グローバル市場で勢いづく、家庭用血圧計の販売台数

医療・家庭用健康機器を開発・販売するオムロン ヘルスケア(以下、オムロン)は2025年10月、家庭用血圧計の世界累計販売台数が4億台を突破したことを発表した。1973年に家庭用血圧計の初号機である「マノメータ式電子血圧計 HEP-1」を発売してから50年以上経つが、2009年に1億台を突破するまで36年を要したのに対し、7年後の2016年に倍の2億台を越え、さらに10年もたたないうちにその倍に到達している。

  • 家庭用血圧計の初号機「マノメータ式電子血圧計 HEP-1」

    家庭用血圧計の初号機「マノメータ式電子血圧計 HEP-1」

背景には世界的に高血圧の人口が増えていることが考えられる。WHO(世界保健機関)によると、世界の高血圧人口は2024年時点で、成人の約14億人にもなると推定されており、3人に1人が罹患している計算になる。だが、高血圧は“サイレント・キラー”と呼ばれるほど普段は自覚症状がないことから、定期的な血圧測定による予防と早期発見、効果的な管理が求められ、血圧計市場はグローバルで拡大している。

また、血圧測定はかつて医師などに限定された医療行為だったが、1986年に開始された「大迫研究」(おおはさまけんきゅう)により、家庭で測定するほうが脳卒中や心不全、脳梗塞などの循環器疾患による将来的なリスクを正確に予測できることがわかり、家庭用血圧計を普及させるきっかけになった。

1978年に家庭向けデジタル血圧計の第1号機を開発し販売したオムロンは、大迫研究に当初から協力し、研究向けに300台の血圧計を提供。「検診」として利用することで、35年以上続く世界でも類を見ない研究となり、家庭での血圧測定の有用性が検証され、世界的な高血圧の基準として知られる「135/85mmHg」という値を導き出すことにもつながった。

  • 家庭での血圧測定の有用性を検証する「大迫研究」は現在も続いている

    家庭での血圧測定の有用性を検証する「大迫研究」は現在も続いている

1981年から続く三重・松阪での血圧計生産

オムロンは世界130以上の国と地域で血圧計を販売しており、カテゴリ別による売上高では68%を占めている。生産拠点は日本をはじめ中国、ベトナム、イタリアにあり、なかでも三重県松阪市にある「松阪事業所」はグローバル生産戦略拠点として、全体の約20%にあたる75機種以上を生産。高品質な日本製ブランドを確立している。

松阪では1981年から血圧計の生産を開始し、その時の血圧に合った最適な加圧を自動で行う世界初のファジイ自動血圧計をはじめ、世界最小超小型の手首血圧計、電源がない場所でも使用できるソーラータイプ、通信機能付きなど、最新機能を取り入れた革新的デバイスを次々に生産してきた。

  • 血圧計の進化と松坂事業所生産の歴代血圧計

    血圧計の進化と松坂事業所生産の歴代血圧計

自動化が難しい医療品質、人と機械の協働で実現

松阪事業所には、2020年に竣工された新棟を含む3棟がある。血圧計の製造においては、心臓部となる基板の表面実装(SMT)から、本体の組み立て、検査、出荷までを行っており、最大で年330万台を生産できるキャパシティを持つ。国ごとに異なる法規や医療制度を遵守しながら、精度の高い医療品質を追求。変動する需要に対応できる多品種少量生産体制を整え、「手組み」と呼ばれる作業を主流としている。

  • 松阪事務所の外観。ここでは血圧計以外にも、体温計や心電計などあわせて136機種を生産している

    松阪事務所の外観。ここでは血圧計以外にも、体温計や心電計などあわせて136機種を生産している

特に血圧計は高精度な作り込みが必要となり、製造工程の全てを自動化するのが難しい。とはいえ、今後の人手不足や高度なスキルを教育するコストを考えると自動化は不可欠である。

