北極圏の静寂に包まれた世界最大の島、グリーンランドが今、国際政治の最前線で激しく揺れ動いている。ドナルド・トランプ米大統領がこの極寒の地に対して示す執着は、単なる不動産王としての突飛なアイデアではない。そこには、21世紀の覇権を決定づける資源と航路、そして安全保障という三位一体の冷徹な計算が働いている。
天然資源の眠る地
まず、グリーンランドが持つ天然資源の宝庫としての価値に目を向ける必要がある。
地球温暖化の影響で島を覆う氷床が急速に融解する中、皮肉にもこれまで手付かずだった膨大な地下資源へのアクセスが可能となりつつある。米国地質調査所の推計によれば、北極圏には世界の未発見石油の13%、天然ガスの30%が眠っているとされ、グリーンランドはその主要な舞台のひとつだ。
しかしトランプ大統領がそれ以上に重視しているのは、ハイテク産業や国防に欠かせない、レアアース(希土類)だ。
現在、世界のレアアース供給網は中国が圧倒的なシェアを握っており、米国にとってはこの依存からの脱却が国家存亡に関わる課題となっている。グリーンランドには、電気自動車のモーターや精密誘導兵器の製造に欠かせないネオジムやディスプロシウムなどが世界最大級の規模で埋蔵されていることが判明しており、この島を確保することは、中国に対する強力なカウンターカードを手に入れることを意味する。
通行不能の海が、黄金のショートカットに
次に、地政学的な大変動をもたらす「北極海航路」の存在が挙げられる。
温暖化による海氷の減少は、北極海を通行不能の海から黄金のショートカットへと変貌させている。アジアと欧州を結ぶ既存のスエズ運河経由の航路に比べ、北極海を抜ける航路は距離にして約40%も短縮できる可能性を秘めている。この“氷のシルクロード”が本格稼働すれば、世界の物流マップは塗り替えられ、その入り口に位置するグリーンランドは、かつてのスエズやパナマに匹敵する戦略的要衝となる。
ロシアが北極圏での軍備増強を急ぎ、中国が自らを「近北極国家」と称して投資を強める中、米国にとってグリーンランドの領有、あるいは支配力の強化は、ライバルたちの進出を阻止するための絶対的な防波堤となるのである。
北極圏を制する者が、次の世紀のルールを支配する
さらに、2026年現在のトランプ政権が掲げる新たなミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム」の実現においても、グリーンランドの地理的条件は代えがたい。
北極点に近いこの地は、北米全土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)を早期に探知・迎撃するための最短距離に位置している。既存のチューレ空軍基地(ピツフィク宇宙基地)の機能を拡張し、島全体を米国の安全保障ネットワークの核へと進化させることはトランプ氏にとって、資源確保という経済的利益を超えた、国家防衛の完成を意味する。
結局のところ、「トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる理由」は、ここが未来のエネルギー拠点であり、物流の心臓部であり、そして究極の要塞だからに他ならない。デンマークや現地住民の強い反発に直面しながらも、彼がこの巨額の買い物を諦めない背景には、北極圏を制する者が次の世紀のルールを支配するという、きわめて現実的な世界観が横たわっているのだ。
