東京科学大学は、小型衛星でも強い電波を送れるという「折り紙展開アンテナ」が成立するか、打ち上げ前の実機試験で実証したことを3月26日に発表。織物とフレキシブル基板を用いた平面アンテナを小さく収納し、“飛び出す絵本”のように宇宙空間で大きく展開する方式を地上で実証しており、今後は3U CubeSat「OrigamiSat-2」に搭載して宇宙実証を行う予定だ。

  • 東京科学大学の研究チームが開発した、超小型衛星搭載用の折り紙展開リフレクトアレーアンテナ 出所:東京科学大学ニュースリリース

    東京科学大学の研究チームが開発した、超小型衛星搭載用の折り紙展開リフレクトアレーアンテナ 出所:東京科学大学ニュースリリース

同大学 工学院 電気電子系の戸村崇准教授、修士課程学生の鈴木皓大氏と黒川晴希氏(いずれも研究当時)、機械系の坂本啓教授らの研究チームによる研究成果。詳細は「IEEE Transactions on Antennas and Propagation 」誌に1月27日付で掲載されている。

近年、小型で安価な“キューブサット”(CubeSat)と呼ばれる小型衛星や超小型衛星を低軌道上に多数打ち上げ、地球観測や通信サービスに利用する計画が世界中で進んでいる。

衛星を小さくできればコストを大きく下げられるため、将来の宇宙インターネットや災害監視などへの応用が期待されているが、衛星が小さくなるほど搭載できるアンテナも小さくなり、電波が弱くなるため実効的な通信速度が遅くなってしまう。

遠くまで強い電波を送るには大型のアンテナが必要だが、ロケットに載せて宇宙に送り出すには小さく収める必要がある。「小さく収納」と「強い電波」の両立が、小型衛星の大きな課題となっていた。

研究チームは今回、折り紙のように小さくたたんで宇宙で大きく広げられる「膜構造リフレクトアレーアンテナ」を提案し、小型収納と強い電波が両立することを実機で確認。小型衛星でも大型衛星に近い通信能力を持たせられる可能性を示し、「多数の低コスト衛星による広域通信網の構築や、災害時の緊急通信、高頻度な地球観測の実現が期待される」としている。

リフレクトアレーアンテナは、平面構造でおわん型のパラボラアンテナと同等の特性を実現するというもの。形状の異なる反射素子を配置し、電波の反射位相(タイミング)をコントロールすることで、平面ながらあたかもそこにパラボラ形状があるかのようにふるまう点を特徴とする。

今回実証したアンテナは、絶縁性と導電性を持たせた2種類の織物と、アンテナ銅箔パターンを高精度に形成した柔軟なフレキシブル基板(ポリイミド製)で構成。収納時は手のひらサイズに収まり、展開時は50×50cmサイズまで広がる。

折りパターンとして採用した“Flasher折り紙パターン”は、山折りと谷折りを組み合わせて平らなシートを渦巻き状に小さく折りたたみ、四隅を引っ張るだけでスムーズに広げられるというもの。絶縁性織物と導電性織物の間に“コの字”型に折り曲げたフレキシブル基板を縫合する構成とした。

フレキシブル基板には、電波の反射のタイミングを制御する銅箔パッチを配置。アンテナとして機能させるためには、パッチと導電性織物を5mm離す必要があり、四隅を引っ張りながら展開すると、飛び出す絵本のようにフレキシブル基板が立ち上がって両者の間隔を確保する仕組みになっているとのこと。

  • 折りパターンとアンテナの構成 出所:東京科学大学ニュースリリース

    折りパターンとアンテナの構成 出所:東京科学大学ニュースリリース

さらに、このアンテナを超小型衛星の小さなボディに搭載するため、展開機構が不要なビームチルト一次放射器と偏波変換反射素子を採用。

ビームチルト一次放射器は6素子のアンテナで構成したもので、各素子を適切な位相で給電することで、リフレクトアレーを効率よく照射。偏波変換素子は一次放射器から放射される直線偏波を、衛星通信で用いられる円偏波に変換する。これらの組み合わせにより、「小さく収納できるのに遠くまで届く電波」を実現できる可能性を、数値解析と地上試験の両方で明らかにした。

数値解析では、ビームチルト一次放射器による効率的な照射と直線偏波から円偏波への変換を確認。また、高利得なアンテナ特性(強い電波の放射)も地上の電波暗室試験で確認している。

  • ビームチルト一次放射器と偏波変換反射素子 出所:東京科学大学ニュースリリース

    ビームチルト一次放射器と偏波変換反射素子 出所:東京科学大学ニュースリリース

研究チームは今後、このアンテナを3U CubeSat「OrigamiSat-2」に搭載し、宇宙環境での実証を行う予定だ。実際の宇宙では、打ち上げ時の振動や温度変化、真空環境などの影響により、地上試験とは異なる挙動が生じる可能性があるため、展開動作の確実性や通信性能の変化を観測し、宇宙での動作条件を明らかにする。

また、膜構造特有の変形によって電波強度が低下する可能性があるため、その影響を補償する設計手法の検討も進め、軽量で折りたためる構造を維持したまま、より安定した通信性能を実現することをめざす。

研究チームでは、将来的には小型衛星を多数連携させる衛星コンステレーションへの応用も想定している。

このアンテナ技術によって「小型で低コストな衛星でも高速通信や高精度観測が可能になり、広域通信サービスやリアルタイム観測などの宇宙利用の普及につながることが期待される」とのこと。

さらに宇宙以外への応用も見込んでおり、「展開型構造と高周波通信を組み合わせた新しいアンテナ技術として、災害対応や移動体通信など地上用途への展開も視野に入る」としている。