2025年12月13日、新常設展示「未読の宇宙」の公開を記念した4回にわたる連続企画「研究者と巡る『未読の宇宙』」が、ついに最終回を迎えました。締めくくりとなったテーマは「重力波観測」です。ゲストスピーカーは、「未読の宇宙」の総合監修者であり、2015年にノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章先生(東京大学卓越教授(宇宙線研究所))。
本ブログでは、梶田先生から重力波観測の仕組みや重力波研究の最前線についてうかがったトークイベントのようすを二部構成でたっぷりとお届けします。前編では、そもそも重力波とは何か、どのようにして観測するのかといった重力波の基本を押さえます。そのうえで、後編では、日本で進められている重力波観測の取り組みや、最新の研究成果、そしてこれからの展望についてご紹介します!

トークイベントのようす。本イベントは手話通訳者つきのイベントとして実施しました。

アーカイブ動画はこちらからご覧ください。

重力波は、時空のさざなみ?

トークイベント冒頭では、このイベントのテーマである「重力波」がいったいどんなものなのか、うかがいました。
「そもそも重力波というものが存在するかもしれない、ということがわかったのは、もうすでに100年以上前です」と、まずはその歴史について梶田先生からお話いただきました。かの有名なアインシュタインが導き出した重力の理論である一般相対性理論によると、重い天体が動くことで、空間そのものがゆがみ、伸び縮みし、その変化が波として真空中を伝わっていくはずだと考えられていました。しかし、その効果はあまりにも小さく、当のアインシュタイン自身でさえ、実際に観測するのは難しいだろうと考えていたそうです。ところが、その後の天文学の発展によって、宇宙にはブラックホールとよばれる非常に重い天体が存在することがわかってきました。ブラックホールは、一般相対性理論をもとに理論的に導き出され、後の観測技術の進歩によって実在が確認されています。さらに、ブラックホールが一つだけで存在するのではなく、まるで双子のような二つのブラックホールが互いのまわりを回りながら運動する「連星」をつくる場合もあることが明らかになってきました。こうしたブラックホール連星からは、 強い重力波が放出されるので、このような現象があれば、重力波を観測できるかもしれない。そう考えた研究者たちが、1960年ごろから重力波観測に挑戦してきたそうです。

トークイベント冒頭に、梶田先生から重力波の基本的な内容をご説明いただきました。

このような背景について、梶田先生は、次のように語っていました。
「理論的な考えが出てくると、そういうものが本当にあるのだろうか、重力波のようなものがあるのだろうかということを確かめたいと思います。それが科学です。」
科学は、「知りたくなる」という純粋な探究心から始まるものなのだと、改めて考えさせられました。そして長年の挑戦の末、重力波が初めて直接観測されたのは2015年。アメリカにある2つの重力波観測装置「LIGO」が、ブラックホール同士の合体によって放出された重力波をとらえたのです。

アメリカにある2つの重力波観測装置「LIGO」

解析の結果、重力波が発生した場所では、太陽の36倍と29倍の質量をもつブラックホールが合体し、太陽の62倍の質量をもつブラックホールができたことがわかったそうです。ここで、素朴な疑問が浮かび上がりました。36と29を単純に足すと65になるはずですが、合体した後のブラックホールは太陽の62倍の質量になっていました。
では、残りの太陽の3倍分の質量はどこへ消えたのでしょうか?
梶田先生に伺うと、「この太陽の質量の3倍分が、ほぼ一瞬のうちに重力波のエネルギーとなって、宇宙空間に飛び出ていったことになります。」という答えが返ってきました。日常ではとても想像できない量の質量が、一瞬でエネルギー(重力波)に姿を変えてしまう。そんな現象が実際の宇宙で起きていると考えると、そのスケールの壮大さに圧倒されます。こうした人間の想像をはるかに超えた世界だからこそ、人は宇宙に魅了されているのかもしれませんね。この重力波初観測の成果が発表されたのは、2016年でした。その翌年には、ノーベル物理学賞が授与されるという、異例のスピード受賞でした。このことに対して、ノーベル物理学賞を受賞されている梶田先生は、「この研究成果が、それだけ長く待ち望まれ、その価値がいかに重要であったのかがわかります」と語っていました。重力波がついに観測されたという事実が、いかに大きな出来事だったのかが伝わってきます。では、この重力波はどうやって観測されたのでしょうか。次の章で、その仕組みについて、のぞいていきましょう。

レーザー干渉計で重力波を観測!

重力波を観測するために、現在広く使われているのが「レーザー干渉計」という装置です。レーザー干渉計の仕組みは、下の図を使って説明します。レーザー干渉計では、まずレーザーから出た光を、中央にあるビームスプリッターで2つの方向に分けます。分かれた光は、それぞれ直角に伸びた2本の腕の先にある鏡に向かい、反射して再びビームスプリッターへ戻ってきます。戻ってきた2つの光はビームスプリッターで重ね合わされ、右側にある検出器へと送られます。このとき、2本の腕の長さがまったく同じであれば、光を重ね合わせることで、しま模様のような「干渉縞」をつくります。この模様は、2本の腕の長さが同じときには変わりません。ところが、重力波が通り抜けると空間そのものがわずかに伸び縮みし、2本の腕の長さにほんのわずかな差が生まれます。すると重ね合わせた光の模様(干渉縞)が揺れ、その変化から重力波の到来を知ることができるのです。

