パナソニック 空質空調社は1月15日、気体状次亜塩素酸が、実使用を模擬した環境において飛沫に含まれるインフルエンザウイルスを98.5%以上不活化することを、研究段階の試験において実証したことを発表した。これに際して同社は、技術発表会を開催。次亜塩素酸が秒単位で飛沫内のウイルスに対して与える効果を説明するとともに、その効果を正確に把握するために開発された新発想の捕集機を公開した。

  • 模擬環境のデモンストレーションの様子

    パナソニック 空質空調社が開発した次亜塩素酸のウイルス抑制効果を検証する模擬環境のデモンストレーションの様子(提供:パナソニック 空質空調社)

対策が難しい“飛沫感染”を次亜塩素酸は防げるのか

気温と湿度が低下する冬季を中心に、インフルエンザや新型コロナ、マイコプラズマ肺炎など、さまざまな感染症の流行が確認されている。また近年では、鳥インフルエンザウイルスなど動物を媒介としてヒトに流行する感染症が確認される例も少なくないとされ、感染症を制御することで健全な生活環境を保全することが求められている。

そうした中、“空気から、未来を変える。”をブランドスローガンに掲げるパナソニック 空質空調社は、酸化剤の一種である次亜塩素酸によるウイルス対策に取り組んできた。次亜塩素酸は、菌やウイルス、ニオイの原因などに化学結合し、電子を奪ってその働きを抑制する「酸化分解力」を有しており、除菌や脱臭の効果を発揮することから、食品やプールの除菌洗浄、あるいは病院での拭き掃除など、さまざまな場所ですでに広く用いられている。また、A型インフルエンザウイルス(H3N2)や新型コロナウイルスのオミクロン株、黄色ブドウ球菌などさまざまな細菌・ウイルスに対する効果が検証済みであることも特徴とされる。

  • 次亜塩素酸が酸化分解を行うメカニズム

    次亜塩素酸が酸化分解を行うメカニズムの概要図(出所:パナソニック 空質空調社)

ただし、こうした細菌やウイルスが原因となった感染症は、主な感染経路として、飛沫などから蒸発したウイルスが空気中を滞留して感染が広がる「空気感染」、咳やくしゃみなどで飛散した5μmより大きなしぶきが媒介する「飛沫感染」、皮膚や物体を経由して体内にウイルスが取り込まれる「接触感染」によって広がっていくとされ、各経路での感染を防ぐためには、それぞれ異なるアプローチが必要となるという。なおこれまで行われてきた検証では、接触感染と空気感染に対する次亜塩素酸の効果は明らかになっていたものの、飛沫感染に対する効果は正確に検証されてこなかったとする。

  • 菌やウイルスの主な感染経路

    菌やウイルスの主な感染経路の概要(出所:パナソニック 空質空調社)

ウイルスを99.2%不活化する性能が明らかに

その要因としては、咳やくしゃみなどによって生じた飛沫が感染の媒介となる場合、菌やウイルスを含む水分の移動速度が非常に早いため、次亜塩素酸が、2mほどの距離を秒単位で移動する水分に対して、移動中の数秒で菌・ウイルスの不活化を行う必要がある点が挙げられる。そこで今回の取り組みではまず、インフルエンザウイルス(H1N1)を対象として、次亜塩素酸が与える秒単位での効果について検証。次亜塩素酸とインフルエンザウイルスを含む飛沫を試験環境内にて噴霧し、送風によって捕集機まで移動する間での効果が調べられた。その結果、水分に含まれたインフルエンザウイルスを気体状次亜塩素酸(約10ppb)に1.8秒暴露すると、ウイルスは99.2%不活化されることが明らかになったとした。

  • ,水分に含まれたウイルスに対する気体状次亜塩素酸の不活化効果

    水分に含まれたウイルスに対する気体状次亜塩素酸の不活化効果(出所:パナソニック 空質空調社)

このような効果を発揮するプロセスとして、パナソニック 空質空調社は、ウイルスを包んでいる水分に気体状次亜塩素酸が瞬時に溶け込んだのち、水分が空気中で蒸発することで次亜塩素酸の濃度が高まり、“濃縮された次亜塩素酸水”として不活化効果を発揮すると考察。この点について、発表会に登壇した同社常務の岡本剛CTOは「次亜塩素酸は水に溶けやすいこともあり、ある程度の効果は得られると想定していた」としつつも、99.2%の不活化という結果を確認した際には「ここまでのデータが得られたことについては、とても驚いた」と語る。

