サイボウズはこのほど、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive」から派生した、自治体向けの新企画「kintone hive government」を同社東京日本橋オフィスで開催した。

kintoneを導入した自治体はこれまでに400を超えており、各地で活用事例が生まれているという。同イベントには、企業とは異なる自治体ならではの業務課題や悩みを抱えるユーザーが集まり、各自治体の活用ノウハウを共有した。

本稿では同イベントから、人事異動の多い自治体で業務改善のバトンをつなぐことに成功した佐賀県庁の事例と、DX戦略室の取り組みを毎年改善して年間5000時間の業務を効率化した瀬戸内市の事例セッションについてお届けする。

kintoneでつなぐ業務改善のバトン - 佐賀県

まずは、佐賀県庁の事例から紹介しよう。佐賀県庁では現場に即したボトムアップ型のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、行政デジタル推進課が各現場のツール導入やシステム化を支援している。

しかし、現場発のDXは難しい。多くの場合、「改善したいけどやり方が分からない」「通常業務が忙しく時間がない」「上司や周囲のメンバーが理解してくれない」といった課題が生じる。

さらに自治体や行政機関に特有の課題として、定期的な人事異動が存在する。このため、せっかくDXの一歩目を踏み出しても、後任者の不在などにより継続性がないのだという。これにより、改善の芽が摘まれてしまう。

  • 人事異動により業務改善が進まない課題があるという

    人事異動により業務改善が進まない課題があるという

デジタルパートナー制度で幅広く業務課題を募集

行政機関に特有の現場課題を抱える佐賀県庁は、業務のDXを進めるために「デジタルパートナー」制度を開始した。これは、業務改善を進めたい人に対し、行政デジタル推進課のメンバーが伴走しながら支援する制度だ。相談の対応から改善、導入、さらには引継ぎの支援まで実施している。

行政デジタル推進課の武富有平氏は「制度の運用で特に大切にしているのは、相談対応の入口を広げること」だと紹介した。カフェのようなオープンなスペースで武富氏らが質問を受け付ける「ツール相談会」や、チャットによる質問対応など、いつでも誰でも相談できる仕組みを構築した。

  • 佐賀県庁 行政デジタル推進課 武富有平氏

    佐賀県庁 行政デジタル推進課 武富有平氏

  • 相談窓口に関する取り組みの例

    相談窓口に関する取り組みの例

制度の開始から3年が経過し、相談件数は右肩上がりで増加した。しかし相談件数の増加につれて、その内容が高度化したという。データベース連携や外部入力・共有、顧客管理システムなど、既存のツールでは相談内容に対応しきれなくなったことから、同庁ではkintoneの導入を検討した。

kintoneで組織の壁を越えた情報共有の効率化を実現

導入検討当時の佐賀県庁は、外部のクラウドサービスに個人情報をアップロードできないセキュリティポリシーを定めていたため、すぐに導入を開始できたわけではないという。

その後、令和4年度にこのセキュリティポリシーが改定されたこと、そして、サイボウズが自治体向けにkintone無料キャンペーンを実施したことが契機となり、試験的に導入開始。試験導入で手ごたえを感じたことから、令和5年度に本格的な導入に至った。

kintone導入後、同庁では庁内ガイドラインを作成。ガイドラインでは、kintoneをスムーズに使い始めるための基本ルールを定めたほか、後任者への引き継ぎをサポートするために業務フロー図とアプリ構成図の提出を求めた。これによって、DXに取り組みたい担当者の走り出しを後押しし、引き継ぎ時の混乱を最小限に抑える。

  • 佐賀県庁はkintone利用ルールを作成した

    佐賀県庁はkintone利用ルールを作成した

健康福祉政策課の坂本隼人氏は、障害のある方の医療費を一部助成する更生医療関係事務の郵送・転記作業におけるkintone活用事例を紹介した。

  • 佐賀県庁 健康福祉政策課 坂本隼人氏

    佐賀県庁 健康福祉政策課 坂本隼人氏

更生医療関係事務の業務フローは以下の通り。まず、住民が助成の申請を市町に提出し、市町の担当者は県庁に紙書類を郵送する。県庁の担当者は記載内容を確認して判定し、審査結果を判定書として市町に郵送する。この際に、郵送待ちや転記作業、電話による修正依頼と処理状況の説明などが発生し、課題となっていた。

