ソラコムにとって、2025年は大きな節目の1年だった。2025年9月にIoTプラットフォーム「SORACOM」の提供開始から10年目を迎えたのにあわせ、7月には新ビジョンを制定。さらに新たな戦略として「リアルワールドAIプラットフォーム戦略」を発表した。また、丸紅との提携を発表し、ミソラコネクトを連結子会社化するなど、日本におけるビジネス基盤を強化する一方、海外事業比率が4割を超え、グローバルでの事業成長を加速させている。
ソラコム 代表取締役社長CEOの玉川憲氏は「2026年は、リアルワールドAIプラットフォーム元年。そして、次の10年に向けて、アフターAI組織に変革していく年になる」と宣言。同氏に、これまでの10年や2025年の取り組みを振り返ってもらうとともに、2026年の事業戦略と、これからの10年について聞いた。
玉川憲(たまがわ けん)
株式会社ソラコム 代表取締役社長CEO
日本IBM基礎研究所にてウェアラブルコンピューターの研究開発や開発プラットフォームのコンサルティング、技術営業を経て、2010年にアマゾンデータサービスジャパン(現・AWSジャパン)にエバンジェリストとして入社。AWSの日本市場立ち上げを技術統括として牽引した後、2014年に株式会社ソラコムを創業。
ソラコム創業10年における成長の軌跡
--2025年9月に、IoTプラットフォーム「SORACOM」のサービスを開始してから10年が経過しました。創業当時に描いた10年後の姿にはなっていますか?
玉川氏(以下、敬称略):正直なところ、創業したときには、10年後の姿は具体的には描けていませんでした。もっと短期の視点で捉えていて、IoTプラットフォームをクラウド上に作り上げることに集中し、まずは20万回線を獲得することを目指しました。
当時は、20万回線というのが、とても大きな目標であり、サービス開始からの3日間で200回線しか売れなくて「20万回線までは遠いなぁ」と思ったことを覚えています(笑)。ただ、結果として、20万回線という目標はかなり早期に達成できました。
10年前は、すでに多くの人がスマホを所有していましたが「モノ」がつながっている状況ではありませんでした。モノからデータが集まってくれば、それらのデータから英知が生まれ、モノが適切にコントロールされ、世の中が良くなる仕組みがIoTです。この10年間で、IoTの基盤やそれに関わるセキュリティが用意され、仕組みが定着したという点では、ソラコムが貢献できた部分は大きいといえます。
実は、ソラコムを立ち上げる前に、IoTプロダクトを開発したいと考え、IoT向け通信回線を購入しに行ったことがありました。携帯電話ショップに赴き「IoTで利用するために、10回線買いたい」と言った途端に、相手が怪訝そうな顔しながら「相対契約となるため、詳細な内容を教えてほしい」と言い始めたのです。回線を買うためのハードルがかなり高く、IoTの民主化にはほど遠く状況でした。
私は、AWS(Amazon Web Services)でクラウド事業の立ち上げに関わり、Web上のボタンを押すだけで、すぐにコンピュータのリソースを利用できるというメリットを多くの人たちに提供し、コンピューティングリソースの民主化を実現した経験があります。このときの感動を、IoTでも実現したいと考えました。これが、ソラコムのはじまりです。
2014年11月にソラコムを設立し、2015年9月にクラウド上にIoTの通信基盤を作り、日本でIoTプラットフォーム「SORACOM」のサービスを開始しました。創業期のソラコムは、新たなテクノロジーイノベーションを生み出し、お客さまとの話し合いによって、このイノベーションに磨きをかけていくことの繰り返しで、まさに毎日が戦いの連続でした(笑)。
また、日本で作り、日本のお客さまによって鍛えられたサービスが、北米や欧州で通用するのかという挑戦も開始しました。海外では、ここ2~3年で、ようやくソラコムの価値が認められ、実績が出始めています。
2017年8月には、KDDIグループの連結子会社となりましたが、独立性を維持しながら、事業拡大と黒字化を両立し、経営の地盤を固める一方で、2020年からはスイングバイIPO(新規公開株)による上場準備を進め、2024年3月に東京証券取引所グロース市場へ新規上場しました。
ここからソラコムは、上場企業として、次のステップへと踏み出し、現在に至っています。創業以来、目指してきたのは日本発のIoTグローバルプラットフォーム企業になることでしたが、現在は少しだけ胸を張ってそれが言えるようになってきました。
--ソラコムが選ばれる理由をどのように自己評価していますか?
