生成AIの進化が急激に進む中、いまだにAIを導入できず足踏みしている企業は多い。そんな中、サイボウズは自社調査で8割以上の社員が生成AIを活用するなど、組織としての利用も進み大きな成果を上げている。

同社が昨年に開催した年次イベント「Cybozu Days 2025」において、情報システム本部長の鈴木秀一氏とシステムコンサルティング本部長の萩澤佑樹氏が、「社内のAI活用、まだ「個人技」で止まっていませんか?ーサイボウズが実践する組織でのAI導入ー」というテーマでトークセッションを行った。本稿では、トークセッションから、組織としてAIを有効活用するためのポイントを明らかにしよう。

  • セッション「社内のAI活用、まだ「個人技」で止まっていませんか?ーサイボウズが実践する組織でのAI導入ー」の模様

    セッション「社内のAI活用、まだ「個人技」で止まっていませんか?ーサイボウズが実践する組織でのAI導入ー」の模様

従業員の約8割がAIを利用するサイボウズ

まず、前提として日本での生成AI導入は、まだ十分に進んでいるとは言えない現状がある。これは東京商工リサーチが実施した生成AI利用状況調査からもよくわかる。この調査によれば、調査企業6,645社の内、会社として活用を推進している企業がわずか13.83%、部門によっては活用を推進している企業が11.44%、個人で活用している企業が22.3%で、利用方針を決めていないと答えた企業がなんと50.99%と、大半の企業はAIについてまだ導入以前の状態なのだ。

  • 東京商工リサーチの生成AI利用状況調査の結果(報道資料より)

    東京商工リサーチの生成AI利用状況調査の結果(報道資料より)

そうした中でも、サイボウズは積極的にAI導入を進めている企業だが、実態はどうなのだろうか。2025年6月時点において、79%がAIを利用と回答、同社のAIガイドラインの存在についても、知っていて読んだことのある人が80.5%と、AIが浸透していることがわかる。

  • 2025年6月時点でのサイボウズでのAI活用状況(同社資料より)

    2025年6月時点でのサイボウズでのAI活用状況(同社資料より)

では、同社はこのような状況をどのように構築していったのだろうか。そこには、個人利用とチーム利用のアプローチをうまく融合していった同社ならではのやり方があった。以下、紹介しよう。

個人利用促進のカギは「生成AIサロン」設置

生成AIの利用形態は、個人が便利なツールとして業務で活用する「個人利用」と、会社として業務フロー内で利用する「チーム利用」の2つのパターンがある。サイボウズはそれぞれにおいて独自のアプローチでAIを普及させることに成功している。まずは、同社の個人利用でのアプローチを見てみよう。

社内のAI活用の体制づくりを進めた鈴木氏は、生成AIの個人利用を拡大するにあたっては、生成AIを怖がらずかつ迷わずに使える環境を作っていく必要があり、「安全を守るルール」と「学びを広げるつながり」の2つを用意することがカギと語った。

  • サイボウズ 情報システム本部長 鈴木 秀一氏

    サイボウズ 情報システム本部長 鈴木 秀一氏

この取り組みは、安心・安全にAIを活用するためのルールを設定し、情報共有とコミュニケーションにより横のつながりを育てて、知見を広げることを狙ったものだ。同社が作成した生成AIを活用するためのガイドラインでは、これら2点を重視してつくられている。

  • AI活用個人利用のカギ(報道資料より)

    AI活用個人利用のカギ(報道資料より)

「安全を守るルール」作成のポイント

「安全を守るルール」作りで重要な点は、企業文化を考慮に入れることだ。業務でAIを使う中で違和感がある場合、利用が進まなくなる。同社では自主自立という文化があって、それに合わせたルール作りが行われた。具体的には、NG項目をできるだけ排して行動を制限せず、リスクの説明と望ましい使用法など自分たちの判断をサポートする内容をまとめたという。

  • ルールを決める際は、自社の文化にそったもので整える(同社資料より)

    ルールを決める際は、自社の文化にそったもので整える(同社資料より)

実際作成されたルールについて萩澤氏はどのように感じたのか。初期のルールに対して同氏は、情報制限や利用範囲の制限が多数リスト化されていただけで大変わかりづらかったと正直な意見を述べている。氏は業務負担軽減に生成AIの利用が不可欠なので、真剣に内容の確認を行ったと語る。その後、内容は改善され、生成物の著作権への注意など慣れると情報セキュリティマニュアルと似た内容が多く納得して利用できたという。

