はじめに
前回は、生成AIを使った図解作成の基本的なアプローチと、3ステップのプロンプト作成法、そして日報入力の改善を伝えるイラストの実践例を見てみました。続く本稿では、さらに技術的な概念を説明するための実践作図例と、実務で活用するための具体的なポイントを解説します。
技術概念を伝える実践例
前回では業務改善のイラストを作成しましたが、ここでは非エンジニアに技術概念を説明するための図解に挑戦します。
実践例2:非同期処理の比喩的イラスト
非エンジニアのプロジェクトマネージャーに、なぜ非同期処理が必要なのかを直感的に理解してもらいたい。このような、厳密な技術メカニズムではなく、技術的な概念を説明する場面は、エンジニアなら誰しも経験があるでしょう。
ここでも3ステップのアプローチを使います。まず、シンプルな初期指示から始めます。
同期処理と非同期処理の違いを説明するイラスト作成のプロンプトを作成して
すると、次のような初期プロンプトが作成されました。
「同期処理と非同期処理の違いを説明する教育用イラスト。左側には同期処理を示し、右側には非同期処理を示す。
同期処理は、1人の人物が3つのタスク(料理、掃除、洗濯)を順番に1つずつ完了させている様子。
非同期処理は、同じ3つのタスクを別々の人物やロボットが同時並行で進めている様子。
イラストはシンプルで親しみやすく、カラフルな説明図のスタイル。ラベル付きで『同期処理』と『非同期処理』の見出しあり。」
そして次に、「作成したプロンプトを分析して、不明点があれば質問して」と入力します。すると、前回同様、いくつかの質問が返されるので、AIからの質問に答える形で、以下の情報を追加入力しました。
対象読者:非エンジニアのプロジェクトマネージャー
タスクの具体性について:レストランの注文システムに例える
人物やロボットのイメージ:女性
イラストのスタイルやトーン:漫画風、教育資料向け
サイズやフォーマット:PowerPoint資料向け
この結果を踏まえて「より良い画像を生成するための改善点を具体的に3つ以上挙げて」と要求すると、改善点と修正案がえられました。適宜修正案を変更して、次のように入力します。
プロンプトを修正して。
動作・順序を「視覚的に」明確化:「レストランで注文を1つずつ待つ」vs「複数の注文を同時に処理」
ストーリー性を補強:「背景にレストランのカウンター、テーブル、キッチンなどのシーンを含め、それぞれの場所で起こっている処理が分かるようにしてください。」
表情や感情で「効果の違い」を表現:「キャラクターの表情にも注目し、同期処理側は待たされて退屈そうな客、非同期処理側はすぐに対応されて満足げな客を描いてください。」
UI的ラベル:「各シーンの上部に「同期処理」「非同期処理」と大きく見出しラベルを配置」
これらを反映した最終的なプロンプトは以下のようになりました。
教育用の漫画風イラストで、同期処理と非同期処理の違いをわかりやすく説明してください。
画面は横長でPowerPoint資料向けです。
左側は『同期処理』のシーン。レストランでウェイトレス(女性)が1人で注文を1つずつ順番に処理しており、お客さんは順番を待っていて退屈そうな表情です。
右側は『非同期処理』のシーン。複数の女性スタッフがそれぞれ注文受付、調理、配膳を同時に進めていて、お客さんは満足げにすぐ対応されている様子です。
両方のシーンで、レストランのカウンター、テーブル、キッチンといった背景を描き、それぞれの場所で起こっている処理が直感的にわかるようにしてください。
また、動作や処理の順序が視覚的にわかるように矢印やフレームで示してください。
画面の上部には大きく「同期処理」「非同期処理」という見出しラベルをそれぞれ配置してください。
イラストは明るく親しみやすい漫画風で、説明資料としてシンプルかつ効果的に伝わるデザインにしてください。
このプロンプトを使って生成した画像が以下です。
このように、抽象的な技術概念も、適切な比喩と3ステップのアプローチを使えば、誰にでも伝わるビジュアルに落とし込むことが可能です。
ただし、生成された画像では矢印の向きがちょっと不自然です。こうした細かい点は、PowerPointなどで後から修正することで、より正確な図解に仕上げられます。