玉川:お客さま指向であるという点ではないでしょうか。振り返ってみると、10年前にサービスを開始したときのSORACOMの機能は、大したことないんですよ(笑)。そこからお客さまの要望を聞き、「こんな機能があれば使いたい」「こうしてもらえれば、うちのプロダクトに生かせる」といった要望を積み重ねる一方で、それを多くのお客様に利用してもらうにはどうするかということを考え、サービスを進化させてきました。
これまでに400以上のリリースを出しています。サービス開始当初は「レベル1」のSORACOMだったものが、現在は「レベル400」のSORACOMになっているわけです。お客さまのひとつひとつの声をもとにした価値の積み上げが、結果として多くの人たちに喜ばれ、選ばれる要因になっているのではないでしょうか。
これも、AWSで学んだ遺伝子の1つですね。AmazonのCEOであるアンディ・ジャシー氏はAWSのCEOを務めているときに、お客さまの声をもとに機能を追加し、それによって事業を成長させました。これと同じことをソラコムでも進めたわけです。
ソラコムが提示する「リアルワールドAIプラットフォーム戦略」
--IoTの普及において、いま感じている課題感はありますか?
玉川:データを集めることができるようにはなりましたが、そこから英知を生み出し、それをもとに意思決定を行ったり、リアルタイムで反映したりといったことができない状況が続いています。
しかし、約3年前から生成AIが登場したことで、この課題が解決されようとしています。これまでの10年はデータを集める10年であったものが、これからの10年は、データを生かすことができる10年になると考えています。
そこで、ソラコムの新しい戦略としてリアルワールドAIプラットフォーム戦略を、2025年7月に打ち出しました。この意思決定は2025年のソラコムの取り組みのなかで、非常に大きなものとなります。
--リアルワールドAIプラットフォーム戦略とはどういったものですか?
玉川:エッジでのAI活用が進展する一方、クラウド上のAIも、ますます進化を続けていきます。しかし、AIは企業内に蓄積した財務情報、営業情報、人事情報、製品情報などの社内データも組み合わせないと、価値を生み出すことができません。
そのためには、フィジカルとデジタルの情報をつなぎ、お客さまが必要な情報をしっかりと保存し、活用するための基盤が必要です。そこに、ソラコムが役割を果たすことができます。
現場(フィジカル)と社内外データ(デジタル)のすべてをAIにつなぎ、実世界を動かす力にすることを目指す--。これが、リアルワールドAIプラットフォームの基本的な考え方であり、ソラコムが掲げる「AIとIoTテクノロジーの民主化」を実現する基盤となります。
ただ、いまのソラコムが持つサービスやテクノロジーでは、リアルワールドAIプラットフォームを実現するには、足りないものが多くあります。お客様の声を聞きながら、今後10年間で、必要なものを揃えていく考えです。
リアルワールドAI時代に向けた新サービス
--具体的には、どのようなものを加えていきますか?
玉川:2025年に新たに用意したのが、SORACOM Queryです。SORACOMプラットフォームに蓄積したIoTデータを、検索および分析できるデータ分析基盤サービスで、生成AIによる問い合わせを可能とし、自然言語からSQLへの変換、リアルタイムデータの可視化、スケーラブルなクエリ実行を使用して、IoTデータを安全に収集、保存、分析できます。
また、生成AIボットサービス「Wisora(ウィソラ)」では、社内外のドキュメントやWebサイトの情報を取り込み、生成AIを活用して最適な回答を提供する生成AIボッドを構築できます。作成した生成AIボットは、Webサイトやウィジェット、Slack、Teamsなどに設置でき、AIアシスタントとして活用できます。
これを進化させ、IoTデータと連携させると、リアルタイムで現場の状況を把握し、AIアシスタントを通じてモノをコントロールするといったことも可能になります。さらに、各AIエージェントに、電話番号を持たせれば、そこに電話をするとAIエージェントが回答してくれるといった仕組みが構築できるといったことも考えています。
一方で、Soracom Cloud Camera Services(ソラカメ)とAIの連携も、新たな可能性を生みます。ソラカメは“IoTの眼”と位置づけており、その眼をあちこちに設置することで、企業や社会が抱える課題を解決できます。
