
日本の潜在成長率は2025年7―9月期時点で+0.5%と、内閣府は推計している。この数字への寄与度は、全要素生産性が+0.4%ポイント、資本投入量が+0.2%ポイント、労働時間が▲0.2%ポイント、就業者数が+0.2%ポイントである。
高市早苗内閣は、大胆で戦略的な「危機管理投資」と「成長投資」を促し、こうした低い潜在成長率を高めて「強い経済」を実現することを目指している。昨年11月に閣議決定された総合経済対策や12月の税制改正大綱は、成長力引き上げのための政策パッケージという性格を帯びている。
AI(人工知能)の積極活用を含む企業行動の変革により、生産性が実際に高まるなら、企業の賃上げは進みやすくなる。
減税措置に促されつつ、将来をにらんだ戦略的な設備投資が企業の側で活発化するなら、資本投入量の面から潜在成長率は押し上げられる。
さらに、法定労働時間の規制を緩める、いわゆる「働きたい改革」が円滑に進められる場合は、潜在成長率に対する労働時間のマイナス寄与がいくぶん縮小するかもしれない。国民民主党の要求を自民党がのむ形で進められてきた所得税の「年収の壁」引き上げは、労働時間を増やす方向の政策である。
外国人労働者の活用に一定のブレーキをかけることは日本経済にとってネガティブだが、上記のように整理すると、「サナエノミクス」の狙いは明確であることがわかる。
とはいえ、プラン通りに事が進むとは限らないのが、現実の経済の世界である。
生産性の引き上げは、「こうすればこうなる」というような形で計画的・具体的に実現できる性格のものではない。さまざまな動きが官民で起きる中で、振り返ってみると結果的にはこれこれの数字になった、という類の話である。政府が旗を振って企業に行動を促すとしても、それがどういう成果を最終的に産み出すのかは、まだ誰にもわからない。
生成AIに関して言えば、その普及や一層の活用が企業のコストダウンに近年結びついていることは間違いない。けれども、それが雇用情勢に対して最終的にどのような影響をもたらすのかでは、さまざまな見方がある。筆者が生成AIを日常使っていると、古くて現在は正しくない情報が元になった間違いを平然と答えてくるなど、「まだ信用できないな」と思わせられることがある。それなりに経験を積んだ人間によるチェックは欠かせない。
労働時間の規制緩和に関しては、ワークライフバランスに反するという批判が根強くある。非正規労働者の増加には、平均的な賃金水準を、統計上押し下げている面がある。
衆院選を経て高市首相が長期政権を築く場合、成長戦略の中間評価や、必要に応じた修正が行われ得る。だが、仮にそうでない場合、戦略の描き直しとなる可能性もある。