AIごとの生成結果を比較
同じプロンプトでも、AIによって表現のクセが異なります。ここでは、「マイクロサービスとモノリシックの比較図」(*)をテーマにしたプロンプトを、5つの汎用AIで実行した際の違いを見てみましょう。
*)モノリシックとは、アプリケーションを単一のコードベースで構築する方法、マイクロサービスは、小さなコンポーネントを組み合わせることでシステムを構築する手法です。
投入したプロンプトは以下のとおりです。この例では、全体レイアウトや仕上げを別項目にわけています。このようにすると、プロンプトを再利用しやすくなります。
マイクロサービスとモノリシックアーキテクチャを比較する概念図を描いてください。
シンプルで研修資料向けのフラットデザイン。背景は白。人型アイコンや余計な装飾は不要。
【全体レイアウト】
- 1枚の画像に、左右対称で横並びに配置。
- 左右の図の大きさは揃える。
- 中央に余白を設けて分離感を出す。
【左側(Monolithic Architecture)】
- 1つの大きな長方形の中に「UI」「ビジネスロジック」「データベース」を積み重ねて配置。
- 各要素の文字はシンプルなSans-serif(ゴシック体のような、装飾のない書体)太字で大きめに表示。
- データベースはクラシックな円柱アイコンで表現。
- 濃いグレー単色でまとめ、統一感を出す。
- 上部ラベル:「Monolithic Architecture」。
【右側(Microservices Architecture)】
- 「ユーザー」「商品」「注文」「在庫」の4つの小さな長方形を配置。
- 各長方形の下に円柱アイコン(クラシックなDB表現)を置き、独立性を示す。
- サービス同士は直線で軽く接続し、関連性を示す(矢印は不要)。
- 各サービスは青や緑を使い分け、カラフルだが調和のある配色にする。
- ラベル文字はSans-serif太字で大きめに表示。
- 上部ラベル:「Microservices Architecture」。
【仕上げ】
- 教科書的で教育向けの分かりやすい図。
- アイコンや装飾は最小限に。
- 読みやすさと比較の明確さを優先する。
では、ChatGPT、Copilot、Gemini、Genspark、Grokで得られた結果を比較してみます。筆者の印象(主観的なものです)を添えています。
・ChatGPT
ChatGPTは、プロンプトの指示に忠実で、優等生的な図解となる傾向があります。教育資料として使いやすい、バランスの取れた仕上がりです。
・Copilot
Copilotは、ChatGPTをベースにしながらも、Office製品との親和性を感じさせる整った見た目が得やすいです。PowerPointに直接挿入する際に、デザインの統一感が保ちやすいのが特徴です。
・Gemini
Google Geminiでは、プロンプトを創造的に解釈し、よりデザイン性が高かったり、アーティスティックな表現になったりすることがあります。ただし日本語の文字表記は苦手です。
・Grok
xAI社のGrokでの画像生成の特徴は、描画スピードが速く、デフォルトで2つの画像が生成されることです。ただし、日本語の文字表記はGemini以上に壊滅的だったので、ここでは英語ラベルで出力しています。
・Genspark
Gensparkは、ChatGPTなどのモデルを内部的に利用するエージェントで、ここでは「Genspark スーパーエージェント」で生成しています。画像生成モデル(画像生成する仕組み)は、指定しない場合、自動選択されます。この例は、ChatGPTと同じ、gpt-image-1です。また、英語ラベルとなってしまったので、日本語ラベルの指示も加えています。
筆者の個人的な経験では、Gensparkがもっとも精緻な図を生成する印象でしたが、ChatGPTやCopilotの精度がかなり向上しているようです。GeminiやGrokは、まだ日本語表記は厳しい状況です。ただ、ChatGPT系にはない独特な画風なため、用途によってはインパクトがあるでしょう。
実務活用のポイント
ここからは、業務利用で押さえるべきポイントについて解説します。
各AIツールの料金プラン
