北海道大学(北大)は1月16日、植物の主要な構成成分であり自然界に豊富に存在する「グルコース」を原料とし、化学産業に必要となる低級炭水化物のうち、炭素数4の希少糖「エリスロース」(ERT)と炭素数2の炭水化物「グリコールアルデヒド」(GA)を、高い選択率で合成できる触媒反応系を開発したと発表した。
同成果は、北大 触媒科学研究所のナヴヤ・サブレイ・バット非常勤研究員(研究当時)、同・大須賀遼太助教、同・中島清隆教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する触媒を扱う学術誌「ACS Catalysis」に掲載された。
化学産業における二酸化炭素排出量の大幅削減を達成するには、食料と競合しない非可食バイオマスの主成分である「セルロース」から得られるグルコースを用い、現在の化学産業を支える汎用分子の基板となる炭素数2~4の炭素骨格を持つ低級炭水化物を大量合成する反応プロセスの確立が不可欠だ。
グルコースからERTとGAを同時に合成可能な手法として知られるのが、「逆アルドール反応」だ。しかし、両分子は反応条件下で複雑な副反応を引き起こしやすく、容易に価値のない副生成物へと変化してしまうため、高効率な環境低負荷プロセスの確立が困難だった。これは、反応性の高い「ホルミル基」と多数の「ヒドロキシ基」が共存する炭水化物特有の分子構造に起因している。
従来のグルコースの逆アルドール反応では、両分子(またはその誘導体)の収率はいずれも20%未満であり、抜本的な技術革新が求められていた。そこで研究チームは今回、副反応を抑制するため、反応系中で両分子のホルミル基を「アセタール基」へと変換するアセタール化により、反応性を大幅に低下させる手法を採ったという。
両分子のアセタール化のため、逆アルドール反応に有効な「ルイス酸性質」を持つ金属酸化物触媒と、アセタール化反応のみに有効な「ブレンステッド酸性質」を持つゼオライト触媒を同時に活用する系が検討された。
今回の反応系では、ゼオライト触媒の適切な選定が極めて重要になるという。具体的には、グルコース分子よりも小さなミクロ細孔を持つゼオライトを利用し、グルコースが細孔内を拡散できない反応環境を構築する必要がある。これにより、ゼオライトのブレンステッド酸によって誘発される、脱水や異性化、フィッシャーグリコシド化などのグルコースの副反応を抑制できるためだ。
一方、グルコースよりも分子サイズが小さいERTやGAが、ミクロ細孔内に取り込まれてスムーズに拡散できる環境も求められる。この条件を満たすゼオライトを選定することで、両分子を細孔内に取り込んでアセタール体へと速やかに変換することが可能となる。
まず、酸塩基性質を持つ金属酸化物を選定し、グルコースの逆アルドール反応に対する触媒活性が系統的に評価された。その結果、「五酸化ニオブ」が活性と安定性の両面で優れていることが判明した。
次に、生成した両分子をアセタール化するため、五酸化ニオブとブレンステッド酸を加えた反応が検討された。具体的には、五酸化ニオブにMOR型ゼオライトを組み合わせ、エタノール中でグルコースの逆アルドール反応が実施された。その結果、両分子をそれぞれ対応するアセタール体として合成することに成功し、収率が飛躍的に向上することも確認された。
190℃・15分の最適条件下では、ERTとERT-アセタールの合計収率は43.4%、GAとGA-アセタールの合計収率は15.2%に達した。一方、グルコースを細孔内に取り込めるBetaゼオライトや、細孔のないブレンステッド酸である硫酸などを五酸化ニオブと組み合わせた場合は収率向上に乏しく、グルコースの副反応が顕著に進行した。この結果は、MOR型ゼオライト触媒の基質選択的なアセタール化の重要性を示す実験的証拠とする。
今回の反応系における特筆すべき特徴の1つは、93.3%という極めて高い炭素収支だ。一般的に糖変換反応では、複雑な副反応により同定困難な重合物や縮合体が生成されやすく、反応の緻密な制御が極めて困難だ。これが工業的な大規模プロセスの構築における大きな課題だったが、90%超の高炭素収支を達成したことは、同定不能な副生成物が極めて少なく、反応のほぼ全体が高精度に制御されていることを示すとした。
高度な反応制御を実現できた要因は、逆アルドール反応とアセタール化を空間的に分離した反応設計にある。MOR型ゼオライトの細孔内を拡散できないグルコースは、五酸化ニオブ表面のルイス酸によって逆アルドール反応が進行し、両分子へと変換される。一方、生成された両分子はサイズが小さいため、MOR型ゼオライトのミクロ細孔内へ拡散し、細孔内部のブレンステッド酸点によって速やかにアセタール化される。反応性の高いホルミル基は、それによって保護されて安定性が大幅に向上しており、ERTアセタールとGAアセタールを反応溶液から容易に回収可能になったという。
今回の成果により、グルコースから炭素数2~4の骨格構造を持つ汎用分子を高効率で得るための新しい触媒反応の設計指針が示された。今後、今回の反応系の高度化と生成物の活用技術を確立できれば、既存の化学産業における再生可能炭素資源の本格導入と、バイオマス由来化学品の普及が期待できるとしている。