群馬県を中心に展開しているスーパー大手のベイシアでは、店舗内に複数のソラカメを設置することで、複数の店舗を巡回することなく状況を把握し、店舗業務の省力化につなげていますが、ここに生成AIを組み合わせれば「弁当売り場の在庫が半分以下になったら通知を出してほしい」というだけで、それが自動的に設定され、通知を出してくれるようになります。
マルチモーダル情報とAIを組み合わせることで、ソラカメが提供する価値をさらに高められるというわけです。これも、フィジカルとデジタルをAIにつなぐリアルワールドAIプラットフォームによって実現する世界の1つだといえます。
--すでに、リアルワールドAIプラットフォームは実現しつつあるようですね。
玉川:目指しているものはもっと先にありますし、それを実現することは簡単ではありません。やはり、10年という長期的な視点で取り組んでいかなくてはなりません。データを集めてくるところは、すでに出来上がっていますが、データをリアルタイムで解釈し、期待しているような回答を得て、それをリアルタイムに現場や経営に反映するためには練度が必要です。
さらに、AIを通じてロボットのようなモノをコントロールさせようと考えたら、安全性を担保したり、適切な権限管理を行ったりしなくてはなりません。業界ごとに異なる規制が存在しますから、そうしたノウハウを蓄積する必要もあります。
--リアルワールドAIプラットフォームを実現するためには、ソラコムが必要とする人材が変化したり、備えるべきスキルが変わってきたりしますか?
玉川:ソラコム自らがAIモデルを開発するわけではありません。ですから、AIに特化した技術者が必要というわけではなく、引き続き、クラウド技術やIoT技術者が重要な人材となります。
AIモデルを使いこなし、IoTプラットフォームと連結させていくスキルが必要です。そうしたスキルを蓄積することも含めて、いま、ソラコム社内では「アフターAI組織」への進化を目指しています。
ソラコムが目指す「アフターAI組織」とは何か
--「アフターAI組織」とはなんですか?
玉川:ソラコムは10年前に創業したときには「アフタークラウド組織」としてスタートしました。つまり、クラウドが登場したあとに生まれた組織であり、クラウドが当たり前の組織づくりをしました。
10年前の創業時からリモートワークが前提で、社内システムはすべてクラウドで運用し、社内メールは禁止。チャットでのコミュニケーションがベースとなっています。従業員は世界中にいて、そこが仕事をするのが当たり前となっています。
当時は、これが新しい組織の姿だったのですが、いまのスタートアップ企業の多くはこのスタイルを取っています。では、AIが登場したあとに生まれた組織とはどういうものなるか。アフターAI組織は、アフタークラウド組織とは、まったく異なる組織になると捉えています。
10年前の組織体制のまま、事業を推進していくのではなく、新たな組織に変わるという「進化圧」をかけ、これまでとは異なる成長を目指していきます。これをやっていかないと、リアルワールドAIプラットフォームが構築できません。10年前の組織が、最先端のリアルワールドAIプラットフォームを作っても説得力がありませんからね(笑)。
では、アフターAI組織とはどのようなものなのか。私は、すべての社員が、すべての業務において、当たり前のようにAIを使い、業務の自動化、省人化を進めることができる組織だと捉えています。ソラコムは成長フェーズに入っていますので、年間30~40人の採用を進める計画としていたのですが、いまはアフターAI組織への変革期だと捉え、その採用を止めて、必要なポジションだけ採用するようにしました。
人の代わりにAIでできることがあれば、それはどんどん置き換えていこうと考えています。すでに社内では開発者だけでなく、バックオフィスの社員も自分たちでAIを使ってアプリを開発し、業務の自動化を進めるといった動きが出ています。先日も、社内でハッカソンを行ったのですが、その際に社内で利用しているSaaS(Software as a Service)ツールを、年間コストが高い順に並べてみました。
すると、これならば生成AIで作れそうだというものがいくつか出てきて、実際にハッカソンで作り、置き換えることができ、年間100万円ほどのコストが削減できました。「SaaS is Dead(SaaSは死んだ)」という言葉が注目を集めていますが、それを実践することができたというわけです。これも、アフターAI組織の取り組みの1つです。
個人的には、AIの登場は活版印刷の登場よりも、大きなイノベーションを起こすと思っているんです(笑)。仕事の仕方だけでなく、プロダクトやサービスも、AIの影響を大きく受けることになります。社会を大きく変えていくことにつながります。
--アフターAI組織になるために必要な要素はどのようなものと考えていますか?