2016年には、ロボットを活用したフル自動機生産を開始。さらに次のステップとして、各製造ラインの手組みに自動機を組み合わせる「LCIA」(Low Cost Intelligent Automation)を2022年に導入し、人と機械のベストマッチングを実現した。

  • 主流だった手組みに自動機を融合させ、生産ラインを効率化している

    主流だった手組みに自動機を融合させ、生産ラインを効率化している

  • LCIAのモデル図

    LCIAのモデル図

たとえば、心電計付き上腕式血圧計のような高精度な作り込みが必要な組み立てラインでは、自動化が可能な部品を工場内で生産し、一方で機械での対応が難しい高度なハンダ付け作業はスキルを持つ有資格者が対応している。それ以外にも機械化が難しい箇所ではオリジナルの工具を使用するなど、工夫を重ねている。

作業の合間に検査も行うため、リアルタイムで結果がわかるといったさらなる効率化を図っており、商品によっては12、3分に1台のペースで生産できるという。

  • 高度なハンダ付けは有資格者が手作業で行う

    高度なハンダ付けは有資格者が手作業で行う

多品種少量生産に向け、部品のモジュール化・生産ライン見直しも

グローバルに対応できる高機能な製品を多品種少量で生産するために、血圧計の心臓部である部品や基板などを機種間で可能な限り共通化するモジュール化も進められている。成形品にロボットがモジュールをはめ込み、基本的な部分をつくり、機種ごとに異なる部分を手組みで仕上げるという工程だ。こうして松阪で築き上げられた技術や生産ノウハウは、海外の工場へ展開することも計画されている。

  • 部品のモジュール化により生産性が向上

    部品のモジュール化により生産性が向上

生産ラインの見直しは生産量を向上させ、ラインをひとつ減らしても同じ量の製品を生産できるようになり、エネルギー消費も削減している。さらに、空いたスペースを利用して繰り返し製造工程を見直すなど、グループ会社の技術や製品も活用しながら自動化も進められている。こうした日々の改善により、ハンダ付けも一部自動で行えるようになっている。

  • ラインの改善で空いたスペースを利用してさらなる改善を行っている

    ラインの改善で空いたスペースを利用してさらなる改善を行っている

  • 取り扱い説明書も含めて全体で改善点を繰り返し見直している

    取り扱い説明書も含めて全体で改善点を繰り返し見直している

  • ハンダ付けの自動機も開発

    ハンダ付けの自動機も開発

また、今回の工場見学には含まれなかったが、松阪事業所では部品調達の物流改革に力を入れており、仕入れ先を海外から国内に切り替え、輸送距離を短縮している。その結果、日本製を強く打ち出すことができ、アジア市場などで好評を得ているという。

心電図の同時記録やウェアラブル版の登場にも期待

松阪事業所は戦略拠点として、新しい技術の開発や試作品づくりなども行われている。「脳・心血管疾患の発症ゼロ」をミッションに掲げ、時代のニーズにあわせた製品をリリースしている。

そのひとつ、高血圧の主な原因とされる「心房細動」を発見するため、心電図を同時に記録できる血圧計「HCR-7800T」がある、これは、スマートフォンを通じてオムロンの健康管理アプリ「OMRON Connect/オムロンコネクト」を活用することで、いち早く発見できる。

  • 「HCR-7800T」は血圧と心電図を同時に記録できる

    「HCR-7800T」は血圧と心電図を同時に記録できる

アプリで収集されたデータを利用した研究も行っており、2025年12月には京都大学大学院と共同で、オムロンコネクトの利用者約30万人の家庭血圧測定データを解析し、2週間の測定データとユーザー属性から血圧測定の継続性を予測するAIモデルを開発したことを発表している。

血圧計に関しては、スマートウォッチでも血圧計を搭載した商品が他社から発売されている。オムロンの高い技術力を活かしたウェアラブルデバイスの登場にも期待したいところだ。