NTTドコモビジネスの子会社で海底ケーブルの敷設・埋設などを手掛けるNTTワールドエンジニアリングマリン(以下、NTT WE マリン)は12月11日、ケーブルの敷設・埋設や保守などに使用される敷設船「すばる(SUBARU)」(以下、SUBARU)を記者向けに公開した。
国際通信の重要なインフラ「海底ケーブル」
国内外の通信において重要なインフラを担う海底ケーブル。世界で初めての商用化は、1850年代のドーバー海峡(英ー仏間)に敷設された海底ケーブルまでさかのぼる。当時の日本は、ペリー来航など幕末の動乱期を迎えようかというころだ。
国内の海底ケーブルの歴史は、1871年に長崎ー上海間に敷設されたケーブル、国内通信では翌72年に明治政府が関門海峡に敷設したケーブルに始まるという。これらの海底ケーブルはいずれも欧米の外国人技術者により主導された。初の国産海底ケーブルの製造は1935年だ。
NTT WE マリンは1998年にNTTグループの海洋エンジニアリング会社として設立されたが、その起源は前身の電電公社にあり、関門海峡に海底ケーブルを敷設して以来、組織形態は変わりつつも一貫して海底ケーブルの構築と保守を続けてきた。
Telegeographyによると、2025年時点で日本発着の海底ケーブルは計画中のものも含めて30本。内訳は、韓国が11本、台湾が14本、中国が18本、シンガポールが40本。世界全体では148万キロメートル(地球約37周相当)を超える海底ケーブルが運用されている。
海底ケーブルの設計・調達・建設は、NTTリミテッドジャパンなどの海底ケーブルオーナーがNECなどのシステムサプライヤーに発注。敷設工事はNTT WE マリンなどの施工会社が請け負う。保守はケーブルオーナーと保守会社が直接契約する。NTT WE マリンは施工と保守のどちらにも対応可能。
NTT WE マリンはNTTグループが保有する海底ケーブルを中心に、計11の海底ケーブルシステムの保守を担う。フィリピン国内の一部の海底ケーブルの保守も担当しており、国内外すべての保守を含めると、総延長の距離は約6万キロメートル(地球約1.5周相当)に上る。
海底ケーブル敷設船「SUBARU」の特徴
敷設船「SUBARU」は、NTT WE マリンが保有する敷設船3隻のうちの1隻で、船籍はフィリピン(マニラ)。全長124メートル、幅21メートル、総トン数は9557トン、航海速力は13.2ノット。
潮の流れや風の中でも船舶の位置を制御するダイナミックポジショニングシステム、鋤式埋設器、ROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操作型無人探査機)、敷設支援システムなどを搭載する。
ダイナミックポジショニングシステムは、決められたルートに沿って正確に敷設するために重要だ。従来は船長などの熟練の勘と技術に頼っていた操船だが、担当者によると「機器の使用方法さえ理解できれば小学生でも操作できる」ほど、操船精度が向上したという。
「SUBARU」はスラスタ(推進装置)として、船尾に2基のアジマススラスタ、船首にトンネルスラスタと格納式のアジマススラスタをそれぞれ1基、計4基を備える。いずれも発電機による電力を動力としているという。
アジマススラスタは水平方向に360度回転可能で、真横や斜め方向にも船を動かせる。これにより、ダイナミックポジションシステムと連動して高精度に船の位置を保てる。
「SUBARU」に搭載される海底ケーブル敷設用機器
「SUBARU」は現在主流の船尾作業方式で、船尾側に向かって海底ケーブルを延ばす設備を備える。ケーブルタンクは円筒形で、船が傾いても荷崩れしないよう隙間なく積み込まれる。「SUBARU」は大型のケーブルタンク2基と予備のタンクで、最大4000キロメートルの海底ケーブルを搭載可能。
敷設時は海底ケーブルを水平方向に繰り出す必要がある。また、海底ケーブルの修理の際には海底から巻き上げる必要がある。そのための設備として、「SUBARU」には2基のドラムエンジンと1基のケーブルエンジンが搭載される。リニアエンジンは繰り出しにのみ使用され、ドラムエンジンは繰り出しと巻き上げに使用される。
ドラムエンジンは直径4メートルほどのドラムに海底ケーブルを巻き付け、その摩擦でテンションを掛けながら繰り出しや巻き付けを制御する。最大40トンの張力にも対応可能だという。
リニアエンジンは上下に21対並んだタイヤで海底ケーブルを挟み、繰り出しのスピードを調整する。21対のタイヤは3対が1セット、すなわち7セットで運用される。テンションの掛かるケーブル繰り出し作業は両側のタイヤに摩擦熱が生じやすく、劣化につながる。そのため、7セットをすべて一度に使うのではなく、2セットずつなど交代で使用することで劣化を防ぐ。
海底ケーブルの埋設時には、鋤式埋設器が活躍する。敷設船後方からワイヤーで曳航(えいこう)しながら、海底ケーブルを埋設。鋤式埋設器は海底に1.5メートルの溝を作りながら、同時に埋設する。スピードを落とさないよう、鋤の前方にウォータージェットを発生させて土砂を流動化しながら進む。鋤式埋設器は海底2000メートルまで対応可能。
ROVは船上から電力や電気信号によって、クローラー(履帯)で自由に移動可能な無人の探査機。鋤式埋設器では対応できない場所や、海底ケーブル修理時などに使用する。
海底ケーブルを敷設・修理する技術
海底ケーブルは敷設から20年以上と長期間の運用が求められる。そのため、敷設するルートについては十分な海底調査が実施される。
敷設船への海底ケーブルの積み込みは、昼夜を問わずに進められる。ケーブルタンク内へのケーブル積み込み作業は、ケーブルの縒り(より)の影響を考慮する必要があるため、機械化が困難。人力で行われる。
海底ケーブルの切断や損傷時には、補修が必要となる。探索アンカーによりケーブルを探索し、切断した一端を船上に回収する。回収した一端にはブイを装着して海上に保留し、もう一端のケーブルも同様に船上に回収。その後、船上で修理用のケーブルを接続してから海底へと沈下させる。
光ファイバーは融着接合機により接続され、水圧や張力に耐えられるよう接続部はポリエチレンでカバーされる。接続作業は20時間以上を要するため、ダイナミックポジションシステムによる定点保持力が敷設船には欠かせないとのことだ。
余談となるが、船内にはドラムセットやキーボード、ダーツボードなど、乗組員の娯楽のための道具が置かれていた。一度航海に出ると数週間~数カ月間は生活を共にする乗組員たちの、癒しとなっているようだ。
また、昨今では船上に「Starlink(スターリンク)」アンテナが設置されており、ネット環境も以前と比較して充実しているという。
クラウドサービスの利活用が進み、普段あまり意識することはないが、われわれが日常的に使う通信の重要な部分を担っているのは物理的な光ファイバーのネットワークだ。海外のサービスや情報にすぐアクセスできるのも、まさに海底ケーブルのおかげである。重要な通信インフラを担う海底ケーブルに関する技術と、洋上で通信を支えてくれる人たちには、敬意と感謝の念に堪えない。




















