
オンラインで育つ愛着と共創
茨城県鹿嶋市─。北浦と鹿島灘に挟まれた位置にあり、鹿島臨海工業地帯として大手鉄鋼会社が立地する「鉄の街」だ。また、日本建国・武道の神様を御祭神とする鹿島神宮やJリーグ・鹿島アントラーズのホームタウンであり、関東有数の「サッカーの街」でもある。
そんな同市も2020年以降は大きな逆風に直面している。人口減少だ。ところが一方で増えている人口の数値がある。
「オンライン関係人口」だ。関係人口とは移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と関わる人を指す。
そのオンライン版でもあるオンライン関係人口を鹿嶋市が運営するオンラインコミュニティで生み育てる取り組みを行ったところ、同市の人口約6.3万人を上回る6.9万人を数えるまでに成長した。しかも、このうちの99%が市外在住者であるという。
こうしたオンライン関係人口を創出する一つの入り口として、クリーク・アンド・リバー社(C&R社)とクオンが共同で手掛け、鹿嶋市も参画しているのが「JAPAN共創BASE りろかる」だ。全国を8エリア(北海道、東北、中部、関東、近畿、中国、四国、九州)に分け、各ローカルコミュニティを束ねている。生活者は誰でも無料で参加・交流することができる。
ブランドや商品、サービスに対して共通の興味や愛着を持つ人々が主にオンライン上で交流する「ファンコミュニティ」と呼ばれるもので、ファンという言葉に代表されるように、基本的には、共通の興味や愛着に対して誹謗中傷はなく、ポジティブな声がオンライン上に投稿される。
実際に鹿嶋市が運営するファンコミュニティ上では活発なやり取りが行われている。運営スタッフが「鹿嶋市とガチ共創!/鹿嶋市産『オーガニック大豆羊羹』のネーミングを一緒に考えよう♪」と呼びかけると、コミュニティに参加しているユーザーから様々なアイデアが行き交い、6つの案(千年羊羹、鹿恋大豆羊羹、鹿印そいかん ~organic soybean yokan~、在来大豆羊羹、ぱらだいず、22世紀羊羹 )が集まった。
さらに投票を行った結果、「千年羊羹」が誕生。これらの取り組みが奏功し、鹿嶋市のコミュニティをきっかけとしたふるさと納税寄付額は21年のオープンから3年で18倍に増加。24年度の同市のふるさと納税寄付額は過去最高を記録するなど、ファンコミュニティが大きく貢献した形だ。
このファンコミュニティ自体は1996年創業のクオンが構築・運営。既に累計300超の企業や自治体のファンコミュニティを手掛けているのだが、実はこのクオンと資本業務提携を結び、自社のネットワーク網を活用して広がりをつくろうとしているのが、ゲームやIT、医療、会計、法曹などのプロフェッショナル人材の派遣・紹介などを行っているC&R社だ。
なぜC&R社が地域振興に取り組んでいるのか。同社取締役の後藤野人氏は「地方出身の(映像やゲーム、広告などを手掛ける)クリエーターの多くが東京で経験を積んだ後には、地元に戻って自分の故郷を盛り上げたいと考えている。こういったプロフェッショナルなノウハウを地方創生にも生かせるのではないかと考えた」と話す。
クオンはAIを活用して場を活性する技術などの特許を数多く持ち、長きにわたりコミュニティ運営や分析のノウハウを蓄積してきたが、その強みでさらに広範囲な社会課題の解決に貢献したいと考えていた。そこでC&R社のプロフェッショナル・ネットワークが生きる。
企業と生活者の新たな対話基盤
AIファンコミュニティを導入しているのは自治体だけではない。企業も導入しており、食品や雑貨など消費者向けの商品や外食店舗などを単位としたコミュニティもある。「あるコミュニティでは主婦が自宅冷蔵庫の中身を写した画像を投稿している。メーカーからすれば、どのように収納しているのかが分かり、次の製品開発の改善にもつながる」(同)。
通常であれば、調査会社に市場調査を依頼してニーズなどを汲み取って新商品開発や既存商品の磨き上げにつなげているが、「りろかる」はその商品に思い入れがある消費者が直接反応を投稿する。「ダイレクトマーケティングの要素もある」(同)。
トランプ米政権の誕生で国際情勢は分断・分裂の様相を帯びる。一方で、SNS上では匿名であることをいいことに、心ない誹謗中傷が飛び交う。しかし、「りろかる」では誹謗中傷を回避し、ファンが集う「安心・安全」なコミュニティ環境を整備。SNSの短所を補って時間や地理的な制約を受けない長所を地方創生につなげている。
同社第二ビジネス・プロデュース・グループマネージャーの松場友平氏は「まずはライトな層をどれだけ惹きつけられるかがポイント。テレビ、ラジオ、雑誌に次ぐ新たなマスメディアに育てていきたい」と語る。
C&R社会長(CEO)の井川幸広氏はプロフェッショナルの力で社会課題解決を進めている。中小企業の事業承継問題を上場企業の役員経験者を活かすことで解決に導くなど、プロフェッショナルという人的資源をフル活用する戦略を描いている。
業種業界を問わず、様々な企業が地方創生に取り組む中、「りろかる」が存在感を放つためには、より一層の集客が欠かせない。
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