左:レーザー干渉計の仕組み(展示「未読の宇宙」のパネルより抜粋し一部改変)右:常設展示「未読の宇宙」に展示しているレーザー干渉計と干渉縞のようす。

ここで、重力波観測の難易度を、イメージしていただくために、梶田先生にクイズをご用意いただきました。下の図をご覧ください。

梶田先生からクイズです。ぜひみなさんも、挑戦してみてください。(画像提供:梶田先生)

地球と太陽の間の距離は約1億5000万キロ離れています。ここに強い重力波が来ると、地球と太陽の間の距離がどのくらい変わるのか、という三択クイズです。みなさんは、①から③のどれだと思いますか?初めて重力波を観測したときは、太陽の3倍分質量が、ほぼ一瞬のうちに重力波のエネルギーが放出されていたことを考えると、大きく変化しそうですが、

正解は……
①の「1 mm以下」でした!

正確には水素原子1個分(0.0000001 mm程度)しか変わらないのだと、梶田先生は話します。しかも、実際のレーザー干渉計の腕の長さは3〜4キロメートルで、地球と太陽の距離に比べればはるかに短いものです。つまり実際の観測では、この水素原子1個分よりもさらに小さい変化を見分けなければなりません。梶田先生によると、その変化量はなんと、0.000000000000001 mm (10-15 mm)ほど、なのだそうです。ゼロが多すぎて、もはや数える気も起きないレベルです。重力波自体は莫大なエネルギーをもちますが、観測される重力波の振幅(空間の伸び縮み)は、発生源から遠ざかるほど小さくなるため、13億光年も離れた地球では、その変化はこれほどまでに微小になるそうです。この数字を知った瞬間、「これを観測した研究者、すごくね。」と、思わず言葉にだしてしまいました。
ところで未来館では、重力波を観測した装置と同じ原理のレーザー干渉計を見ることができます!2025年の4月に新しく常設展示の仲間入りした「未読の宇宙」では、本物のレーザー干渉計を使って重力波観測を体験することができるのです。もちろん展示のレーザー干渉計は、腕の長さが短いので、実際の重力波を観測することはできません。しかし、レーザー干渉計がどのようにして重力波を観測しているのか、その原理をじっくり学べるつくりになっています。また、体験していると梶田先生から電話がかかってくることも……?(まるでリアルタイムで梶田先生から説明を聞いているような気持ちになれます!)

トークイベントで使用した「未読の宇宙」の紹介スライド。右側の写真が、重力波観測装置と同じ原理のレーザー干渉計です。

そして、「未読の宇宙」では、もうひとつ、重力波に関する面白い体験をすることができます。それは、重力波を音として“きく”ことができる点です。

重力波を“きく”筆者

もちろん、重力波そのものは音ではありません。しかし、重力波の周波数はもともと可聴域(人が聞き取れる周波数の範囲)にあるため、人が音として認識できる音波に変換することで、重力波を音として“きく”ことができます。この音について、梶田先生から詳しく教えていただきました。最初、2つのブラックホールは離れた位置にあり、ゆっくりとお互いの周りを回っています。この段階では、放出される重力波の周波数は低く、音にすると低い音になります。しかし、2つのブラックホールが近づくにつれ、回転のスピードが上がり、重力波の周波数もどんどん高くなっていきます。そして、合体の瞬間に最も高い音となり、その後スッと消えていくという特徴的な音をしているということでした。また、このような特徴的な音は 「チャープ音(chirp)」 とよばれているそうです。chirp は英語で「鳥のさえずり」を意味する言葉で、重力波の音が小鳥のさえずりのように聞こえることから、この名前がつけられたのだとか。

重力波観測される際の波形(科学コミュニケーターブログ「2017年ノーベル物理学賞を予想する② 重力波信号の初キャッチ!そこから何がわかる?」より抜粋)

以前、「未読の宇宙」内で来館者と対話しているときに、来館者から「重力波を音としてきくと、まるでブラックホール同士が近づき、合体するまでの変化が、直感的にイメージできますね!」と話してくださった方がいました。まさに、この展示の魅力を言い表していると思います。ぜひみなさんも、未読の宇宙で重力波の音を“きく”体験をしてみてください!
ブログ前編で、重力波の基本を押さえられたら、後編では、いよいよ日本で進められている重力波観測の取り組みから最新の研究内容に迫っていきます。ぜひ後編もお楽しみください!

関連リンク

  • 「研究者とめぐる『未読の宇宙』 ~重力波で宇宙を“きく”」 https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202512134296.html
  • 高知尾 理「2017年ノーベル物理学賞を予想する② 重力波信号の初キャッチ!そこから何がわかる?」日本科学未来館科学コミュニケーターブログ https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/201709252017-1.html


Author
執筆: 倉田 祥徳(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、来館者への情報発信や対話活動を行う。これまで、地球科学の最前線を紹介する企画展(Mirai can NOW第7弾「地震のほしをさぐる」)やノーベル賞関連のイベント等を担当。東北沖の大規模な海底掘削ミッション「JTRACK」のアウトリーチオフィサーとしても活動中。

【プロフィル】
大学・大学院と化学を専攻し、「植物の毒」について研究してきました。その後、シンガポールの日本人学校の教員として働く中で「教科書にとらわれず、多くの人と科学の“楽しさ”を共有したい」そんな想いから、未来館へ。

【分野・キーワード】
有機化学・植物病理学・理科教育