同氏に指摘されたように、ガイドラインは利用者のフィードバックを受けて20か30ぐらい改定を重ねて現在の内容となったと鈴木氏は述懐する。今もガイドラインの内容をなるべく分かりやすくなるように、解説書やマニュアル、教育動画などの作成に努力していると語った。

  • 情報共有・つながりづくりでノウハウを蓄積(報道資料より)

    情報共有・つながりづくりでノウハウを蓄積(報道資料より)

「学びを広げるつながり」作成のポイント

続いて、生成AIの個人利用の拡大に必要なもう一つの要素「学びを広げるつながり」を見てみよう。

同社は、生成AI部会を創設してガイドラインを整備して運用を進めていったが、「部署によってAIに対するモチベーションが違う」「ツールとサービスの扱いに法務部門が対処に苦慮する」など、トラブルが多発した。こうした事態に対応し、AI活用推進者の横のつながりを強化する目的で「生成AIサロン」を設置することになった。

サロンのメンバーは、AI活用を推進している部署の担当者やルール作りをおこなっている部署の担当者などで、サロンでは最新のAIニュースの書き込みや各部署の取り組み、悩みなどの情報の共有が行われAI運用に関するノウハウが蓄積していったという。

社内でAI活用の現場推進に携わってきた萩澤氏は、生成AIサロン設置の効果について、次のように語った。

「以前から部署同士で情報の交換は行っていたが、サロンが設置されることで各部署の担当者が決まり、公式化されることで話をする相手が明確になった。そこから、各部署の動きが見えてきて、共通してやらなければならないことがわかってきた」

  • サイボウズ システムコンサルティング本部長 萩澤 佑樹氏

    サイボウズ システムコンサルティング本部長 萩澤 佑樹氏

AIのチーム利用を促す4つの要素

サイボウズがAIの個人利用を浸透させたポイントはわかったが、今注目されているチームでの利用はどうだろうか。

鈴木氏は「チームでのAI利用は個人にはない難しい問題を抱えている」と語った。というのも、チームで利用するとなると、AIを使う業務の分類、他のチームとの連携、扱う情報の内容など、個人の工夫では対処できないことが多くなるからだ。そこで、鈴木氏が強調する、チームでのAI導入で重要になる4つの要素が「伴走」「業務フロー」「データ」「セキュリティ」だ。

  • チームでのAI利用を推進するための4つのカギ「伴走」「業務フロー」「データ」「セキュリティ」(報道資料より)

    チームでのAI利用を推進するための4つのカギ「伴走」「業務フロー」「データ」「セキュリティ」(報道資料より)

「伴走」は、現場のアイデアを実現する人たちを技術的に支援する。「業務フロー」では、違和感なく自然に生成AIを使わせていく仕組みの構築、「データ」では、信頼できる業務データの整備、「セキュリティ」は、チーム利用の安心を担保する。以下、この4点について、サイボウズがどのように取り組んできたかを見てみよう。

大きな役割を果たした「伴走者開発支援チーム」

具体的には、現場のアイデアを実現させる伴走者開発支援チームが大きな役割を果たした。

  • 現場から実装までをサポートする伴走者(報道資料より)

    現場から実装までをサポートする伴走者(報道資料より)

例えば、AIが窓口の対応を自動化するシステムを実現化するには、開発の知識が必要であり、かつ利用ルールについても精通していなければならない。開発支援チームは開発能力だけでなく、ガイドラインに関する知識も持っているので、アイデアの早期実現を支援することが可能だ。この体制は、システム部門ではなく各本部の要請で作られたという。SEの部署では、基本的に顧客対応でAIが当たり前に出てくる。自分たちが利用するだけでなく、顧客に提案する上でもAIを理解し、技術で形にする「伴走者」である必要があったためだ。

  • 同社のAIアイデアソン(報道資料より)

    同社のAIアイデアソン(報道資料より)

