ソフトクリエイトは2月3日、中堅企業の製造現場における自動化・品質安定化を実現する状況認識AI「メニナルAI」を発表し、都内で発表会を開催した。提供開始は2月中旬を予定している。

製造現場の人手不足・技能継承課題とメニナルAIの開発背景

ソフトクリエイトのAIに関する最近の取り組みとしては、2024年に企業向け生成AIサービス「Safe AI Gateway」を提供開始し、現在では150社ほどのユーザーを抱えているという。また、プロダクト開発のみならず、AIの技術開発にも注力しており、AI関連の特許取得は2年間で12件となっている。

昨今、製造現場では熟練者の退職や人手不足により、工程判断や暗黙知の属人化、技能ギャップの拡大が課題になっており、特に複雑な工程を持つ現場作業の前後関係、全体の流れを把握しながらの判断力が不可欠であり、現場の安定運用と品質維持には熟練者の目と経験が頼りになっていた。従来のAIは、静止画や単一工程といった点での認識が主となっており、作業の流れや文脈を理解できず、判断補完や技能継承の観点では限界があったという。

そこで、同社は2025年3月に製造業におけるAIの利用実態に関して2500人を対象にアンケート調査を実施。結果として、人手不足・技能継承に問題を抱える企業は約40%弱となり、最大の課題になっていることが浮き彫りになった。

  • 2025年3月に実施した製造業を対象としたアンケート結果の一部抜粋

    2025年3月に実施した製造業を対象としたアンケート結果の一部抜粋

ソフトクリエイト 上席執行役員 事業推進本部 企画統括部 部長の鈴木大智氏は「アンケートでは『AIの製品を導入している』と回答した企業は約6%、『自社開発で組み込んでいる』企業は同5%にとどまり、導入は停滞している。AI導入が進まない理由はリテラシーや導入コスト、社内運用、セキュリティなど特定要因に限らず複合的な課題が存在する。当社では特に『技術継承』に着目し、その解決策としてメニナルAIを開発した。中堅製造業の技術継承をサポートする状況認識AIとして現場の目になるAIとして日本の製造業を変えていく」と述べた。

  • ソフトクリエイト 上席執行役員 事業推進本部 企画統括部 部長の鈴木大智氏

    ソフトクリエイト 上席執行役員 事業推進本部 企画統括部 部長の鈴木大智氏

メニナルAIの特徴 - 工程文脈を理解する状況認識AIとは

メニナルAIは熟練技術者の現場における工程全体を見渡すことで、流れや文脈をふまえた判断をAIで再現し、熟練者の目となって現場をサポートする自律型のAI。静止画・動画・センサデータなど複数の情報を時系列で統合し、現場で発生している状況を理解することができるという。従来のAIでは困難だった「工程文脈の把握」や「判断の補完」を可能としている。

ソフトクリエイト 事業推進本部 製品開発部 部長 上席部長の畠山覚氏は、開発に向けて「2024~2025年でカバーされたAIの範囲は壁打ちやRAG(検索拡張生成)、AIエージェント、ネット検索代替など事務処理には浸透が進んだ。しかし、製造現場では生産性の可視化や職人の技術継承、目視での検査・記録、厳しい物理条件への対応などが求められていた。会社ごとに作業工程が個別最適化されており、パッケージ商品が少なく、デジタルデータとして捉えにくいということがあった。つまり、正解の定義が固定ではなかった」と指摘。

  • ソフトクリエイト 事業推進本部 製品開発部 部長 上席部長の畠山覚氏

    ソフトクリエイト 事業推進本部 製品開発部 部長 上席部長の畠山覚氏

こうした課題に対して、技術開発に取り組むことにした。まずは、マルチモーダルLLM(大規模言語モデル)の画像認識機能を利用し、連続した画像から状況を把握することで、あらかじめ学習した手順通りに物事が進んでいるかを検証し、正誤判定は可能だったが、実際の現場で検証してみると思い通りの結果が得られなかったという。

その後、実際の工場において導線認識をはじめAIで可視化し、生産性の改善ポイントを見つけて提案させて作業プロセスの改善を図り、画像認識から状況認識に拡張した。

畠山氏は「工場の作業分析で画像認識による作業員の動きと、機械のセンサデータを組み合わせた経験から画像認識を時間幅で拡張することで、状況認識が可能になるという考えに至った」と振り返る。同社では、これをもとに事例を積み上げていった。

