米NetApp(ネットアップ)は10月14日~16日の期間で米ラスベガスにおいて年次カンファレンス「INSIGHT 2025」を開催。初日の基調講演「The Future Begins with a Strong Foundation: Unleashing Success with an Intelligent Data Infrastructure for AI(未来は強固な基盤から始まる:AIのためのインテリジェントなデータ基盤で成功を解き放つ)」では、CEOであるGeorge Kurian(ジョージ・クリアン)氏からAI時代に向けた戦略、ビジョンなどについて語られた。
AIプロジェクトの約80%の時間がデータの整備
登壇したクリアン氏は、NetAppの創業から30年以上経過していることについて触れた。同社は1992年にNFS(Network File System)のサーバ製品を開発、そこから統合型データストレージプラットフォームへと進化し、さらにハイブリッドクラウド・データファブリックでハイパースケール環境にも対応してきた。
そのうえで、同氏は「今、AIの時代が到来しています。AIは良質なデータに依存することから、効果的に活用する最大の課題はデータを管理・整理、キュレーションし、AIモデルに適した形に変換することです」と強調した。
データパイプラインは、さまざまなデータソースからデータを自動的に収集、変換、処理し、分析や機械学習などの目的に適した状態に整えて保存する一連のプロセスを指す。クリアン氏は「企業のアプリケーションから生成されるデータを、AI対応のデータへと変換する従来のパイプラインは、構造化データ向けに設計されており、テキスト文書などの非構造化データには適していません。AIプロジェクトの約80%の時間がデータの変換などの整備に費やされているのです」と指摘する。
同氏によると、非構造化データはスキーマが存在せず、LLM(大規模言語モデル)などの技術を使ってスキーマを生成する必要があるほか、データの変化速度も構造化データより桁違いに速く、1つのメディアファイルが100TBを超えることもあるとのこと。
また、従来の方法ではデータをアノテーション、統合、変換の各アプリケーションにコピーする必要があり、コストも複雑さも高くなることに加え、セキュリティやアクセス制御、データの系譜(トレーサビリティ)を維持するのが困難だという。
AIをデータのある場所に持っていく
そのため、同社はあらゆるデータ形式に対応する統合型のデータプラットフォーム「NetApp Data Platform」の構築を目指す。クリアン氏は「データをAIに持っていくのではなく、AIをデータのある場所に持っていくというのがNetAppのビジョン」と述べている。
NetAppが構想する統合型データプラットフォームは「Unified Data Storage」「Metadata Engine」「Data Management Services」で構成し、「Metadata Fabric(メタデータファブリック)」と呼ぶ。Unified Data Storageではセキュリティやデータマネジメントなど、Metadata Engineはアクティブカタログやカスタムアノテーション&タギング、Data Management Servicesはガバナンスなどを提供する。
同社ではメタデータファブリックを構築し、AIエージェントが普及する中でインテリジェントなデータエージェントによる制御プレーンを構想しているという。
クリアン氏は「これらのエージェントはデータへのアクセス、コンテキストの提供、要約などを行い、MCPといった標準プロトコルを通じて、アプリケーションやワークフローエージェントと連携します。この制御プレーンの基盤となるのが『Knowledge Graph』です。これはデータ同士のつながりや意味を理解するための仕組みとなります」と、現在構想段階のプランについて明らかにしていた。
AIデータパイプラインの課題
続いて、NetApp CPO(最高製品責任者)のSyam Nair氏が登壇し、データパイプラインについて「混乱しています。データはコピーされ、移動され、更新は遅れ、スキーマは崩れ、データの出自が分からない。古いデータからはインテリジェントな成果は生まれません。また、サイロ化。部門ごと、チームごと、アプリケーションごとにデータは孤立し、アクセスは困難で、コンテキストもありません」との認識を示した。
加えて、インフラはAIの本番環境向けに作られておらず、本番にはスケール、信頼性、レジリエンス、セキュリティ、コントロールが必要となる。そういったニーズに対応するものが、ここ数年同社が打ち出す「Intelligent Data Infrastructure」(インテリジェントなデータインフラ)というわけだ。