  • 従来の更生医療関係事務の業務フロー

    従来の更生医療関係事務の業務フロー

佐賀県庁はこの業務にkintoneを導入。導入後は、市町の担当者はWebフォームから住民の申請内容を入力できるようになった。県の担当者はkintoneを閲覧して情報を確認できるため、郵送を待つ必要もなくなった。

また、kintoneの機能によりボタン一つで書類を作成できるため、転記作業も不要に。書類の修正や差し替えもWebから対応可能だ。県庁から市町への郵送も不要になり、市町の担当者も判定結果をすぐに確認できる。

  • kintone導入後の業務フロー

    kintone導入後の業務フロー

坂本氏は「この事例は、まさに県庁と市町の組織を超えてバトンがつながった事例。県と市町の担当者の業務負担が減ったことで、申請者(住民)にも直結している」と話していた。

また、「現場発のkintoneのアプリ開発に必要なのは、まずは現場の努力。そして、それを支援するためにはなんでも相談できるパートナーが必要。単純に見えるが、この2つを組み合わせることがkintoneを現場発で活用する一番の近道」とも話していた。

バトンをつなぐために必要な2つのポイントとは?

更生医療関係事務におけるkintone活用事例を受けて、武富氏は「佐賀県が大事にしているのは、まずはどれだけの人が走り出せるか。そして、いかにバトンがつながるのか。走り出せるようにするには、相談できる相手と相談していい安心感が必要。バトンをつなげるためには、情報の蓄積と継続的な支援体制が重要」だと解説した。

佐賀県はデジタルパートナー制度を通じて、走り出す人とバトンをつなぐ人をそれぞれ支援している。

  • 佐賀県は走り出す人とバトンをつなぐための仕組みを支援する

    佐賀県は走り出す人とバトンをつなぐための仕組みを支援する

ステップ・バイ・ステップで着実に全庁の業務を効率化 - 瀬戸内市

次に、毎年の振り返りと目標設定で着実な進歩を遂げた瀬戸内市の事例について紹介する。瀬戸内市は岡山県の東部に位置し、3万6000人ほどが生活している。刀剣や牡蠣が有名だ。

同市では平成29年度に富士通エフサスと実施した、都心の仕事を地方移住者にテレワークで委託する「定住促進プロジェクト」において、タスク管理やコミュニケーション基盤にkintoneが使われたことから、kintone活用に興味を持ち始めたという。

kintone導入後に直面した課題

導入1年目となる令和3年度、富士通エフサスの担当者がDX戦略監となり、3人のメンバーでDX戦略室が誕生した。その後、全庁の課題把握調査を開始。調査の結果、紙の申請書を複数のシステムやフォーマットへデータ転記する作業や、10年以上使われているExcelファイルのデータ管理など、多くの課題が見つかった。

これらの課題に対し、瀬戸内市はグループウェアとkintoneを含めた総合情報システムを導入。佐賀県の例とは反対に、瀬戸内市は市長によるトップダウン型で導入を進めたという。

  • 総合情報システムの導入

    総合情報システムの導入

その後、特定の部署を対象にパイロット導入を開始した。パイロット導入では、原課が業務フローを作成し、そのフローをもとにDX戦略室がアプリを作成する。複数のパイロット導入を実施した結果、うまくいったのはそのうちの一つだけだったとのことだ。

その一つというのが、平成29年度の定住促進プロジェクトでkintoneを使っていた企画振興課の要望で作成した、空き家マスタアプリだった。

空き家マスタアプリの他は、ほとんどが失敗事例だという。原課が作成した業務フローに従ってDX戦略室がアプリを作っても、「なんか思っているのと違う」という意見が多く挙がった。

