広島市に本社を構える三島食品は、設備保全のDXにより、設備停止(ドカ停)の削減と点検業務の効率化を実現した。導入後、設備要因による停止時間は年間で約15%削減され、点検作業時間も従来の3分の1~4分の1に短縮されている。
同社は「ゆかり」をはじめとするふりかけや混ぜごはんの素、青のり、業務用食品などを製造・販売する食品メーカーだ。国内外に4つの生産拠点を持ち、主力である広島工場では日々多くの製品が生産されている。
長年にわたり高品質な商品を提供してきた同社だが、工場設備点検の質のばらつきや保全業務の属人化という、製造業共通の課題に直面していた。
そうした中で、設備保全DXの取り組みとして、スタディストの現場点検デジタル化ツール「iCheckup!」が導入された。本稿では、三島食品広島工場における設備保全DXの取り組みとしての「iCheckup!」導入の背景と活用方法、得られた成果について紹介する。
紙点検と属人化が生んでいた“ドカ停”のリスク
広島工場では長年、設備点検を紙ベースで運用していた。点検そのものは日々実施されていたものの、部門ごとに運用の差が大きく、点検の質にばらつきが生じていた。ある担当者は細部まで確認する一方、別の担当者は最低限の確認で「問題なし」と判断するなど、基準の統一ができていなかったという。
広島工場 工場長 漆原孝秀氏は、次のように、以前の点検作業の課題を説明した。
「本当に点検しなければいけないところに目が向いていないという課題がありました。機器故障による製造工程の停止が発生した際、『以前から音が気になっていました』と事後報告を受けることもあり、機械の異常に気づいているのに、そのまま生産をし続けて、最終的にはドカ停(生産設備における1時間以上の停止)も発生していました」
また、予防保全は現場のベテラン社員の経験や勘に頼っていた部分もあり、技能の属人化による情報共有の不十分さも課題としてあった。
既存ツールは浸透せず、現場が求めた新たな選択肢
そこで広島工場では、紙運用からの脱却を目指し、数年前にある点検ツールを導入。しかし、ツールの持つ機能は豊富であったものの、取り込みや編集が煩雑で、操作の難しさもあり、現場には十分に浸透しなかったという。
「一度Excelに入力してからアップロードする点や、変更も直接行えず、Excelを介する必要があるなど、取り込みや編集がやりづらく、一人で管理する余裕がありませんでした。そのため、やり方を変えたいと思いが漠然とありました」と、広島工場 安全安心担当の内海章友氏は既存ツールの問題点を指摘した。
そうしたタイミングでスタディストから提案されたのが「iCheckup!」だったという。同社は既にスタディストのマニュアル作成ツール「Teachme Biz」を導入しており、先方の営業との打ち合わせの際、新たにリリースされた「iCheckup!」を紹介されたのが導入のきっかけだったという。
そこで、2024年の夏から冬にかけて「iCheckup!」のテスト運用を実施し、使い勝手や現場適合性を確認。2025年2月から本格運用を開始した。
ブラウザ型で現場に浸透、「Teachme Biz」連携で点検標準化
「iCheckup!」はブラウザで利用でき、インストール作業が不要である点が高く評価された。また、従来のツールに比べてチェックリストの作成・編集が容易で、管理負担も大幅に軽減されたことも好印象だったという。
さらに、「Teachme Biz」と連携できる点も導入の後押しとなった。「iCheckup!」のチェック項目から、「Teachme Biz」で作成した動画や写真付きマニュアルにリンクを設定することで、「どのような観点で点検すべきか」を標準化できるようになった。
これにより、点検の質を一定水準に保ちつつ、教育・技能伝承にもつなげる仕組みが整った。また、属人化していたノウハウがデジタル上で共有され、誰もが同じ基準で設備を点検することが可能になった。
同社は今後、「Teachme Biz」との連携をさらに強化し、点検基準のバラつきをなくして標準化を進め、より精度の高い点検の実現につなげたいと考えている。
チケット機能が変えた現場の“報告文化”
「iCheckup!」の特長の一つが「チケット機能」だ。通常の点検はOK/NGの二択だが、「一応OKだが気になる」という微妙な状態も少なくない。チケット機能では、こうした小さな気づきを写真付きで上司に報告できる。
また、写真に赤丸を付けるなど簡易編集機能も付属し、異常箇所を明確に示した上で上司と共有できる。報告内容は対応が完了するまでデータとして残るため、未処理案件の確認も容易だという。
「上司の業務が忙しくすぐに確認できないこともありますが、現場には、とりあえず報告だけしてもらうようにしています」(内海氏)
これによって、以前のように「実は機械の音が気になっていた」という事後報告もなくなったそうだ。
広島工場では導入後1年間で約500件のチケットが発行され、小さな異常や違和感の共有が進んだ。これまで見過ごされがちだった兆候が可視化され、結果として設備トラブルの未然防止につながっている。
その結果、設備要因による停止時間は年間で約15%削減するという成果につながっている。また、点検業務そのものの作業時間も、従来の3分の1から4分の1に、大幅に短縮された。
「オーナーズ点検」で現場主体の点検へ
さらに、「オーナーズ点検」という取り組みも進められている。これは、設備課だけでなく、日々機械を扱う現場担当者を“オーナー”と位置づけ、責任を持って点検を実施する仕組みだ。
導入時には、工場長が自ら現場説明を実施した。目的や操作方法を丁寧に伝え、「判断に迷ったらチケットを発行すること」「少しの変化に気づくため、写真を撮ること」といった具体的ルールとして「オーナーズ点検における心得7箇条」も明示した。これにより、点検実施率は当初の約40%から現在は約80%へと向上した。
「『iCheckup』のチケットで報告されることによって、煩雑さは減ったと思っています。以前は、報告しようと思っていても、忘れてしまうことがありましたが、チケットはそれが完了するまで残っていますから、途中で確認できます。1カ月前にチケットを発行していますが、対応が終わっていませんなどの会話が日常的にできるので、非常に助かっています」(漆原氏)
また、点検結果を事務所前の掲示板で可視化し、全社員が状況を一目で把握できるようにした。これにより、パソコンを使わない従業員にも情報が共有され、工場全体で保全意識が高まりつつあるという。
次の目標は「保全から設備改善へ」
広島工場が目指すのは、単なる保全強化ではなく、最終目標は「保全しやすい設備への改善」だ。点検スキルを評価制度に反映させる構想も検討しており、技能向上を促す仕組みづくりを模索している。
現在は2カ月ごとの定期点検を基本としているが、十分な予防保全が実現すれば、設備ごとに最適な周期へ柔軟に変更できる可能性もある。同社は将来的には“ドカ停20%削減”を目標に掲げ、さらなる高度化を目指している。
「私が最終的にやりたいと思っているのは、保全を改善につなげることです。そして、保全しやすい設備に改善していくのが最終目標です。また、上層部とは相談している段階ですが、報告を評価につなげていくことで、さらにスキルアップできると思っています。それにより、現在は、2カ月に1回、すべての設備点検するルールになっていますが、しっかり点検して保全もできれば、この設備は4カ月に一度の点検でもよいということにもなると思います」と漆原氏は目標を語った。