多くのツールには無料プランがありますが、ビジネスで本格的に活用する場合は有料プランが推奨されます。有料プランは、生成回数や速度の向上だけでなく、より高性能なモデルへのアクセスや、チームでの利用に適した機能を提供する場合もあります。料金は、2025年10月時点の目安です。料金や機能については、よく改訂されるので、実際に利用する前には確認をお願いします。
各AIツールの料金・機能比較表
| ツール名 | 無料プラン | 有料プラン(月額) | 主な機能差 |
|---|---|---|---|
| ChatGPT | 無料(GPT-5 制限付き) | $20(Plus)/$200(Pro) | GPT-4/5モデル利用、画像生成、音声・動画対応、Proは企業向け拡張 |
| Microsoft Copilot | 1 日30 回まで | $20(Microsoft 365 Copilot) | 優先アクセス、Office統合、高度な文書生成、商用利用権 |
| Google Gemini | 無料(速度制限あり) | $20(Pro)/$250(Ultra) | 高速生成、長文処理、画像・動画生成、法人向け追加機能 |
| Grok (xAI) | 無料(Grok 3制限付き) | $30(SuperGrokプラン) | GPT-4相当の自然言語性能、超高速応答、画像生成・コード補助、X連携 |
| Genspark | 無料/日200クレジット | 約$25(Plus)/約$250(Pro) | マルチエージェント連携、高精度生成、企業機能 |
ビジネス利用では、特にMicrosoft Copilotが推奨されます。Office製品との統合が強く、企業向けプラン(Microsoft 365 Copilot)では、入力データが学習に利用されない設定が可能なため、セキュリティ面でも安心です。
日本語ラベルの後編集
前編の実践例でわかるように、生成AIは、画像内に日本語テキストを正確に描画することが苦手で、文字化けすることが多くあります。これは、AIの学習データの言語的な偏りや、画像生成モデルが日本語特有の文字セットに最適化されていない、といった理由です。
ただし、日本語描画の精度は日々向上しており、文字化けの頻度は減少傾向にあります。それでも完全ではないため、図に日本語ラベルを入れたい場合は、後から手動で修正(PowerPointやIllustratorなどを利用)することを前提とした、以下の手法が有効です。
(1)テキスト部分を空白にする
プロンプトで「テキストラベルは空白にしてください」と指示し、画像生成後に編集ソフトで日本語を追記します。レイアウトを確保しつつ、自由にテキストを配置できます。
左から右に処理が流れるフローチャート図(画像)を作成してください。4つのステップがあり、矢印で接続されています。各ステップのボックス内のテキストは空白にしてください。
この方法であれば、生成されたボックスの位置に後から「要件定義」「設計」「実装」「テスト」といった日本語を正確に配置できます。
(2)記号や数字で代替する
「ステップ1」「ステップ2」のように、ラベルを数字や記号で代替するよう指示します。後から凡例を追加したり、編集ソフトでテキストを置き換えたりする際に便利です。
プロジェクトの4段階を示す図を作成してください。
各段階のラベルは「Step 1」「Step 2」「Step 3」「Step 4」としてください。
数字やアルファベットは文字化けしにくいため、生成後に、「Step 1」から「要件定義」に変える場合も、対応がわかりやすく効率的に作業できます。また、「Step 1:要件定義」などの対応表を図に追加する方法もあります。
(3)英語でラベル付けする
比較的正確に描画されやすい英語で一旦ラベルを生成させ、後から日本語に修正する方法です。前編の実践例や、今回のマイクロサービス比較図では、プロンプト内で「Monolithic Architecture」「Microservices Architecture」など、意図的に英語のラベルを指定しています。こうすることで文字化けを回避できますが、後から「モノリシックアーキテクチャ」などに置き換える手間が発生します。
生成AIを利用する上での留意点