玉川:変化に対して、自分から挑んでいく企業文化を持っていないとアフターAI組織にはなれないと考えています。ソラコムには創業時から、15の言葉で構成する「リーダーシップステートメント」(行動規範)があります。
そのうちのひとつが「Just Do It(まずはやってみる)」です。常に100%を目指すよりも、適正な品質とスピードを重視し、計算されたリスクを取りながら、たとえ失敗してもそこから学ぶことができればいいというものです。アフターAI組織になるには、この姿勢が大切です。AIは、まずは使ってみなければわかりません。
そして「Share Everything You Can(良きも悪きも共有する)」という言葉に込めたように、成功も、失敗も、組織全体で情報を共有し、次につなげる姿勢も必要です。お客さまやパートナーからは「ソラコムでは、AIに関する社員教育はどうやっていますか」と聞かれることが多いのですが、AIは教育するものではないと思っています。AIは日々変化し、どんどん進化していきます。教科書を作った段階で、それは古い教科書になってしまいます。
常にアンテナを張り、新しいものが登場したときに、組織全体が好奇心を持ち、それぞれが自分の仕事のなかでAIに触り、いいものがあれば周りとシェアするといったことが日常的に行われなくてはいけません。
また、なにかわからないことがあれば、それをAIに聞いて解決するという環境を作り上げることも必要だと思っています。もちろん、社内利用の際のガイドラインを設けたり、使ってはいけないツールを設定したりといったことも徹底しなくてはなりません。
--アフターAI組織としての成果は、すでに出ていますか?
玉川:ソラコムの売上高は前年同期比30%以上の成長となっていますが、販管費の増加は20%程度に抑え、利益を大幅に拡大することができています。より高い生産性を実現し、少ない人数で、売上成長、利益成長を目指します。
しかし、数字はあとからついてくるものであり、大切なのは、AIの広がりを好機と捉えて、すべての社員が楽しみながらAIを活用する姿勢が定着することだと思っています。
ソラコムでは、半年に一度、社員が自己評価を行うのですが、その評価の1つに「どれぐらいAIを使っているか」という項目を加えました。AIを使うことを、会社が重視している姿勢を、社員に対して明確に示しています。
丸紅との提携とミソラコネクト子会社化の狙い
--先ほど「SaaS is Dead」という言葉が出ましたが、ソラコム自身もSaaS企業の1社です。そこに危機感はありませんか?
玉川:ソラコムの特徴は、競争力のあるSaaSだけでなく、通信会社の基地局と連動し、その協業をもとに、さまざまな国の規制も順守したビジネスモデルとなっており、参入障壁が高く、AIで代替しにくいともいえます。
この基盤の上に付加価値が高いサービスをどう構築するかというところがポイントであり、10年かけて作り上げたビジネスモデルの基盤は、今後10年も継続できると考えています。これをリアルワールドAIプラットフォームとして進化させ、さらなる価値を提供していきます。
--ソラコムの2025年の取り組みを振り返ったときに、いくつかの重要に取り組みがありました。その1つが、丸紅との提携発表と、それにもとづいたミソラコネクトの連結子会社化です。この狙いと成果を聞かせてください。
玉川:丸紅ネットワークソリューションズの仮想移動体通信事業者(MVNO)事業を分社化し、そこにソラコムが出資して、ミソラコネクトとして連結子会社化しました。ソラコムにとっては、上場後に開始したインオーガニックグロース戦略の1つとなります。
ミソラコネクトは、IoTプラットフォーム事業を行う同業者でもあり、KDDIのフルMVNOであるソラコムと、NTTドコモの最大のフルMVNOであるミソラコネクトが、1つのグループになったことがポイントだといえます。
これは、IoT市場においてとても重要なことです。最近のトレンドの1つが、マルチキャリア化によって、どこでもつながり、障害が発生したときも切り替えて使える環境を構築することであり、その点では強力な体制が整いました。
また、ミソラコネクトのハードウェアアセットを、ソラコムの通信ソフトウェアで置き換えることで、粗利率を改善することもできますし、ソフトウェアならでは特徴を生かし、お客様のニーズに柔軟に対応できるようになります。
さらに、ミソラコネクトは法人向け通信回線や、法人向けスマホやタブレットの事業も行い、そこにソリューションを提供していますので、リアルワールドAIプラットフォームの実現においても、社内情報(デジタル)を取り込むといった点で連携ができると考えています。
海外売上比率4割超、加速するグローバル展開
--もう1つは、ソラコムの海外事業の成長が著しいという点です。2021年3月期には16.0%だった海外売上高比率が、2025年3月期には41.8%にまで達し、2026年3月期には44.7%へと拡大する見込みです。成長要因はなんでしょうか?
