大阪公立大学(大阪公大)は1月20日、希土類(レアアース)イオンと有機分子からなる金属錯体が水中で自己集合して微小な粒子を形成し発光すること、ならびにその発光強度が溶液の酸性・アルカリ性(pH)によって変化することを発見したと発表した。
同成果は、大阪公大大学院 理学研究科の三枝栄子講師らの研究チームによるもの。詳細は、欧州15か国の化学会連合(Chemistry Europe)が刊行する学術誌「Chemistry-A European Journal」に掲載された。
水中で光るレアアースの新たな特性とは?
周期表3族のスカンジウムとイットリウム、および第6周期のランタノイド(ランタン~ルテチウム)15元素を合わせた計17元素は、総称として希土類と呼ばれる。そのイオンは発光が非常にシャープで寿命が比較的長い上、周囲の環境に左右されず発光色が変化しにくい特性を持つため、レーザーなどの発光材料に広く利用されている。
錯体とは、特定の原子やイオンを中心として周囲に分子やイオンなどの配位子が結合した集合体であり、中心に金属を持つ場合は金属錯体、中でも中心に希土類イオンを持つ場合は希土類錯体と呼ばれる。その発光は、有機配位子から金属イオンへのエネルギー移動によって生じる仕組みだ。しかし、この発光は水中では消失しやすいため、配位できる原子を2つ以上持つ「多座配位子」を用いて水分子の配位を防ぐことで安定した強い発光が可能となる。
一方で、水溶液中で発光する金属錯体も存在しており、水中のイオンや分子を検出する化学センサや、生体中のバイオセンサなどへの応用が期待されている。これまで、こうした水溶液中で機能する希土類錯体の研究開発を推進してきたのが研究チームだ。
従来の課題は、錯体自体に光吸収部位が存在せず発光が弱い点だ。そのため強い発光を得るには、「ゲスト分子」として光吸収能の高い有機分子を添加する必要があった。また、水溶液中の微小な無機イオンへの発光応答は達成されたものの、アミノ酸など大きな生体分子に対する発光センサとしての応用には課題が残っていたとする。そこで研究チームは今回、希土類元素のテルビウム(Tb)イオンを中心とする錯体「PyL-Tb」に着目したという。
PyL-Tbは、石けん分子のように親水性部位(金属周辺)と疎水性部位(コレステリル基)を併せ持ち、エタノール水溶液中で直径数十nmという微小粒子を形成するのが特徴だ。今回の研究では、可視光発光を示すこの錯体分子が水溶液中で自然に集まり、集合体を形成することが確認された。
このコロイド溶液に紫外光を照射すると鮮やかな緑色に発光し、有機配位子のピリジン環が光増感部位として機能することで、ピリジン環からテルビウムへの効率的なエネルギー移動が起こることが判明した。さらに、溶液のpHを酸性からアルカリ性へ変化させると、発光強度が向上することも明らかにされた。このように、錯体が分子集合体を形成した条件下においても、溶液のpH変化による発光応答が発現することが確かめられたとしている。
研究チームは今回の成果を用い、水中のアミノ酸などを検出できる発光センサとしての実用性を検討中だ。また、今回配位子に導入された疎水性部分は細胞膜のコレステロールと同様の骨格を持つことから、錯体が構造を保ったまま人工細胞膜中に混和できることも確認された。これを利用すれば、膜中でコレステロールが集まる位置を発光検出できる可能性があり、将来的には細胞膜中の特定部位を光らせるバイオマーカーへの応用も期待できるとしている。


