KDDIは1月22日、シャープ堺工場跡地に開設した「大阪堺データセンター」(大阪府堺市)の稼働を開始し、その内部をメディアに公開した。同データセンターは産業や商業の集積地である大阪都市圏からおよそ15キロメートルというアクセス性から、低遅延なレスポンスでAI活用を支える。
同データセンターは2025年4月に取得したシャープ堺工場跡地の電力設備や冷却設備を転用。KDDI Telehouse渋谷データセンターで培った水冷技術や、海外で他施設をデータセンターへ転用した経験を生かし、1年間に満たない短期間で構築した。
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大阪堺データセンター開所式(左から、日立製作所 執行役常務 CEO 細矢良智氏、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ SVP 兼 CPO Trish Damkroger氏、エヌビディア 日本代表 大崎真孝氏、KDDI 代表取締役社長 CEO 松田浩路氏、大阪府 堺市副市長 本屋和宏氏、グーグル・クラウド・ジャパン 代表 三上智子氏、シャープ 執行役員 CDO 中野吉朗氏)
松田社長「通信基盤とAI基盤の両輪で日本を支える」
データセンターの稼働開始に際し、KDDI 代表取締役社長の松田告路氏は「大阪堺データセンターは、日本の産業競争力の向上に貢献したいと思いから構築を進めてきた。当社は国内に多くの通信センターや局舎を保有しており、海外でもデータセンター事業を展開している。KDDIは社会インフラを担う事業者として、通信基盤だけでなくAI基盤も両輪で日本のデジタル社会を支えていく」と述べた。
また、堺市副市長の本屋和宏氏は「堺市は仁徳天皇陵古墳をはじめ百舌鳥古市古墳群が出土し、中世には貿易拠点として繫栄した。現在は市政運営の大方針である堺市基本計画2025において、『未来を作るイノベーティブ都市』を掲げ、歴史の街である堺から未来をつくる挑戦を進めている。多様な製造業が集積し、学術機関・研究機関が多数存在する堺において、『大阪堺データセンター』は革新的なイノベーションをもたらす拠点になると確信している」とエールを送った。
大阪堺データセンターは、地上4階建て、延床面積は約5万7000平方メートル。再生可能エネルギー由来の電力を100%利用するという。また、NVIDIA GB200 NVL72をはじめとするGPUの廃熱に対応するため、従来の空冷方式に加えて水冷方式の一種である直接液体冷却を導入している。
最大の受電容量は約50メガワットとしており、これは一般家庭に換算すると約1万2000世帯分に相当する。
大阪の中心部に近いという堺市の立地条件に加え、高度な計算能力および冷却技術、ソブリン性の確保、広帯域・高品質なネットワークを強みに、大阪堺データセンターはAIサービスを提供する。
シャープ堺工場の設備を最大限に利用したデータセンターに
ここから、今回稼働を開始した大阪堺データセンターの内部設備について紹介しよう。筆者も見学して驚いたのだが、松田社長が"居抜き"と表現していたことからもうかがえるように、かなり多くの部分にシャープの既存設備が転用されていた。
従来のデータセンターを新設する場合はおよそ3~4年かかるとされるが、1年未満の短期間で大阪堺データセンターが構築された理由がここにある。
DLC方式に対応するサーバルーム
まずはデータセンターの中でも非常に重要なサーバルームから。建屋の3階が主にサーバルームとして使用されるが、4階や1階の一部スペースも将来的にはサーバルームとして稼働する予定だ。全フロアで水冷に対応可能。
ここに設置されているNVIDIA GB200 NVL72は、1ラックに最新世代「Blackwell」GPU 72基を搭載可能で、NVLinkという高速ネットワークで接続することで1枚のGPUのように利用できる。NVIDIAによると、H100などの従来世代と比較して、AIモデルの学習処理で最大4倍、推論処理では最大30倍の性能向上が見込めるとのことだ。
KDDIはこれらの基盤を活用し、GoogleのAIモデル「Gemini」やELYZAなどを、国内に閉じた環境で提供する。AIモデルだけでなく、学習・推論のインフラやAIサービスそのものなども展開する方針だ。
15分間の予備電源を備える電気室
変圧器は関西電力から供給される7万7000ボルトの電気を、データセンターで使用できる6600ボルトまで変換する。変圧器は施設内に2台設置され、電力会社からの電源も2系統で引いている。うち1台はバックアップ用。なお、2台の変圧器はシャープから受け継いだものだ。
変圧器から受け取った電気をサーバルームへ安定的に供給するのが、データセンターの開設に当たり新設した電気室の役割。以前は空き部屋となっていた空間だそうだ。
電気室は停電などに備えてUPS(無停電電源装置)バッテリーを整備し、非常時でも15分間は稼働を継続できる。この15分間が、コンピュータを安全にシャットダウンする猶予をもたらす。
サーバ冷却を担うターボ冷凍機と冷却塔
サーバの廃熱に対処する重要な設備が、冷水を生成するターボ冷凍機。大阪堺データセンターのサーバはDLC(Direct Liquid Cooling:直接液冷)方式に対応しており、ターボ冷凍機で冷やされた冷水はサーバルームのCDU(Coolant Distribution Unit:冷却分配ユニット)へと運ばれる。
ターボ冷凍機はタービンで圧縮した冷媒ガスを液化させ、その際に発生する気化熱を利用して冷水を生成する。このターボ冷却器もシャープ工場の既存設備であり、3台が設置されている。現在は1台のみが本稼働しており、2台が予備。設置スペースにはもう1台増設する程度の余裕があるという。
ターボ冷却器で暖められた水は屋上の冷却塔(クーリングタワー)へ運ばれる。冷却塔では冷却水が外気と接触しており、気化熱を利用して水を冷却する。冷却塔を通過することで、夏場は37度から32度ほど、冬場は28度ほどへと水温が下がる。
夏場ではおよそ1日に160トンの水が蒸発するという。冬場ではおよそ50トンほどだ。大気中に蒸発する冷却水は、堺市から工業用水を引いている。
シャープから受け継いだ3台の冷却塔が設置されており、現在は1台が本稼働中。今後のサーバ稼働の状況に応じて、チラーやその他の設備を順次増設予定。
高度な計算能力で国内のAI活用を促進
KDDIはさまざまな分野でのAI社会実装に向け、大阪の産業・商業エリアの中心から約15キロメートルというアクセス性に優れた大阪堺データセンターを通じ、低遅延かつ高信頼のAIサービスを提供する。
日本国内でのAI運用を支えるため、Googleの生成AIモデル「Gemini」などの利用においても、データのソブリン性に配慮した管理体制を実現。国内の法令や規制のもとでの適切なデータ管理によりリスク低減に寄与する。
監視カメラ映像を含む映像データや企業の機微な情報など、機密性の高いデータも国内で管理したまま、AIの学習や推論へ活用できるとのことだ。
データセンターは、最大100ギガビット / 秒のインターネットに加え、閉域網(KDDI Wide Area Virtual Switch 2)と、さまざまなパブリッククラウドと広帯域で閉域接続が可能なマルチクラウドゲートウェイを有している。
これらの特徴を生かして、KDDIとKDDIグループの医用工学研究所は、武田薬品工業とともに、2026年4月以降にAIによる医療ビッグデータの多角的な分析を行い、患者への新たな価値創出に向けた探索的なプロジェクトへ取り組む予定だという。
取り組みの結果、従来は1000人規模の電子カルテの分析に2カ月を要するのに対し、医療特化のLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)を用いることで、10万人規模の分析でも3日程度で完了できるようになると期待できるという。