玉川:これまでやってきたことが、ようやく成果につながっています。全世界213の国と地域において、509キャリアに対応したグローバル通信が利用でき、これが大きな強みとなっています。
Soracom Airの契約回線数は全世界で900万回線に達しています。特に高い成長を遂げているのが、米国市場でこの2年間の年平均成長率は73%増となっています。東海岸、中央部、西海岸にそれぞれ営業体制を整備し、米国大手のテクノロジーサービスディストリビュータであるIntelisysとの協業により、パートナーチャネルが構築でき、それに伴い大規模案件の獲得も増えています。
海外事業では試行錯誤を繰り返してきたのですが、海外ではソラコムらしさが発揮できていなかったり、ソラコムのこだわりが伝わっていなかったりといった反省がありました。3年前から腹を据えて、ソラコムカルチャーを体現できるチームを、北米や欧州に送り込み、海外事業のテコ入れを行いました。
その結果、お客さまの声を聞き、信頼関係を構築できたことが大きいといえます。米国市場を例にとると、お客様がIoTをやりたいと思っても、真摯にサポートしてくれる会社がなかったという声を聞きました。
IoTは「総合格闘技」ですから、通信、クラウド、ハードウェア、ソフトウェアをしっかりと理解したメンバーが、お客様をサポートできないと、プロジェクトが失敗することが多々あります。米国にはそうしたウェットな企業がなく(笑)、そこにソラコムの価値を提供できたといえます。
--海外売上高比率は、これからも増えていくことになりますか?
玉川:その予定であり、数年で過半数を突破することになるでしょう。もともと目指しているのは、グローバルにIoTプラットフォームを提供することです。
IT分野における日本のスタートアップ企業が、グローバルで成功したケースはあまり例がありません。何度も心が折れそうになり、苦労はしましたが(笑)、それでもやり続けてきたことが成果につながっているのではないでしょうか。
IoTプラットフォームは世界中で必要とされるものですが、通信と緊密に連携する必要がありますし、各国ごとの規制もあります。市場ターゲットを明確にして、事業を拡大しなくてはなりません。今後は南米やアフリカなどにも展開していきたいと考えています。
--もう1つ、ソラコムの新たな取り組みで見逃せないのが、コネクテッドカーです。
玉川:ここは、KDDIとの連携により、ソラコムがテクノロジーを提供し、通信プラットフォームを構築することになります。先進国以外では、クルマの回線が整っていない状況にありますが、それぞれの国ごとに異なるネットワーク環境があり、自動車メーカーも事業展開に苦慮しています。
先に触れたように、ソラコムは、全世界213の国と地域において、509キャリアに対応したグローバル通信が利用できます。ソラコムが提供するAPIを利用することで、自動車メーカーは、地域ごとに個別対応せずにコネクテッドカーによる各種サービスを開始できます。
具体的には、コネクテッドカー向け通信プラットフォーム「IRIGATE」を提供することになりますが、2025年度中には、その成果の1つを発表します。
また、コネクテッドカーの分野では、スズキとモビリティサービス分野におけるIoT先進技術の活用に向けた提携を通じて、電動モビリティベースユニットの事業化に向けてIoTを活用した実証実験を開始しているほか、本田技研工業が開発したモビリティロボット「UNI-ONE」のデータ通信基盤にSORACOMが採用されています。
コネクテッドカーは、将来の事業の柱に育てていきたいと考えています。クルマもフィジカルAIの1つと捉えることができますから、ヒューマノイドロボットや巡回ロボット、ドローン、スマートファクトリーなどとともに、リアルワールドAIプラットフォームを実現する構成要素になります。
2025年に再定義されたソラコムのビジョンとミッション
--ソラコムでは、2025年にビジョンおよびミッションを再定義しました。この狙いはなんですか?
