情報通信研究機構(NICT)を中心とした国際共同研究グループは、国際標準に準拠した光ファイバーで毎秒430テラビット(430Tbps)の伝送実験に成功。同様の環境における伝送容量の世界記録を達成したと、12月22日に発表した。この成果の論文は「第51回欧州光通信国際会議」(ECOC 2025)で高評価を受け、最優秀ホットトピック論文(Post-deadline Paper)に採択されている。
近年、光ファイバー通信で利用できる波長帯を広げる「マルチバンド波長多重」(WDM)技術の研究が進展している。既存の光通信インフラに新しい波長帯を追加することで、光ファイバーケーブルを増設することなく伝送容量を拡大できるため、経済的な大容量化手法として注目されているという。
NICTはこれまで、商用の長距離光ファイバー伝送システムで一般的に利用される“C帯”、“L帯”の波長帯に加え、今後の利用が期待される“S帯”や“E帯”といった波長帯を活用できるシステムを開発し、大容量伝送の実証に成功。さらに、より大きな伝送容量を実現するため、“O帯”や“U帯”の利用にも取り組み、波長帯の拡大を進めている。
しかし、既存の光ファイバーにおける低損失で利用できる波長帯には限界があり、さらなる伝送容量の拡大には、新しい光ファイバー伝送技術の開発が欠かせない。
今回、NICTは国際共同研究グループとともに、国際標準に準拠した「カットオフシフト光ファイバー」において、長距離光ファイバ伝送システムで利用されるC帯やL帯より短波長のO帯でマルチモード(3モード)伝送が可能であることを世界で初めて実証。O帯の伝送容量を従来比で約3倍に拡大した。
さらに、O帯での3モード伝送とE帯、S帯、C帯、L帯の単一モード伝送を組み合わせるため、カットオフシフト光ファイバーを用いた広帯域WDM対応の単一モード・マルチモード統合光伝送システムを開発した。この伝送技術は、既存の光通信インフラで利用されている光ファイバーでも、特定の波長帯の利用可能容量を約3倍に拡張できる“革新的な方法”と説明している。
具体的には、3モード伝送が可能なO帯に209波長、単一モード伝送のE帯、S帯、C帯、L帯に706波長を配置し、総周波数帯域幅30.1テラヘルツ(1,280.4〜1,608.9nm)に及ぶ広帯域WDM光信号を生成。この光信号は、偏波多重のQPSK、16QAM、64QAM、256QAM方式を用いることで高いビットレートを実現した。
この光信号をカットオフシフト光ファイバで10km伝送し、受信した光信号から理想的な誤り訂正符号の適用を仮定して推定したデータレート(一般化相互情報量、GMI:Generalized Mutual Information)は毎秒430.2テラビットに達し、国際標準準拠の光ファイバにおける伝送容量の世界記録を達成したとのこと。また、一般的に使用される誤り訂正符号の場合のデータレートは、毎秒398.6テラビットとなったという。
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この表は、今回の成果と過去の単一モード伝送のみを用いた広帯域WDM伝送実験の比較を表したもの。これらの結果は、マルチモード伝送技術によって、より少ない波長数・狭い周波数帯域で大容量伝送が可能であることを示している
カットオフシフト光ファイバーは元々、商用の長距離光ファイバ伝送システムで利用されている波長帯において、光ファイバー内の伝送経路がただひとつとなるように設計されていた。今回、研究グループは、今後の利用が期待され、長距離伝送で未利用の短い波長帯において、複数の伝送経路を用いた伝送を実現する技術を開発。カットオフシフト光ファイバーの元来の設計を超えた大容量伝送実験に成功した。
この伝送技術は今後、AIをはじめとするデータ駆動型のインターネットサービスの急速な普及により急増している、光通信インフラの伝送容量の需要に対応し、既存の光通信インフラの伝送容量拡大に寄与することが期待される。


