パナソニック エレクトリックワークス(パナソニックEW)は、自走式サービスロボットを活用した警備・点検ソリューションを手掛けるugoとの共創により、サービスロボットの運用効率を高める技術の検証を2025年9月より開始したことを発表した。
そして両社は10月9日、この発表に際し、パナソニックEWが2024年12月に開設したR&D拠点「SHIOMER」を舞台に行われるオフィス検証の見学会を開催。実際のロボット「ugo mini」を活用した検証の様子を公開するとともに、技術検証の詳細や今後の展望についても説明した。
注目される“スマートビル”に不可欠なロボット活用
急速な人口減少が続いている中、人手不足の問題はいよいよ限界が近づいている。現在では都市部のオフィスビルなど数多くの大型建築が乱立しているが、そのメンテナンスに従事する人員は今後も減少が続き、もはやメンテナンスサービスが成立しない状況に陥る可能性が危惧されている。
そうした課題を解決する方策として期待されているのが、各所に設置したセンサなどを用いて建物全体をスマート化し、自律的にメンテナンスを行う“スマートビル”だ。昨今はその普及が進み、業界団体も設立されるなど、さまざまな社会課題を解決するカギとして注目を集めているとのこと。特にその中では、建物内を自走する“サービスロボット”の導入・利活用が広がっているという。
そうした中でパナソニックEWは、2023年度に実施したアクセラレータプログラム「Panasonic Accelerator by Electric Works Company」において、ugoの業務DXロボットと設備システムの連携による“建物DXの実現”に取り組んでいた。以来両社は、建物におけるロボットの利活用および導入課題について検討を行っており、現在ではパナソニックEWが知見を有する照明設備とロボットとの連携による運用効率向上を目指している。具体的には、オフィス天井に設置されたビーコン付き照明設備の情報を用いて、フロア内のロボット稼働効率向上やメンテナンス時間の削減に取り組んでいるとする。
自走ロボット運用の課題は「鉢合わせ」
スマートビル実現を見据えた自走ロボット活用では、必要とされる作業に応じてさまざまなベンダーのロボットを並行して導入することが想定される。ただし各ロボットは、それぞれがSLAM(自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術)により構築した自己マップにより稼働しており、ロボット間で位置情報を共有する仕組みなどは存在していなかった。そのためベンダーが異なるロボット同士が頻繁に鉢合わせたり、複数台が同じ場所に密集して作業したりするなど、運用効率の低下が懸念されていたという。
そこで2社は、ロボット間での位置情報を共有しスムーズな活動を行えるシステムの構築に着手。1つの方策として、天井のビーコンと通信することでゾーニングされた環境を“共通マップ”として各ロボットに認識させ、情報を共有した状態での効率的な運用を実現することを目指した。なおパナソニックEWによれば、将来的には同社が提供する無線照明制御システム「LiBecoM」などを活用し、ビル単位のOSを介した通信を実現したいとのこと。今般の検証ではその前段階として、同社R&D拠点での「Panasonic Accelerator by Electric Works Company」フロア内実証に挑んでいるとする。
「目隠しで誘拐された状態」からどう復帰する?
パナソニックEWの担当者によれば、今回の実証における主なポイントは以下3点だという。
自走ロボット活用実証の主なポイント
- 自己位置ロスト時の自動復帰
- 照明制御による異常対応
- 共通マップとヒト位置検出の連携
自己位置ロスト時の自動復帰
同実証で用いられているugoの自走ロボットは、導入時にLiDARセンシングによって構築した自己マップをもとに自律走行を行う。走行の際は充電ポートなどを“スタート地点”とし、そこからの移動経路から自己位置を推定するとのこと。そのため走行中に持ち上げられ移動したり、何かにぶつかったりという外乱が発生すると、ロボットは「目隠しをされたまま移動させられた状態」となり、自己位置をロストしてしまう。その後の再起動のためには、担当者が現地に足を運んでスタート位置に戻す必要があるのだ。
しかし今回の実証では、自己位置の推定に天井部のビーコンを活用するという。自己位置をロストしたロボットは、即座にビーコンの信号を得て自らの位置を把握。センサを用いて周囲状況とのキャリブレーションを行うことで自己位置の再推定を行い、運用に復帰する。これにより、人手による復旧作業は不要に。所要時間も1分以内と、運用停止時間はメンテナンスの作業コストは大きく抑えられるとする。
照明制御による異常対応
ロボットによる巡回では、高温の熱源などの異変を察知した際に、防災センターなどへの通信を行う。それを受けた警備員などが現場へと駆け付けることになるのだが、今回の検証ではそうした際、ビーコン信号の活用により照明制御を行うとのこと。照度を高くしたり点滅したりと、暗闇などでも認知しやすい明かりとすることで、異常への迅速な対応に貢献するとした。
共通マップとヒト位置検出の連携
また新たなユースケースとして、オフィス内での物品運搬が想定された。特にフリーアドレスの執務室などでは、社内メールなどの受け渡しの際に固定の場所が存在しないため、時によって異なる対応が求められる。そこで今回の実証では、オフィス内で作業する従業員のスマートフォンやノートPCなどとビーコンが連携することで、従業員の着座位置を検出。その情報を配送ロボットに共有し作業を指示すると、共通マップの情報をもとにした自走ロボットが渡し先まで運搬するのである。
なお今回公開されたデモンストレーションでは、異なる位置に着座するスタッフの元まで、ロボットは的確に荷物を運搬した。また周辺に到着した際にはロボットが「お疲れ様です。お届けに参りました」と音声を発出。搭載されたテレスコピックポールを伸ばし、手が届きやすい高さまで荷台を上げる様子なども見られた。ugoの松井健代表取締役CEOによれば、こうしたさまざまな周辺機能については、ニーズによってカスタマイズが可能だといい、ビルごとに最適なソリューションとして提供できるとした。
2028年度のサービス提供開始へ取り組みを加速
両社によると、現在のオフィス実証は9月から開始されており、今後はビルマネジメント企業などへのヒアリングも行いながらテストマーケティングを進め、ソリューションとしての標準化提案を行っていくとのこと。そして、後付けが容易なビーコンやWi-Fiによる通信などさまざまな形態を検証したうえで、2028年度内の正式なサービス提供開始を目指し、取り組みを加速させていくとする。
ugoの松井社長は、「自走ロボット活用において残されていた課題の中には、ロボット側の技術だけでは解決できないものが多く存在していた。そうした中で“設備”という角度からアプローチするパナソニックEWと協力することで、設備から位置を教えてもらうという新たな方法を実現するなど、今後も新しい方法を提案していきたい」と語った。