玉川:2025年は、サービス開始から10年目の節目を迎えましたから、それにあわせて、ビジョンおよびミッションを再定義したいと考えていました。
従来から「世界中のヒトとモノをつなげ、共鳴する社会へ」というビジョンを掲げ、これを英語化して、グローバルにも発信していたのですが、どうもしっくりとこなくて(笑)。すでに売上高の40%以上をグローバルが占めていますし、従業員の構成比も日本人以外が約40%となっていることもあり、今回は英語でビジョンを作ることにしました。
新たに掲げたのは「Making Things Happen for a world that works together」で、これがグローバル共通のビジョンとなります。ソラコムが創業以来、目指しているのは「テクノロジーの民主化」です。IoTだけでなく、通信やクラウド、AIも民主化し、誰もが使えるようにするという姿勢をビジョンのなかに盛り込みました。
また、私たちが創るのは、共鳴しあう世界です。モノや人がつながって、それぞれの価値が増幅しあい、想像を超える未来を次々と生むことを目指します。志をともにするパートナーたちと、世界を良くすることができるイノベーションを創出していきます。
そして、新たに打ち出したリアルワールドAIプラットフォームが、世界中で使われるプラットフォームになることを目指し、これを達成するために、ソラコムの社員全員が「リーダーシップ ステートメント」を、より浸透させていきます。ソラコムの考えに共鳴し、リーダーシップを体現したメンバーが集まった国際色豊かなチームで、これからの10年に挑むことになります。
2026年は「リアルワールドAIプラットフォーム元年」
--こうした2025年の成果をもとに、2026年はどんな1年になりますか?
玉川:新たなビジョンをベースに、リアルワールドAIプラットフォーム戦略を推進する1年目となります。いわば「リアルワールドAIプラットフォーム元年」だといえます。
リアルワールドAIプラットフォームを構成する具体的なサービスを複数揃えて、それによって、戦略を推進できる土台を作り上げる1年にしたいですね。しっかりと成果を刻んでいきます。
高市内閣の発足により、経済安全保障への取り組みなど、日本を強くすることへの投資、あるいはAIをはじめとするテクノロジーへの投資を加速するという姿勢が明確になり、私たちを取り巻く環境にとっては追い風といえる状況が生まれています。
デジタル赤字の議論がありますが、それを解消するには日本のIT企業が海外に出て、外貨を稼ぐことが重要であり、ソラコムはそれを実現する基盤が整っている企業の1つだといえます。さらに、それをリカーリングビジネスとして展開でき、解約率も0.4%と低い水準を維持している点もソラコムの強みとなります。
安心して使ってもらえるIoTプラットフォームとして、グローバルで定着し始めており、これをより広げていきたいですね。2026年は、グローバル展開を加速するほか、コネクテッドカーをはじめとした新たな領域への展開、戦略的アライアンスの促進、キャリア向けビジネスの推進、そして、国内外を含めたM&A(合併・買収)によるインオーガニックな成長にも積極的に乗り出していきます。
M&Aでは通信やIoTに関わるインフラレイヤー、AIテクノロジーをはじめとしたプラットフォームレイヤー、特定ソリューション領域におけるバーチカルレイヤーの3つの領域で推進していくことになります。これによって、リアルワールドAIプラットフォーム戦略を加速させ、非線形による成長を実現します。
ソラコムは、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)で100億円を超え、SaaS企業として、1つのマイルストーンに到達することができました。その点では、次の目標がARRで200億円ということになりますが、これをいつまでに達成するという目標はありません。
ただ、30%以上の売上成長率と、10%以上の営業利益率による「Rule of 40(40%の法則)」は維持します。売上成長率では既存ビジネスで25%成長、M&Aで5%成長を前提とし、この成長を積み重ねることで、地平線の向こうにユニコーン(評価が10億ドル=約1580億円)や、その先のデカコーン(評価額が100億ドル=約1兆5800億円)が見えてくると考えています。
--5年後のソラコムはどうなっていますか?
玉川:ユニコーンには到達したいですね(笑)。また、グローバルの売上比率は半分以上になり、契約回線数は1000万回線には確実に到達しています。5年後だと、もしかしたら、2000万回線というところも視野に入ってくるかもしれません。
ソラコムが目指しているのは、孫の世代にも誇れる会社になるということなんです。中長期的に社会に貢献し、ソラコムで働く人も幸せにしたい。そして、ソラコム自らは、常に変わり続ける会社でありたい。それは欠かせないことだと思っています。










