アカマイ・テクノロジーズ(以下、アカマイ)はこのほど、AI時代を見据えた今後の事業戦略説明会を開催した。同社の主力製品である分散型プラットフォームを活用し、セキュリティとクラウド、さらにはAI推論で成長を狙う。
説明会の冒頭に、職務執行者社長の日隈寛和氏は同社の歴史を次のように振り返った。
「当社の強みである超分散型のテクノロジーをベースに、CDN(Contents Delivery Network)から事業を始め、世界のWebトラフィックの33%以上を当社が運ぶようになった。それに伴ってサイバー脅威の情報も集まるようになったため、DDoS(Distributed Denial of Service attack)攻撃の防御やクラウド型のWAF(Web Application Firewall)などセキュリティサービスもリリースした。3年半ほど前からは分散型の基盤をもとにコンピューティングにも着手している」
なぜアカマイはAI推論に参入するのか
2025年度の売上構成比を見ると、祖業であるCDNは約30%で、サイバーセキュリティが53%と上回っている。セキュリティ事業の売上は前年比9%増と拡大しており、特にマイクロセグメンテーションとAPIセキュリティの売上が43%増と大きく伸長した。
クラウドコンピューティング事業は全体の構成比で見ると17%であるものの、事業単体での売上は前年から36%増加している。
冒頭の日隈氏のコメントにもあるように、同社の強みは分散型のネットワーク。世界130超の国々に計4400以上の拠点にエッジPoP(Point of Presence)を構え、1000テラbpsのキャパシティを誇る。
CDN事業で培ってきたこの分散型のネットワークを用いて、よりユーザーに近い拠点で安価かつ低遅延でのAI活用を支えるとのことだ。
「これから新たに、超分散型のクラウド市場というフロンティアを作っていきたい。今後のAIやIoTの活用の未来を考えると、ユーザーに近い位置で低遅延にコンピューティングにアクセスできる必要があり、そのためには当社が持つ超分散型のプラットフォームが適している。AWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラを置き換えようとはしていない」(日隈氏)
とりわけターゲットとしているのは、AIを使うInference(推論)。学習済みのモデルをユーザーの近傍で稼働させることで、低レイテンシーと高いコスト効率を実現する「Akamai Inference Cloud」を提供する予定だ。
自動運転や翻訳、フィジカルAIなど、リアルタイムな応答が必要なAI推論で特に有効と考えられる。
Akamai Cloudで何が変わる?推論コスト最大86%削減
アカマイはNVIDIAと連携し、「NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Server Edition」を4400拠点に順次導入する予定だ。RTX PRO 6000 Blackwellは第5世代Tensorコアを搭載し、前世代L40S比で推論性能最大6倍、レンダリング性能最大4倍を実現している。
また、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)のトレーニングに用いられるNVIDIA H100との比較では、最大3倍程度のコストパフォーマンスを発揮するされる。
アカマイによると、Akamai CloudにRTX PRO 6000 Blackwellを導入することで、大手クラウドベンダーと比較して最大2.5倍の低レイテンシーと、最大86%の推論コスト削減が期待できるという。
Akamai Cloudの発表後、最も関心を寄せているのはメディア業界だという。超解像度の映像にリアルタイムで多言語の字幕を投影する映像処理や、マルチカメラで撮影したスポーツ中継から視聴者が任意の映像を選ぶライブ映像インテリジェンスなどで、活用の期待が高まる。
AI攻撃にどう対抗する?アカマイのセキュリティ戦略
近年はサイバー脅威も高度化しており、AIを活用した攻撃なども見られる。そこで同社は、AI活用を支援するだけでなく、AIを活用したセキュリティの高度化も進める。
従来主流のEDR(Endpoint Detection and Response)は事後対応での検知と対応を担う製品である特性から、セキュリティ対策として十分とは言えなかった。「監視カメラに不審者が映るのを待つような受け身の対策」(日隈氏)であるからだ。
実際、EDRを導入していたものの無効化、あるいは迂回されたために被害の検知が遅れた例も報告されている。
「これから考えるべきは、経営を止めないためのセキュリティ。侵入されていることを前提とした、被害の局所化とレジリエンスの強化が必要」(日隈氏)
そのためにはEDRやXDR(Extended Detection and Response)による事後対応に加えて、AIを活用した驚異ハンティングやマイクロセグメンテーションによる封じ込めが求められる。
こうした環境の中で、同社はWebアプリケーションやAPI(Application Programming Interface)を保護する「Secure AI Applications」、マイクロセグメンテーションで被害を最小化する「Secure AI Workloads」、ゼロトラストの思想でフィッシングを防止する「Secure User Access」など、AIを悪用した攻撃に対応するソリューションを展開する。
さらに、プロンプトインジェクションやLLMによる情報漏えいリスクに対処する「Secure AI Data & Model」も提供する。
日隈氏は「当社が保有している超分散型のプラットフォームの強みを生かして、新しいAI時代を築いていきたい。日本のAIの変革を支えていきたい」と述べて、プレゼンテーションを締めくくった。






