競馬のムチの音をAI(人工知能)で自動検出する技術を、筑波大学の研究グループが開発した。レース中にムチを使う回数や方法には規則があり、現在は動画などをもとに人間がチェックしている。今回の技術が実用化されれば、ムチの使用状況をより正確に把握できるようになってレースの公正性が担保される。また、ムチの適正な使用が徹底されることで、動物福祉にもつながるとしている。

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    ムチは馬をコントロールするために使われるが、馬の苦痛を抑えるため回数や頻度に規則がある(1月4日の中山金杯、競馬のおはなし提供)

筑波大学システム情報系の善甫(ぜんぽ)啓一准教授(ヒューマンインターフェース学)は2年ほど前、競馬の配信サービス会社の関係者から「馬のムチの音を検出できないか」との相談を受けた。ブタのくしゃみの音を検出することで健康状態などを把握する、という内容の善甫准教授の共著論文を読んで連絡してきたという。

JRA(日本中央競馬会)は、レース中のムチの回数や頻度、強さ、ムチの長さや形などを決めている。これらに違反すると、罰金や失格、騎乗停止などの重い処分が下される。海外のレースでも同様に決まりがある。ムチの使用状況は、審判員がレース後に動画などでチェックしており、善甫准教授は「自動検出システムがあれば効率化できる」と考えて研究に取り組んだ。

善甫准教授らは、ムチの音に注目した。まず、厩舎内で調教師らに形状の異なる様々なムチを使ってもらい、それぞれの音データを記録した。これらを詳しく解析した結果、22キロヘルツを超える高い周波数の音も含まれていることが分かった。こうした高周波音を一般的な録音方式で正確に拾うことは難しく、特殊な機材を使うことにした。

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    ムチの音の周波数を解析したグラフ。非常に高い周波数帯までの音を含んでいた(筑波大学提供)

3続いて、関東の競馬場やフランスのパリロンシャン競馬場のレースでムチの音声データの収集を試みたところ、競馬場内は観客の歓声などで70~126デシベルの騒音が響いていた。飛行機のエンジン音を間近で聞く音量(120デシベル)にも等しく、客の多い場所ではムチの音を拾えない。このため、観客の少ない場所や馬場に近いコーナー付近で集音を重ね、70パーセントの精度で自動検出できるようになったという。

善甫准教授は残りの30パーセントについて、「馬の種類、ムチの種類、マイクまでの距離など様々な要素があり、完璧な検出は容易ではない。より多くのレースのデータを解析して精度を上げたい」と話す。「1日に何度もあるレースで、人が細かくチェックするのは大変だ。必ずしも人が全部やらねばならない仕事ではないと思う」。

今回の自動検出システムが実用化されれば、過剰なムチの使用を防ぐことができると期待される。善甫准教授は「馬の負担を減らすことにもつながるよう、技術を確立したい」と話している。

これまで善甫准教授は競馬をしたことがなかったが、今回の研究を機に500円の馬券を初めて買ったところ1万円に化けた。ただ、それ以降は確率を考えて馬券を買わず、「勝ち逃げ」しているという。

研究は株式会社NEXION(東京都新宿区)の助成を受けて実施した。成果は2025年11月19日、仏・国際自動制御連盟の学会誌「エンジニアリング アプリケーションズ オブ アーティフィシャル インテリジェンス」に掲載され、同年12月12日に筑波大学が発表した。

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