皆さん、こんにちは!
科学コミュニケーターの倉田祥徳です。
ブログ前編では、重力波とはどんな現象なのか、そしてどのように観測されているのかを見てきました。ここからは、日本が世界に誇る大型低温重力波望遠鏡 「KAGRA」 の話に移りたいと思います。
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大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」の挑戦
現在、世界には4台の重力波を観測するための大型のレーザー干渉計が稼働しており、3つの国際プロジェクトが連携しながら重力波観測を進めています。
「科学研究というと、国際的な競争をイメージする方も多いかもしれません。しかし重力波観測の世界では、むしろ 協力 が欠かせない」と梶田先生はいいます。その理由は、レーザー干渉計から得られる情報の性質にあります。一つの観測所が高性能のレーザー干渉計で観測していたとしても、単独では重力波が「どこから来たのか」を知ることはできません。レーザー干渉計でわかるのは、光の強さが強くなったり弱くなったりする、つまり腕が伸びたり縮んだりした変化だけです。その変化が、宇宙のどの方向から飛んできた重力波によるものなのかは、一つの観測所だけでは判断がつかないため、必要になるのが、世界の観測所が協力して重力波をとらえることなのだそうです。
「重力波は光と同じ速さで宇宙を伝わってくるため、最初にどこが観測したのか、次にどの観測所に届いたのか、その到来時間をきちんと調べることで重力波がどこから来たかがわかる」と梶田先生は話します。このように世界中の重力波観測が国際的に協力することで、重力波研究を大きく前に進めてきたのだと強調されていました。その重要なプロジェクトの一角を担っているのが、日本の大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」です。KAGRAは、岐阜県飛騨市・神岡の地下に建設された、腕の長さが3キロメートルの巨大なレーザー干渉計です。地下深くに設置されているのは、地表よりも地震の揺れや温度変化の影響を受けにくく、安定した環境で観測ができるためとのこと。
また、他の大型レーザー干渉計にはないKAGRAの強みを梶田先生にうかがうと、鏡を低温にしていることだと語ります。鏡も物質であり、ミクロな視点でみると分子からできているので、分子の運動によってわずかに振動してしまいます。これは重力波を観測するうえで、邪魔もの(ノイズ)になるので、鏡を-253度という極低温まで冷やして運用する 「極低温鏡」 を採用しているそうです。
このとき使われているのはサファイア製のガラスです。宝石以外にもこんな使い道があるとは、驚きです!このほかにも重力波による微小な変化を逃さないために、さまざまな工夫をしていると語る梶田先生。たとえば、他の大型レーザー干渉計と同様に、強力なレーザー光を使用したり、装置の腕の長さに物理的な制約がある分、レーザー光を平均1000回ほど往復させ、実質的な光路長を大きく伸ばすなど、検出感度を高める工夫が数多く盛り込まれているといいます。KAGRAは、令和6年能登半島地震の被害をうけ、一時的に観測停止を余儀なくされましたが、2025年6月より運用を再開しています。KAGRAのこれからの研究成果に期待したいと思います!
次の章では、重力波を調べることで何がわかるのか、そして研究者たちはどんなことを明らかにしようとしているのかについて見ていきましょう。
重力波研究で何がわかる?
これまでは、ブラックホールどうしの合体により生じた重力波について主に見てきましたが、実は重力波をつくる天体はブラックホールだけではありません。中性子星とよばれる非常に高密度の天体どうしが衝突しても、重力波が生じるのだそうです。
2017年8月17日、中性子星が合体したときに放出された重力波が初めて観測されました。このときの中性子星は、太陽の約1.4倍の質量をもち、半径はわずか12キロだと考えられています。このときは、アメリカの2台のレーザー干渉計と、ヨーロッパのレーザー干渉計が同時に観測を行っており、3つの観測所のデータを組み合わせることで、重力波がどの方向からやって来たのかを推定することができました。そのため、重力波がうまれた場所を特定し、そこで何が起きているのかを調べるために、世界中のさまざまな望遠鏡がその方向を追って観測を行ったそうです。この追観測に参加した望遠鏡の数は、なんと70以上にものぼりました。
その結果、ある銀河の中に、突然明るくなるという光の変化が見つかったそうです。梶田先生によると、その観測された光の性質を調べると大量の金などの重金属が生成されたと考えて矛盾がない結果になったそうです。
さらに、この結果は、スーパーコンピューター「富岳」で行われた大規模シミュレーションとも一致していると、梶田先生は話します。このときのシミュレーションでは、2万個を超えるCPU(コンピューターの計算を担当する頭脳のようなもの)を半年間動かし続けるという膨大な計算によって、中性子星どうしが近づき、合体し、周囲にどのように物質をまき散らすのか、その過程をシミュレーションで再現したそうです。
このように中性子星の合体から生じた重力波を調べることで、重金属などがどのようにできるのか、という起源を突き止めることができます。しかし、現在までに中性子星合体の観測は、まだ2例しかありません。とくに、中性子星合体の直前から直後の部分は世界の重力波観測網でも十分にとらえられていないそうです。この領域の重力波は周波数が高いため、現在の装置では観測が難しいといいます。そこでKAGRAは今後、高い周波数帯の重力波をとらえる能力を伸ばし、中性子星合体の直前や直後を含めて、中性子星どうしの合体によって放出される重力波を詳しく観測することを目指していると、梶田先生は語ります。
また、このほかにも、重力波観測によって解き明かしたい謎は多く残されているそうです。たとえば、太陽の100倍を超えるような、予想外に重いブラックホールの存在や、理論上「存在しないはず」とされた質量のブラックホールが見つかってしまう理由、超新星爆発のときの重力波の正体など、多岐にわたります。重力波天文学は2015年に扉を開けてから、まだ10年。これから、どんどんその謎が解き明かされることでしょう。そして何より、アインシュタインが約100年前に予言した重力波を、いま私たちが実際に観測できる時代にいると思うと、嬉しく感じずにはいられません。これから重力波観測によって、どんなことがわかってくるのでしょうか。
最後に
2024年4月にオープンした常設展示「未読の宇宙」の公開を記念し、これまで全4回のイベントを実施してまいりました。それぞれの回では、展示で扱う宇宙の謎に迫るアプローチを、監修の先生方のお力添えをいただきながら紹介することができ、多くの皆さまに「未読の宇宙」の魅力と、宇宙研究の面白さと奥深さをお伝えできたのではないかと感じています。ご登壇いただいた先生方の研究に、今後も注目していきましょう!
関連リンク
- 倉田 祥徳「重力波を観測できる時代に、私たちは生きている(前編)」日本科学未来館科学コミュニケーターブログ https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20260319post-604.html

執筆: 倉田 祥徳(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、来館者への情報発信や対話活動を行う。これまで、地球科学の最前線を紹介する企画展(Mirai can NOW第7弾「地震のほしをさぐる」)やノーベル賞関連のイベント等を担当。東北沖の大規模な海底掘削ミッション「JTRACK」のアウトリーチオフィサーとしても活動中。
【プロフィル】
大学・大学院と化学を専攻し、「植物の毒」について研究してきました。その後、シンガポールの日本人学校の教員として働く中で「教科書にとらわれず、多くの人と科学の“楽しさ”を共有したい」そんな想いから、未来館へ。
【分野・キーワード】
有機化学・植物病理学・理科教育







