内データはOneDriveに蓄積し、Microsoft Copilotによる資料の要約や、特許資料の作成、研究開発のアイデア創出支援などに活用している。

TTMC Originの本体デザインもMicrosoft Copilotを活用。工業デザイナーに発注すると約3カ月かかるものを、わずか1日で20件のアイデアが完成し、そこから選定したという。さらに、GitHub Copilotにより、ソフトウェア開発におけるコード生成や実装支援を行っている。

  • アルム社内におけるマイクロソフト製品の活用

    アルム社内におけるマイクロソフト製品の活用

平山氏は「OT(Operational Technology)に関する理解が深く、ハードウェアへの搭載を含めて協業ができるのは、マイクロソフトの特徴だと考えた。TTMC Originなどへの搭載のほか、社内での製品利用を通じて、マイクロソフトとの協業を深めていきたい」と述べた。