日本マイクロソフトは3月24日、東京ビッグサイトで「Microsoft AI Tour Tokyo」を開催した。本稿では「日本のAIフロンティアを切り開く(Frontier Transformation)」と題した基調講演の話を紹介する。

日本企業に広がるAI活用

はじめに登壇した、日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏は「昨年、私はAIエージェントの誕生と、その可能性について話しました。結果として日経225の企業のうち、94%が『Microsoft 365 Copilot』を利用しています」と胸を張る。

  • 日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏

    日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏

総務省の試算では2025年の日本におけるAI市場は1兆3400億円に達し、2029年には4兆円規模に拡大すると予測されている。

同氏は「AIは圧倒的なスピードとスケールで日本社会・経済を変えようとしています。AIエージェントは2028年に13億への増加が見込まれています」と述べ、国内におけるAIの状況を説明した。

こうしたAIの急速な普及が進む一方で、企業や社会には新たな課題や不安も生まれているのも事実だ。

続いて、米Microsoft EVP, CMO(Chief Marketing Officer)の沼本健氏が登壇。同氏は生成AIが市場に本格的登場してから3年が経過し、これまでAIによる業務効率の向上やコスト削減について多く語られてきたが、既存の雇用形態に対するインパクトや、必要とされる人材・スキルについて不安を助長していた面もあったと吐露する。

そのような状況を振り返りつつ沼本氏は「当社が推進している『Frontier Transformation』は、そうした考えとは異なる考え方です。Frontier Transformationは、AIが人間の可能性を引き出して創造性やイノベーション、人と組織の成長を促進していくものです」と話す。

  • 米Microsoft EVP, CMO(Chief Marketing Officer)の沼本健氏

    米Microsoft EVP, CMO(Chief Marketing Officer)の沼本健氏

また、沼本氏は「われわれが考えるAIの将来は“民主化”です。Frontier Transformationは自動的に発生するものではなく、各組織がリーダーシップを持ち、AIに対する考え方を定義して強い意志を持ち、実現していく必要があります。当社がグローバルで何千社という企業を支援してきた中で、成功するプロジェクトとそうではないプロジェクトの違いが見えてきています。一番の要因は技術主導からビジネス主導へのマインドセットです」との見解を示す。

同氏によると「AIに何ができるか」をスタート地点にするのではなく、ビジネスの課題解決に「AIをどのように活用するか」という観点から取り組みを始める顧客が成功する可能性が高いという。

成功する組織に共通するAI活用のフレームワーク

沼本氏は「成功している組織は『従業員エクスペリエンスの強化』『顧客エンゲージメントの改革』『ビジネスプロセスの再構築』『イノベーションの加速』の4つのフレームワークを実行しています。そのうえで、成功している組織へのアプローチとしては『人間の思いを成果へつなぐAI』『あらゆる場所に広がるイノベーション』『スタック全体にわたる可観測性』の3つに取り組んでいることが挙げられます」と説明する。

人間の思いを成果へつなぐAIでは、単に作業内容をプロンプト化し、チャットすることだけにとどまらず、日々の業務全体にAIを活用する仕組みを構築している。実際のビジネスに必要なワークフローは、どのような作業でも1人で完結することはなく、多くの人が関与して反芻、推敲、承認などを経て、初めてアウトプットが出てくることから、ワークフロー全体をサポートし、人の思いが成果につなげられるような形でのAIの導入が不可欠とのこと。

あらゆる場所に広がるイノベーションに関しては、たとえばR&Dや営業、経理、人事など、それぞれの業務分野の範疇で課題を認識している。そのため、課題に一番近い現場にAIツールを提供することで、効果的かつインスピレーションに溢れた解決策が生まれるという。

ただ、会社全体にイノベーションを開放した際には、コントロールが重要になるためスタック全体にわたる可観測性(オブザーバビリティ)が必要になる。AIスタックのすべてのレイヤにおいてオブザーバビリティを担保し、どのようなAIエージェントがどのような権限を持ちながら動き、データにアクセスしているのかを可視化して管理することが重要との見解を示す。