  • 気体状次亜塩素酸がウイルスを不活化するプロセス

    気体状次亜塩素酸がウイルスを不活化するプロセスのイメージ(出所:パナソニック 空質空調社)

  • パナソニック 空質空調社の岡本剛CTO

    パナソニック 空質空調社 常務の岡本剛CTO

より正確に効果を評価するための“捕集機”を開発

また、次亜塩素酸の飛沫感染に対する効果の検証が行われてこなかった別の要因として、“水分に包まれたウイルスの不活化評価を実現する捕集機”が存在しないという、評価方法の不足があったとのこと。従来より用いられてきた捕集技術としては「バブリング方式」と「フィルタ方式」があったというが、前者は送風量が限られ捕集効率が低い点が課題であり、一方の後者については、大風量には対応できるものの、ウイルスが捕集するフィルタに衝突したダメージで不活化してしまうため、次亜塩素酸の効果を正確に把握できなかったという。

そこでパナソニック 空質空調社では、実使用環境下においても多くのウイルスをダメージを与えずに捕集する技術の開発に着手。そして今般、静電気を利用してウイルスを捕集液へと高効率で回収する「回転湿式静電捕集機」を開発したとする。

  • 回転湿式静電捕集機の概要図

    パナソニック 空質空調社が開発した回転湿式静電捕集機の概要図(出所:パナソニック 空質空調社)

そして同社は、この捕集機とヒトの咳を模擬した噴霧装置、さらに実使用を模擬した除菌評価室を構築し、インフルエンザウイルスの飛沫に対する次亜塩素酸の効果を検証する実験系を完成させ、実際に検証を実施した。その結果、噴霧装置と捕集機の距離を2mに設定した場合には、気体状次亜塩素酸が存在する空間ではインフルエンザウイルスが98.5%以上不活化していることが確認されたとしている。なお、距離1.5mでは92.9%、距離1mでも64.1%のウイルス不活化が確認されたといい、飛沫感染制御技術の実現につながる新たな次亜塩素酸に関する知見が得られたとした。

  • 気体状次亜塩素酸が飛沫内のインフルエンザウイルスに与えた不活化効果の結果

    気体状次亜塩素酸が飛沫内のインフルエンザウイルスに与えた不活化効果の結果(出所:パナソニック 空質空調社)

回転湿式静電捕集機と模擬咳装置を使用した検証のイメージ映像(提供:パナソニック 空質空調社)

将来的な実用化へ他のウイルスへの効果も検証予定

パナソニック 空質空調社は、あくまでも今回の発表は研究段階の試験結果に基づくものであり、現時点で実用化された技術ではなく、現在同社より販売されている製品において同様の性能を保証するものではないとする。ただし、今回の検証にアドバイザーとして参画した北海道大学大学院 獣医学研究院 微生物学教室の迫田義博教授は、2025年夏以降に国内外で確認されているインフルエンザウイルスA/H3N2をはじめ、さまざまな種が存在しているものの、理化学的に見ればその性状は基本的には変わらないことから、「インフルエンザウイルスH1N1で確認された効果が、他のウイルスでも同様の効果が期待されると考えられる」と解説する。

  • 北海道大学大学院の迫田義博教授

    同成果にアドバイザーとして貢献した北海道大学大学院 獣医学研究員 微生物学教室の迫田義博教授

また同社は、将来的な「感染制御空間」の実現に向けて今後も取り組みを続けていくとのことで、今回のウイルス不活化のような病原体抑制技術が“感染症罹患率”とどのように関連しているのか、感染を抑制する条件や空間の明確化、あるいは感染リスク低減のための指標構築など、さまざまな目標を設定しているという。さらに今回対象とされたインフルエンザウイルスに限らず、その他のウイルスや最近に対する検証も行っていく構想だとしている。

  • 模擬咳装置と捕集機のデモンストレーションの様子

    会場内で行われた模擬咳装置と捕集機のデモンストレーションの様子