  • パイロット導入に成功したのは一つだけだったという

    パイロット導入に成功したのは一つだけだったという

「一難去ってまた一難」な業務改善の歩み

DX戦略室が作成したアプリが原課で受け入れられなかった理由は、現場の担当者が自分たちでアプリを作成していないからだった。従来の業務フローの見た目を変えられたくない、変更部分に関する周囲の理解を得られないといった課題から、現場にフィットしなかったのだという。

こうした課題に気付いたDX戦略室は、アプリ作成をDX戦略室のみで行うのではなく、関係部署と一緒に伴走形式で進める方針に修正した。kintone説明会をハンズオン形式にしたり、DX戦略室への問い合わせにkintoneアプリを活用したりと、現場の担当者がkintoneを操作する機会も増やしている。

この際に作成したDX戦略室への問い合わせアプリは、現在では年間1500件の問い合わせがあるほど活用が進んでいるという。

  • kintone説明会をハンズオン形式で実施した(令和3年度)

    kintone説明会をハンズオン形式で実施した(令和3年度)

次なる課題として、同市では「各部署でアプリにしたい業務は出てきたが、自部署内での実装方法がわからない」という意見が出るようになった。それまでDX戦略室は個別の相談には対応していたものの、全庁での伴走支援相談窓口が存在しなかった。

これに対し、DX戦略室は類似の業務別に使えそうなアプリやプラグインについて説明会を実施。さらに、問い合わせアプリを経由して現場担当者から伴走依頼を受けるようにしている。

  • 令和4年度のkintone操作説明会

    令和4年度のkintone操作説明会

加えて、令和5年度からは各部にDX推進リーダー、各部署にDX推進委員を任命し、各部署でDXテーマを設定してアプリを作成することにした。これにより、やる気のある部署だけが突出して業務効率化が進むという状況を回避。

  • 令和5年度はDX推進委員向けの研修を実施

    令和5年度はDX推進委員向けの研修を実施

令和6年度には業務改善拡大のスピードアップを狙い、フロントヤード業務(カウンター、電話、オンライン申請など住民と接する窓口業務)を調査。課長級の研修でフロントヤード業務の改革につながる改善アイデアを検討し、さらにkintone説明会やアプリ作成を通じて全庁への業務改善の浸透を狙った。

  • 令和6年度はフロントヤード業務の具体的な改善アイデアを検討している

    令和6年度はフロントヤード業務の具体的な改善アイデアを検討している

年間5000時間の削減に成功した瀬戸内市、次なる夢は?

瀬戸内市では令和7年度に、令和6年度に行ったフロントヤード業務の調査結果や課長級研修で出た改善アイデアを具現化するために、オンライン申請の拡大、オンライン予約の導入、リモート窓口の導入を準備中だ。

また、業務改善を全庁に広げるため、人事部門と連携して部長級の研修を実施予定だという。

DX戦略室のこれらの取り組みの結果、同市ではこれまでに201回の伴走支援を実施し、約500のアプリを作成した。すべてのアプリを合わせると、年間5000時間以上の削減効果が見込めるとのことだ。

  • 年間5000時間の業務削減につながっているという

    年間5000時間の業務削減につながっているという

瀬戸内市の総務部でDX戦略室に所属する吉川雄介氏は、「瀬戸内市が全庁にkintoneを広めることができたのは、毎年、前年の振り返りを実施し目標を定めて計画的に進めたから。また、細かい研修のフォローとアプリ作成の伴走支援を実施したから」と紹介した。

続けて「業務改善を広める立場として、研修や事例紹介を通じて気付いてもらい、原課の『こうしたい』という思いを実現できるよう、どれだけ寄り添えるのかが大事だと感じた。ただし、一気には広がらないので、地道に広げていく必要がある」とも、話していた。

  • 瀬戸内市 総務部 DX戦略室 吉川雄介氏

    瀬戸内市 総務部 DX戦略室 吉川雄介氏