  • 工程ごとの静止画をもとに、タグの発生順序から状況を正確に認識した

    工程ごとの静止画をもとに、タグの発生順序から状況を正確に認識した

生産効率向上の事例では、300以上の細かな工程で構成される手作業の現場に対し、メニナルAIを用いて工程ごとの状況を可視化。画像認識で部材や動きを捉え、センサ情報と組み合わせて工程の前後関係を自動判定し、非推論型生成AIによる工程開始・終了や不具合検知の自動抽出で作業の流れを正確に把握でき、生産効率と品質の安定化を確認した。

品質管理の事例においては人手では見逃しやすく、かつ金属の反射などで従来の画像認識AIでは困難だった部品の嵌合(かんごう)状態の検品にメニナルAIを導入した。AIが自動で画像に最適な補正を施すことで悪条件下でも安定した認識を実現し、99.9%の精度での不良検出を達成。これにより、多品種生産ラインにおける検品精度を向上させるとともに、検査員の負担軽減と品質管理工数の削減を実現した。

  • 品質管理の事例

    品質管理の事例

メニナルAIの技術 - 軽量設計・時系列処理・ローカルAIの採用

こうした、開発背景を持つメニナルAIの技術的ポイントは、従来の動画解析とは異なり、数枚の静止画からでも状況を認識できる軽量な設計を採用。監視カメラやIoT機器の断続的な画像など、リソースが限られる環境でも低コストに導入を可能とし、軽量かつ柔軟な状況認識アーキテクチャとなっている。

また、画像内の物体や状態をタグとして認識し、その発生順序から「何がどの順番で起こったか」という工程の文脈を把握する。時系列処理には、生成AIが扱いづらい「時間の概念」を補完する同社の特許技術(特許第7767682号、特許第7728479号、特許第7780057号)により、熟練者の判断プロセスに近い状況解釈を実現するなど、タグベースの柔軟な工程定義と時系列処理技術を活用。

さらに、機密性の高い製造現場での利用を想定し、クラウドAIに依存しない運用を可能としており、小型のローカル生成AIと従来型アルゴリズムを組み合わせたハイブリッド方式で機密情報を外部に送信することなく、現場内のエッジデバイスで処理・判断する。情報漏洩リスクを最小限に抑えつつ、通信・クラウドコストを削減するほか、専門家でなくても直感的に操作できるUI/UXを追求しているとのこと。

加えて、AIによる判断の精度を極限まで高めるため、認識の「入口」では高度な画像処理で高品質なデータをAIに渡し、「出口」ではAIが出した判断結果を後から補正する独自の多段階プロセスを実装。対象物を正確に捉える高度な画像処理技術や、推論結果のブレを抑える認識補正技術(特許出願中)を搭載し、時系列判断の安定性を高めているという。

そのほか、一度導入して終わりではなく、現場ごとのデータを用いた追加学習(ファインチューニング)や、現場作業者のフィードバックを反映させる強化学習(RLHF)に対応している。

  • メニナルAIにおける4つの技術的ポイント

    メニナルAIにおける4つの技術的ポイント

使い方は、静止画・動画から画像を取得して画像の集合にタグ付けを行い、センサなどの情報は画像集合に紐づける(1)画像タグ付け、タグの発生順序を指定して工程を定義する(2)工程の定義、静止画・動画を入力すると自動的にタグを分類する(3)画像認識、タグの時間順序から工程を認識て何が起こっているのかを把握できる(4)工程認識の4つのステップとなっている。

  • 使い方の概要

    使い方の概要

今後、メニナルAIは状況認識に加え、安全な次の行動を提案する「予測・見守りAI」に発展させ、手順書自動生成など現場判断を高度化する。また、2026年夏にはスペクトル分析で特定周波数成分の音を認識する「ミミニナルAI」、同秋に物理機器の制御を行う「ウデニナルAI」、将来的に現場に自然に溶け込む「頼りニナルAIシリーズ」として進化させていく考えだ。

  • まずは「予測・見守りAI」に取り組み、音声、制御と段階的に開発を進めていく

    まずは「予測・見守りAI」に取り組み、音声、制御と段階的に開発を進めていく

なお、同製品の効果を最大化するため、導入支援やPoC(概念実証)、暗黙知の可視化、作業標準化、熟練者と非熟練者の動きの差分可視化など、現場課題に合わせた利活用支援サービスも順次提供を予定している。

畠山氏は最後に「最終目標として、情報認識技術を基盤に物理的な危機を安全に制御できるフィジカルAIの時代を見据えて、基盤構築を進めていく」と述べ、プレゼンテーションを結んだ。