そして、重点領域として、コスト削減、効率を向上させる「データインフラのモダナイズ」、パイロットから本番に向けた「AIの価値創出」、柔軟性とスケーラビリティを確保する「クラウド変革」、脅威からデータを守る「サイバーレジリエンス(インシデントからの回復力)」の4つを挙げた。
AI向けワークロードに適したハードウェア
こうした、同社のプロダクトの方向性のもとに開発された製品として、まず紹介されたものが「NetApp AFX」と「NetApp AI Data Engine」だ。NetApp AFXは、ストレージコントローラに「AFX 1K」、ストレージエンクロージャは「NX 224」、データコンピュートノードに「DX50」と新たにハードウェア3機種を開発し、3つのコンポーネントを組み合わせてAI向けワークロードをサポートする。
AFXは、高度なAIワークロード向けに設計された、エンタープライズグレードの分散型オールフラッシュストレージシステム。AIファクトリのデータ基盤として機能し、NVIDIA DGX SuperPODスーパーコンピューティングの認定ストレージの資格を取得しており、ONTAPを搭載。最大128ノードまでの性能拡張、毎秒テラバイト単位の帯域幅、エクサバイト規模の容量をサポートし、パフォーマンスと容量の独立したスケーリングが可能。
一方、NetApp AI Data Engineはデータの取り込みや前処理から、生成AIアプリケーションへの提供までを支援し、顧客データの資産全体を可視化。高速な検索やキュレーションを可能にし、オンプレミスとパブリッククラウドを横断してモデルやツールにデータをシームレスに接続する。
NVIDIA AI Data Platformリファレンス デザインを活用しており、NVIDIAアクセラレーテッド コンピューティングとNVIDIA AI Enterpriseソフトウェア(NVIDIA NIMマイクロサービスを含む)を組み合わせ、ベクトル化と検索拡張を実現するという。オプションのDX50データ コントロール ノード上のAFXクラスタ内でネイティブに稼働し、今後はNVIDIA RTX PRO Servers(RTX PRO 6000 Blackwell Server Edition GPU搭載)との統合も予定している。
クラウドへの対応
次にGoogle Cloudとの協業強化ではフルマネージド型のクラウドファイルストレージサービス「Google Cloud NetApp Volumes」(GCNV)に追加されたブロックストレージ機能は、FlexサービスレベルでNAS(NFS/SMB)とSAN(iSCSI)の両方をサポートする統合されたクラウドストレージを実現。
既存のファイルストレージサービスにiSCSIブロック機能を加えることで、仮想化環境のホスティングやデータベース管理など、エンタープライズアプリケーションをGoogle Cloud上で柔軟に活用できるという。リクエストに応じて一般提供を開始している。
また、FlexCache機能がGCNVとAzure NetApp Files、AWS FSxNに対応することでオンプレミスとクラウド間のデータリンクを実現。FlexCacheは統合データプレーン上にグローバルネームスペースを構築し、1つのデータセットを複数の場所(FSxN、GCNV、ANF、オンプレ)で利用を可能としている。
AI時代のデータサプライチェーンを築く
サイバーレジリエンスの強化では、データ保護を「設計段階から組み込む」ことを重視し「NetApp Ransomware Resilience」を発表。これは、リアルタイムでデータ流出を検知し、攻撃を即座にブロックし、隔離されたリカバリ環境で復旧作業を行い、SnapLockによる改ざん防止スナップショットやオブジェクトロックも標準搭載している。
異常アクセスとデータ流出をリアルタイムで検知し、攻撃を阻止する「Data Breach Discovery」や、クリーンかつ迅速なマルウェアフリーの復旧をガイドする「Isolated Recovery Environment」などの機能を備えている。
一連の発表を終えたNair氏は「AFX、AI Data Engine、クラウド統合、サイバーレジリエンスを備えたインテリジェントなデータインフラが必要です。これにより、企業はAIの価値を迅速かつ低コストで実現することが可能にするのです。未来ではなく、今日から始めましょう。AI時代のデータサプライチェーンをともに築くのです」と述べ、プレゼンテーションを締めくくった。
従来の“ストレージベンダー”というイメージから“データプラットフォームベンダー”への脱却が垣間見える同社の今後に期待したい。