前編では、機密情報とデータ学習の基本的な注意点をとりあげました。ここでは実務での運用・コンプライアンスの観点から留意点をまとめました。
1.利用規約の確認
商用利用の可否や著作権の帰属は、各ツールの利用規約に基づきます。利用前に必ず最新の利用規約を確認し、プロジェクトの用途に適合するかを検証してください。
・特に確認すべき点
生成した画像を外部公開する場合の制限
商用製品に組み込む場合のライセンス
生成画像の権利帰属(多くは利用者に帰属するが、サービスによって異なる)
無料プランでの商用利用制限の有無
生成物に第三者のスタイルや著作物が類似する可能性があるため、公開前に社内レビューを行う
2.情報の正確性
AIが生成した図やテキストの内容に誤った情報を含む可能性があります。特に専門的な情報を扱う場合は、必ず人間の目によるファクトチェックを実施してください。
・よくある誤りの例
技術アーキテクチャ図で矢印の向きが逆
プロセスフロー図でステップの順序が論理的におかしい
数値や統計データの不正確な表現
誤った図が社内に広まると大きなリスクになる場合もあり得ます。今回の実践例でも、矢印の向きなど修正が必要な例がありました。
3.反復的な改善
最初の生成結果が完璧であることは稀です。プロンプトを少しずつ変えながら、対話的に改善を繰り返すことが理想のビジュアルに近づく最善の方法です。前編で紹介した3ステップのアプローチは、まさにこの反復的改善を効率的に実現するための手法です。
4.最終的な調整
AIの生成物は完成品ではなく質の高い草案です。最終的な仕上げや微調整(テキストの追記、意図しないオブジェクトの消去など)は人間が行うことで、より意図に沿った成果物となります。PowerPointやIllustratorなどの編集ツールを併用することを前提に考えると、より効率的なワークフローが構築できます。
5.アカウント管理
個人アカウントでの業務利用は管理不備につながります。企業アカウントでの一元管理と、退職時のアクセス権限削除手順を整備しましょう。個人のメールアドレスで登録したアカウントで業務を行うと、担当者の異動や退職時に成果物やアクセス履歴の引き継ぎが困難になります。
6.コンプライアンス
金融・医療等の規制業界では追加の確認が必要です。社内IT部門・法務部門との事前調整を行ってください。業界によっては、AIツールの利用自体に規制がある場合や、生成物の使用に特別な承認プロセスが必要な場合があります。
最後に
生成AIは、単なる作図ツールに留まらず、思考を整理し、コミュニケーションを円滑にするための強力な知的生産パートナーです。重要なのは、AIを単なるオペレーターとして使うのではなく、対話を通じてAIに考えさせるという意識を持つこと、そして目的に応じて最適なツールを使い分けることです。
まずは、一番手軽な汎用AI(ChatGPTやMicrosoft Copilotなど)で、ご自身の担当システムのコンセプト図など、身近なテーマを図にしてみることから始めましょう。本記事で紹介した3ステップのアプローチを試せば、きっと驚くほどスムーズに完成するはずです。
前回解説したプロンプト作成の基本と、本稿で紹介した実務上の留意点を押さえることで、生成AIを安全かつ効果的に活用できます。ぜひ、明日からの業務で実践してみてください。
WINGSプロジェクト 髙江 賢(著)山田祥寛(監修)
有限会社 WINGSプロジェクトが運営する、テクニカル執筆コミュニティ(代表山田祥寛)。主にWeb開発分野の書籍/記事執筆、翻訳、講演等を幅広く手がける。現在も執筆メンバーを募集中。興味のある方は、どしどし応募頂きたい。著書、記事多数。
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X:@WingsPro_info(公式)、@WingsPro_info/wings(メンバーリスト)<著者について>
パソコン黎明期からプログラミングの進化を追い、Web・モバイル・IoT・AIまで多様な開発現場を駆け抜ける。
現在、株式会社気象工学研究所で気象×ITの最前線に立ちつつ、執筆コミュニティ『WINGSプロジェクト』のメンバーとして活動中。







