“オールドメディア"と揶揄される一方で、最新技術を積極的に導入しているテレビメディアの動向を取材するシリーズ「テレビ×サイセンタン」。
今回は、昭和・平成・令和と数々のヒット曲を生み出し続けてきた【秋元康】と、最新AI技術でその秋元氏の考え方を学習した【AI秋元康】がAKB48の新曲プロデュースで対決するという前代未聞の番組『秋元康×AI秋元康 ~AKB48新曲対決』(日本テレビ、Huluで配信中)の舞台裏を、前・後編で探っていく。(前編はこちら)
話を聞いたのは、企画プロデュースの柏原萌人氏、総合演出/AI監修の大納啓汰氏、演出の吉川真一朗氏。対決の結果が海外にも衝撃をもって紹介されたが、テレビの制作現場はAI技術とどのように向き合っているのか。そして、今回の番組が社内横断プロジェクトとして実現した中での今後の展望とは――。(第2回/全2回)
秋元康がAIに負ける?
この対決は、情報番組『DayDay.』にAKB48が出演して双方の楽曲を披露し、視聴者投票で勝敗を付けた。その結果は、【AI秋元康】の「思い出スクロール」(14,225票)が、【秋元康】の「セシル」(10,535票)を上回って勝利。本人がAIに敗北を喫したのだ。
秋元氏が、プロデューサーを務めるAKB48を含め、多数のヒット作品を手掛けていることは、ご存知の方も多いだろう。この「稀代のヒットメーカーである秋元康氏が“AIに負けた"」というニュースは、日本だけでなく英・BBCをはじめ海外メディアにも衝撃をもって取り上げられたという。
「社内から『海外のニュースですごいことになっていますね』と連絡が来ました。その時に、BBCで取り上げられていることを知り、『こんなことになっちゃってるの!?』と自分でも大変驚きました」(柏原氏)
かつて、「チェスでコンピューターが世界王者に勝利した」というニュースが大きく話題になったことがあったが、今回も「世界でもトップクラスの作詞数の人がAIの作品に負けた」という点で話題になったようだ。
世界でここまで反響があった背景には、「海外でのAIとの関わり方」があるのではないかと捉えている。
「欧米では、AIをクリエイティブの領域に入れることに対して、ストライキが起きるくらいセンシティブな話題になっています。そんな中で、日本では『大物作詞家』をAIで再現しただけでなく、対決させて『負けさせた』。海外の反応では『とんでもないことをやったね』という受け止め方になったのかな、と想像しています」(大納氏)
このような先進的な取り組みを知ることで、「AIに仕事を奪われるのでは?」という懸念を持った読者も少なくないだろう。だが制作側としては、今回の番組を通して、「AIは敵ではない」というメッセージを伝えることに注力していたという。
「ここ半年くらいで、AIが本当の意味で生活の中に入ってきた感覚があります。私たちの中で大事にしたいと話していたのが、『AIが敵じゃない』ということです。AIは、あくまで『人のため、人の繁栄のためにあるもの』で、使う人と使い方次第で無限の可能性があります。僕らの未来のために良いものかもしれない、ということを提示できたらいいよね、という概念を旗印にして、番組全体が動いていました」(柏原氏)
日本テレビのAI活用
日本テレビではAI活用が経営レベルのテーマになっており、2025年~2027年の中期経営計画にもAIがポイントの1つとして明記されている。
「企画出しの段階でAIを『遠慮なく話せる相手』として利用できるようになったのは良い変化だったと思います。これまでは、深夜にスタッフや放送作家さんに連絡するのは申し訳ないから作業を先延ばしに……ということも少なくありませんでしたが、AIだと時間や相手の都合を考えずに相談ができます。また、人間相手に『面白くない』と伝えるのは気が引けますが、AIが相手なら『それは違います』『こっちじゃないですか』と言える。遠慮なく突っ込める相手としても、すごく良いツールだと感じています」(大納氏)
また日本テレビでは、作業の効率化やアイデア出しの補助としてだけでなく、視聴率分析の領域でもAIを導入し始めているという。
「『DayDay.』では、AI視聴率分析を行っています。普段だと『あのコーナーの視聴率良かったよね』という漠然とした記憶に頼るしかありませんが、AIがコーナーの視聴率を分析し、ランキングで出してくれることで、体感ではなく、正確に視聴率を把握できるようになりました」(吉川氏)
このようにさまざまな場面でAIが活用されるようになっており、柏原氏も、「作業が多くてカロリーの高い業界だからこそ、AIは“カロリーを減らしてくれる道具"になり得る」と感じているという。
AIにしかできないことで「新しい100点」を生み出す
AIの活用で大きな恩恵を受ける一方で、大納氏は番組制作のクリエイティブ面においては「AIから生まれたクリエイティブで、本当の意味で人を心から感動させた例は、まだ意外と少ない」と感じているという。
「AIを活用したチャレンジは自分たちもしていきたいと思っています。しかし、『人が時間をかけて作っていたものをAIで代替する』のでは、根本から新しいクリエイティブは生まれない気もしています」(大納氏)
同氏は、今後は「AIの特性をどう企画に落とし込むか」を議論していくべき、とした上で、「AIにしかできないことを見つけること」を次のステップとして捉えているという。
最後に大納氏は「AIで『80点、90点のものができる』のは分かりました。だからこそ、『AIにしかできない新しいことで100点を生み出す、そしてその一番手が日本テレビでありたい』という気持ちがあります。他局に乗り遅れないように、この経験を生かして次に進んでいきたいですね」と語ってくれた。
柏原氏もこの意見には大きく賛成の様子で、「一番最初に新しいことをエンタメにしているのが、日本テレビであれたらうれしい」とした上で、今後の展望を述べた。
「AI秋元康の企画にこだわり続けるというよりは、今回培った知見とチームの能力を、別の軸にも生かしていきたい。このチームだからこそできる新しいエンターテインメントを、これからも仕掛けていけたらと思っています」(柏原氏)
メディアの世界でもAIが当たり前に活用されるようになった。その最前線で戦う若いチームは、すでに次の一手を見据えているようだ。