同氏は「エージェントが期待に沿うようなアウトプットを正確に速く、信頼できる形で生み出しているのか、ROI(Return On Investment:投資利益率)を実現できているのかなど、コストマネジメントを含めて把握している必要があります。これが成功している組織に共通するAI導入の3つの成功特性です」と語る。

そして、沼本氏はAI時代に一番重要なものは何か?と会場に問いかけた。同社が考える重要なものとしては“独自で構築するインテリジェンスと信頼”だという。

同氏は「AIモデルが変遷しても組織固有のユースケースに適用が可能であることが本質です。現状は開発者が多様なデータやAPIを統合しているが、本来AIは組織の働き方や協業、意思決定を深く理解すべきであり、独自のインテリジェンス(知性)とトラスト(信頼)を中心に据えたプラットフォームが鍵になる」と説く。

インテリジェンスと信頼を支えるMicrosoftのAI基盤

こうした独自の知性と信頼を包括的にサポートするプラットフォームをMicrosoftでは提供しており、その鍵となるものがWork IQ、Foundry IQ、Fabric IQ、Agent 365、Agent Factoryだ。

  • インテリジェンスと信頼を支えるMicrosoftのプラットフォーム

    インテリジェンスと信頼を支えるMicrosoftのプラットフォーム

Work IQ、Foundry IQ、Fabric IQはインテリジェンス、Agent 365は信頼、Agent Factoryはこれら2つを実装するためのものとなる。

Work IQは、Microsoft 365上で日々発生するメール、会議、チャット、ドキュメント、タスクといった情報から、個人や組織の仕事の進め方そのものを理解させるためのインテリジェンス層だ。日常業務の情報を通じ「誰が・何を・どの流れで仕事をしているのか」をAIに学ばせる。

Foundry IQは、AIエージェントが使う知識を統合・活用するためのインテリジェンス層。社内ナレッジや文書、外部情報を横断的に参照できるようにし、AIが「何を、どの文脈で使うべきか」を理解させ、賢い判断を支えるための知識面の知性を担う位置付けだ。

Fabric IQは、企業のデータにビジネスとしての意味を与えるインテリジェンス層。売り上げやKPIを単なる数値ではなく、業務や意思決定と結び付けて理解させることで、AIはデータを見て答えるのではなく、「なぜそう判断すべきか」を考えられる存在になるという。

Agent 365は、AIエージェントを企業ITとして信頼できる存在にするための基盤で、エージェントにIDを持たせ、権限、アクセス、監査、セキュリティを管理し、可観測性を提供。沼本氏は「賢いだけでは業務に使えない」という課題に対し、AIを安心して任せられる状態=信頼を技術として実装するというもの。

Agent Factoryは、AIエージェントを試作で終わらせず、本番業務で回すための設計思想だ。Work IQなどのインテリジェンスと、Agent 365が担う信頼の仕組みを前提に、両者を組み合わせてエージェントを継続的に生み出し、AIを業務の主体にするための実装レイヤとなる。

沼本氏は「Work IQ、Foundry IQ、Fabric IQは、それぞれの組織における固有のインテリジェンスを引き出したAIソリューションの実現を可能にします。これら3つのIQを活用した運用・管理を可能にするものが信頼のレイヤであり、Agent 365で可観測性を担保します。それぞれの組織におけるインテリジェンスを実現を支援するものがAgent Factoryになります」と説明する。

講演の最後に同氏は「成功する組織になるために重要なことは、目指す成果に向けてテクノロジーに一貫性を持って、シームレスにつなげていくことです。AI基盤のガバナンスを確保したうえで、AIがマーケティングや財務、製品開発、サプライチェーン、顧客エンゲージメントにインパクトをもたらすことです。重要なことはつなげることで価値を実現することです」と述べ、締めくくった。