物質・材料研究機構(NIMS)と東洋炭素の両者は9月19日、高出力、長寿命、大型化対応を同時に実現するカーボン電極を開発し、それを用いて1Wh級の積層型の「リチウム空気電池」(LAB)の安定作動に成功したと共同で発表した。

  • カーボン材料合成スキームと1Wh級の積層型LABの外観

    (A)メソ細孔を制御したカーボン材料合成スキーム。(B)今回の研究で作製された1Wh級の積層型LABの外観(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、NIMS エネルギー環境材料研究センター 電気化学スマートラボチームの松田翔一チームリーダー、同・DUTTA Arghya NIMS特別研究員、同・亀田隆 NIMSエンジニア、東洋炭素 近藤照久記念東洋炭素総合開発センターの森下隆広エグゼクティブフェローらの共同研究チームによるもの。詳細は、物理学を扱う学術誌「Cell Reports Physical Science」に掲載された。

高出力・長寿命・大型化を同時に実現

LABは、正極活物質に空気中の酸素を、負極に金属リチウムを、そして非水系電解液を用いる二次電池だ。現行のリチウムイオン電池(LIB)の数倍という圧倒的な理論エネルギー密度を有し、電気自動車、ドローン、IoT機器など、軽量性が求められる分野への応用が期待される。そうした中、NIMSは2021年、単位重量あたりの電池容量を表す重量エネルギー密度が500Wh/kg級という、LIBを大きく上回るLABの開発に成功。しかし、実用化に向けては、高出力化、長寿命化(サイクル寿命の向上)、電池セルの大型化などといった課題が残されていた。

LABは、多孔性カーボン膜(正極)、セパレータ、金属リチウム箔(負極)の積層構造を持つ。そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、反応場となる正極に、適切に設計された細孔構造を有するカーボン電極が不可欠となる。具体的には高出力化において、酸素やリチウムイオンの輸送経路として機能するマクロスケールの細孔を電極内に適切に形成する必要がある。

長寿命化の観点からは、カーボン電極自体の高い耐久性が重要だ。研究チームはこれまでの研究で、カーボン電極の分解が電池寿命のボトルネックであることを突き止めていた。しかし、高出力、長寿命、大面積化対応というすべての要求を満たす電極材料は実現できていなかったとする。特に、大面積電極の作製に適したプロセスの確立は、LABの実用化に向けて極めて重要な課題だ。

そこで研究チームは今回、東洋炭素が有するメソスケール細孔制御技術と、NIMSが確立してきた多孔性カーボン自立膜作製技術を組み合わせ、すべての要求を同時に満たすカーボン電極の開発に取り組んだという。

まず、酸化マグネシウム粒子を鋳型とする「テンプレート法」により、メソ細孔構造を制御したカーボン粉末が作製され、LABに最適となるよう、メソ細孔径のチューニングが実施された。このカーボン粉末に対し、適切な温度条件下で熱処理を施すことで黒鉛化を促進し、材料の結晶性と耐久性の向上にも成功。この一連の技術により、長寿命化に貢献するカーボン電極材料の基盤が確立された。

次に、このカーボン粉末に対し、NIMSの自立膜形成プロセスが適用された。具体的には、カーボン粉末を主成分としたスラリーを調製し、ドクターブレード法で塗工した後、非溶媒誘起相分離法を用いることで、膜内部にマクロスケールの細孔構造が導入された。この細孔は、電極内の酸素やリチウムイオンの輸送パスとして機能し、電池の高出力運転を可能とする。このようにして得られた多孔性カーボン自立膜は、約94%の高い空隙率を持ちながらも、機械的強度に優れ、電極としての成形性とスケーラビリティを兼備した特徴を持つとする。

続いて、開発されたカーボン電極を正極に用いたLABを作製し、その充放電特性が評価された。その結果、1.5mA/cm2という高い電流密度下においても、150サイクル以上の安定な充放電動作が実現された。また、過去に報告された他のLABと比較しても、1mA/cm2以上の高電流密度領域において最も長いサイクル寿命を達成しており、性能面で大きなブレイクスルーが示されたとした。

今回確立された技術は、10cm角以上の大面積カーボン電極にも対応可能な、LABの大型化に適したスケーラブルなものだ。実際に、4cm角サイズの電極面積を有する積層型LABセルが試作され、従来の小型電池と同等の「電力量」(電池がどれだけのエネルギーを出せるかを示す値)の1Wh以上が確認された。現状のスマートフォンに搭載されているLIBなどと比較すると値はまだずっと低いが、LABとしては格段に進歩といえる値だ。

今回開発された高性能カーボン電極は、LABの実用化に向けた高出力、長寿命、大型化を同時に実現するものとのこと。これまで、技術的課題により限定的だったLABの実用化だが、今回の研究により電池セルの大面積化が達成され、産業レベルでの応用が現実味を帯びてきた。そして今回の成果は、LABの実用化を大きく進展させる成果としている。