また、伴走者を育成し、本部全体の生産性を向上するためアイデアソンも実施している。例えば人事本部では、AIを活用した生産性向上を目的に70件アイデアを出してから8テーマに厳選し、各テーマに1人の技術者と伴走者の構成で1カ月の間、隙間時間を利用してアイデアを形にしていった。最終的に、大賞に選ばれたのは、人事制度や社内制度・ポリシーに関わる文書のフォーマットをAIに作成させるシステムだった。

  • AI相談口に寄せられる相談の拡大と変化(報道資料より)

    AI相談口に寄せられる相談の拡大と変化(報道資料より)

伴走者の影響は大きく、2024年には43件のルール相談と12件の技術相談があったところ、2025年には159件のルール相談、72件の技術相談と、一気に増加した。加えて、2024年は生成AIサービスをどう使うかについての質問が多かったが、2025年には技術関連の質問が増えている。その要因としては、伴走者を作ることで現場が相談しやすくなった、より現実的にAIを使って何かをやろうとするようになったことが考えられるという。

既存の業務システムにAIを組み込む

2つ目のカギ、「業務フロー」については、いかに自然に活用を広げることができるか大事だという。

新しい技術がなかなか現場に定着しないのは普通のことだ。従来のAI導入は新規ツールの採用と同様にシステムの利用法を新規に覚える必要があり、手間も時間もかかる。チームになってくると全員で足並みをそろえなければならず、導入のハードルもおのずと高くなってくる。

そこでサイボウズでは、既存の業務システムをそのまま活用し、そこにAIを組込みことで、自然に業務にAIを溶け込ませる手法をとっている。

例えば、同社にはワクワクくんと呼ばれる各本部のFAQを回答してくれるシステムがあるが、今は、kintoneの検索AI機能で同じことを実施しているという。同社のシステムはkintoneで構築されているので自然と検索AIが使われるようになっていったという。このような形で自然にAIが使われる環境を作っていくことができたというわけだ。

  • 自然に活用を広げる業務フロー(報道資料より)

    自然に活用を広げる業務フロー(報道資料より)

信頼できる業務データの整備に必要な3つの要素

3つ目のカギ、信頼できる業務データの整備では、「データの共有」「データの公式化」「データの構造化」の3つに留意することで、チームでのAI利用を加速させることができるという。

「データの共有」では、個人フォルダやメールに埋もれた情報をチームとして有効に活用する。「データの公式化」では、有用な情報は早期にピックアップし公式化することで陳腐化から守る。「データの構造化」では、情報の文脈を正確に理解させないとAIがより良いパフォーマンスを発揮できないので、データの構造化は必須とのことだ。サイボウズのカスタマーサポートでは、顧客から得た情報をクレンジングして整理・構造化しAIで活用しているという。

  • 信頼できる業務データの整備には、「データの共有」「データの公式化」「データの構造化」の3つが必要(報道資料より)

    信頼できる業務データの整備には、「データの共有」「データの公式化」「データの構造化」の3つが必要(報道資料より)

セキュリティは模索中

「セキュリティ」面に関しては、生成AIの活用はまだ始まったばかりであるため、試しながら安全を広げている段階だという。正解がないから、ルールも“試して磨いていく"ことに力を入れているとのこと。

具体的には、新ルールを一部の部署で導入、次にリスクや課題を発見。そこで得たフィードバックをもとに修正し、最後に全社でルールを導入していくというサイクルで、ルールを全社に広げている。

  • 試しながら安全を広げる「セキュリティ」(報道資料より)

    試しながら安全を広げる「セキュリティ」(報道資料より)

全社展開に向けた仕組みづくりを

同社のチームのAI導入を成功させた要因を改めて俯瞰して見ると、個人レベルでのAIを普及させるサロンの設置などの努力により、AIリテラシー向上したこと、チームレベルでの伴走者というサポート人員の配置による技術的担保、加えてあらゆる部署で統一的に利用できるプラットフォームであるkintoneと同社のAIサービスkintone AIラボの存在により、自然とAIを利用できるという環境が大きく作用しているように感じた。

同社は、今後もチームとしてAIの導入を推進し、さらなる生産性向上のため、AI活用をブラッシュアップしていくという。情報システム本部の立場から、鈴木氏は「この勢いに乗って全社展開に向けた仕組みづくりに力をいれていく」と話した。また、現場のSE部門である荻澤氏は、散財するデータの整理とひもづけて属人化しそうなノウハウを組織の力に変えていきたいと語った。