冨山和彦の【わたしの一冊】『東大生に教える日本史』

日本のリアル、日本人のリアル、日本史のリアル

 

 東大史料編纂所の本郷和人教授による駒場の教養課程における講義を書籍化したものである。著者はテレビ出演や大河ドラマの歴史考証でお馴染みだが、所属部局の性格上、普段は授業を持たないところ、一般学生向けに「変革期にあらわれる日本のルール」をテーマとしてまさにリベラルアーツ的な特別授業を行ったとのこと。 

 私はテレビ等での本郷教授の視点、すなわち個々の史実を忠実にたどりながらもその背景にある基本メカニズムや法則性を読み解き、そこから人物の本質、社会の本質、時代の本質を導き出す思考法が好きで、彼が登場する番組はできるだけフォローするようにしてきた。

 本書も同じ知の技法で日本の中世から近世の歴史を動かして来た本質的要素を、謎解きゲームのように明らかにしていくスタイルになっている。しかも歴史の専門家ではない私たちでも楽しめるように、専門性を浸食しない範囲で巧みに一般言語化した「語り口」には脱帽しかない。流れるような講演、いやラジオドラマを聞いているような気分でどんどん読み進められる。

 多くの話が目から鱗であると同時に、そこで語られる「変革期の日本のルール」は現代の企業変革においてもその多くが共通していることに気付く。まさに日本のリアル、日本人のリアル、日本史のリアルである。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(ビスマルク)。古来より、正しい未来を選択する鍵は自らの成功体験ではなく、リアルな歴史から学ぶことである。こんな時代だからこそ本書のような読みやすい歴史講義録を多くの日本人が読むべきだと思う。

 ちなみに本郷教授は、どうやら私と東大入学同期のようである。ぼんやりとあんな顔をした人物を学生時代に見かけたような、以前からの親近感はそこからも来ているような。とにかく本質的な意味でのリベラルアーツを身につけたこんな同期がいることが実に嬉しい。本郷君ありがとう。

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