かつて“産業のコメ”と呼ばれた半導体に対し、現代のハイテク産業において“産業のビタミン”と称されるのが「レアアース」だ。電気自動車(EV)の駆動モーターや風力発電機、さらには防衛装備品に至るまで、脱炭素化と安全保障の双方に不可欠なこの重要鉱物、いまや地政学的な「武器」として牙を剥いている。

特に、世界の精錬工程の約9割を支配する中国が、対外政策のカードとしてレアアースの供給をコントロールする動きを強めている現実は、日本企業にとって生存を脅かす重大なリスクに他ならない。

2026年に入り、中国政府が軍民両用品(デュアルユース)の対日輸出管理を強化する方針を打ち出したことで、日本の産業界に激震が走った。これは単なる貿易不均衡の是正ではなく、日本の外交・防衛政策に対する露骨な牽制であると捉えるべきだ。

ジスプロシウムやテルビウムといった重レアアースにおいて、日本は依然として中国に100%近い依存を続けている。野村総合研究所の試算によれば、レアアースの供給が3カ月途絶するだけで、日本経済には約6,600億円の損失が生じ、その影響はGDPを押し下げるほどの規模に達する。

こうした“レアアースの武器化”に対し、日本企業はもはや楽観的な観測を許されない。2010年の尖閣諸島沖での衝突事件に伴って対日輸出が滞ったとき、日本はレアアースの調達先の多角化や代替技術の開発を急いだが、コスト競争力の壁に阻まれ、中国依存の構造を完全には脱却できなかった。

しかし、現在の状況は当時とは一線を画す。中国は採掘だけでなく、環境負荷の高い精錬工程や磁石製造の特許技術まで垂直統合しており、技術的な覇権を盤石なものにしているからだ。

世界が分断の時代へと進む中、戦略物資を武器とするような経済戦争は今後間違いなく長期化する。無論、中国も日本との必要以上の関係悪化は回避したいのが本音だろうが、レアアースなどの戦略物資、半導体のなどの先端テクノロジー分野は、長期にわたって紛争の主戦場であり続けるリスクを想定しておく必要がある。

日本企業が取るべき道は、もはや単一の調達先変更に留まらない。まず、サプライチェーンの「デリスキング」(リスク低減)を徹底し、オーストラリアやベトナム、さらには米国が主導する「フレンドショアリング」の枠組みを通じた代替調達網を完成させることが急務だ。同時に、南鳥島沖の海底に眠るレアアース泥の採掘プロジェクトなど、国産資源の開発に向けた官民連携の投資を加速させる必要がある。

地政学リスクが常態化する持続的な不確実性の時代において、資源はもはや市場原理だけで動くものではない。日本企業には、技術革新によるレアアース使用量の削減と、供給網の強靭化を経営戦略の最優先事項に据える覚悟が求められている。