日本HPはこのほど、「オンデバイスAI」の最前線を紹介するプライベートイベント「HP Future of Work AI Conference 2025」を東京国際フォーラム(東京)で開催した。同イベントでは、米HPでFuture of Work(未来の働き方)のGlobal HeadであるLoretta Li-Sevilla氏が、「働き方の未来を再定義する:AI PC とそのエコシステムの力」と題して講演を行った。
Loretta氏は、AI PCという新しいトレンドに焦点を当てたHPのエコシステム戦略に加えて、最新のHP AI PCに搭載されているソリューションを紹介した。
Loretta氏は、「社会はインテリジェンスの時代に向かっている」と述べ、講演をスタートした。
「テクノロジーが人間の思考やクリエイティビティと混ざって来ています。(テクノロジーは)例えば、コラボレーションできるパートナーとして手伝ってくれるだけでなく、キーボードやマウスを使ったインプットに始まり、コンテクストを理解した上で、どこで、何が必要になるのかということまで理解しています。これにより、タスクの自動化から、タスクの拡張、ワークフローの拡張、複数のタスクをまとめるところまで来ています。私たちの代わりに仕事をしてくれるテクノロジーもあり、これがすべて人間の可能性を解き放ち、人を拡張しています」(Loretta氏)
AIはハイブリッドの時代へ
こうした状況の中、米HPが行った調査では、56%の従業員が毎日AIを使っていることが判明した。この数字は、リーダーが思っていた3倍の数だという。
このように人々の生活の中に浸透しつつあるAIについて、Loretta氏は、今後はハイブリッドで利用されるようになると指摘した。
「AIはクラウドモデル、さらにはローカルでの処理とハイブリッドになっていきます。多くのデータにアクセスする必要があるなど、用途によってはクラウドだけで使われることもあると思いますが、エッジで処理したほうがよいワークロードもあります。そのため、クラウドとローカルのバランスを取るというところにシフトしていくと思います。その触媒となっているのがAI搭載のPCです」(Loretta氏)
AIをローカルPCで利用するメリットとは
Loretta氏は、AIをローカルPCで利用するメリットとして、次の4点を挙げた。
1つ目は、ローカルでAI搭載のデバイス上で実行するとスピードが早いことだ。例えば画像生成や動画生成、音声認識、自動翻訳、要約、光学読み取り(OCR)は、5倍から20倍ほどローカルで行った方が早いというデータもあるという。
2つ目はコストとエネルギー消費に関するメリットで、ローカルで実行することで、クラウドに対して料金を支払う必要がなく、クラウドとローカルの行き来がないためTCOを削減できるという。
3つ目はセキュリティだ。パーソナライズされた体験がたくさん格納されているPCにAIを置いておくことで、完全にプライベートな環境を作ることができるという。
4つ目がよりスマートかつシンプルという点で、AIがデバイスを常にモニターしており、良くないことが起きることを予防したり、予知したりできるという。
「例えばパフォーマンスが必要なのか、パワーを必要としているのかによって、そのバランスを取ることができるわけです」(Loretta氏)
CPU、GPU、NPUを搭載するAI PCの強みとは
またLoretta氏は、AI PCはハード面でCPU、GPU、NPUという3つのエンジンを使っているという点で違いがあると説明した。
汎用のAIワークロードに関してはCPU、グラフィックスはGPU、そしてもう一つ新しいプロセッサとして、AI処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)が搭載されている。また、NPUはエネルギー効率も高く、バッテリー持続の面での恩恵もあるという。
なお、ZoomはNPUをバーチャルバックグラウンド(バーチャル背景)のために使っている。
AI PC使っているHPの社員からは、「1週間に最大4時間の時間の節約ができた」「動作と分析の改善が40%も増加した」「70%のユーザーが電話会議中のエンゲージメントが向上した」という意見が寄せられたという。
今後はAIソリューションの提供やエコシステム構築に注力
ガートナーは今年8月、AI搭載PCの出荷台数が2026年には1億4,300万台に達し、PC市場全体の55%を占め、2029年までにAI PCが標準になるとの予測を発表した。
その背景には、生成AIや小規模言語モデル(SLM)といった新技術の普及、クラウド依存からローカル処理へのシフト、そしてユーザー体験の高度化への期待があるという。
こうした状況の下、HPはAI PCの活用に向け、AI ソリューションの提供やエコシステムの構築に力を入れているという。
AIソリューションのHP AI Companionは、一般的なナレッジに関する質問できるほか、分析をして分析情報の比較、重要ポイントの要約や強調表示、特定のデータの絞り込みなどが行える。また、ビデオ会議ソリューション、電話機などのコミュニケーション機能を提供するHP Polyは、ビデオ会議に1クリックで合流することができるという。
そのほか、エンドポイントセキュリティソリューション「HP Wolf Security」、HPデバイスの稼働状況のリアルタイム監視、構成管理、ファームウェアの更新・ダウングレード、リモートでのサポートなどを可能にするHP Smart Device Servicesも提供している。
エコシステムでは、デベロッパー向けポータルやISVのパートナーシップを通じてAIアプリケーションの開発と普及を推進している。
デベロッパー向けポータル(HP AI Developer Portal)では、ユースケースやホワイトペーパー、コードなどを提供。‘
また、AI PCに向け100社以上のISVがパートナーになっており、過去6カ月でデベロッパーの数、アプリケーションの数、NPUを使っている人の数が2倍になっているという。
最後に、Loretta氏はAIが人の仕事を奪うのではないかという懸念に対して、「まずは、従業員がさらにAIを使うことを推進すべき」というメッセージを送り、講演を終えた。
「AIによって自分の仕事がなくなるのではないかとよく聞かれますが、イノベーションを推し進めるのは人です。ただ、AIを使っている他の人に取って代わられるということはありえるでしょう。そのため、従業員にできるだけ良いやり方でAIを使うことを加速して、最大限の生産性を発揮してもらうことが重要だと思います」(Loretta氏)





