クラウド型経費精算システム「楽楽精算」をはじめ、請求書発行や販売管理、電子帳簿保存などバックオフィス業務支援サービスを展開するラクスは、勤怠管理システム「楽楽勤怠」も手掛ける。
楽楽勤怠は出勤簿や残業申請、休暇取得などの一元管理を可能とし、給与計算に必要な集計作業や確認の時間短縮をサポートする。楽楽勤怠の開発チームは開発体制をウォーターフォール型からアジャイル型へ変更し、リリース案件数を5倍以上に増加させるなど具体的な成果が出始めているそうだ。
そこで本稿では、開発体制をアジャイル型へと変えた背景と、その具体的な取り組み、さらにアジャイル型で実感したメリットについて、楽楽勤怠開発部の部長を務める譜久村順次氏に取材した。
市場トップの座を狙い開発をスピードアップ
ラクスは2023年7月に「kinnosuke」を開発していたHOYAのクラウド勤怠管理サービス事業を買収し、ラクスHRテックとして連結子会社化した。その後、ラクスHRテックは2024年4月にラクス本体に吸収合併、別組織として楽楽勤怠を開発していた楽楽勤怠事業部と統合した。
これに伴って、既存製品を「楽楽勤怠Light」としてリブランディングし、kinnosukeを新たに楽楽勤怠として提供開始している。
譜久村氏はSIerの受託開発業務を経験した後、20代後半で受託開発やエンジニア派遣を行う会社を起業。詳しくは後述するが、この際の経験が現在の楽楽勤怠開発部のアジャイル型組織作りに影響を与えているという。
同氏はHOYAからラクスへの事業譲渡に伴ってラクスHRテックへ転籍し、2024年4月の子会社吸収合併のタイミングでラクスへ入社した。
楽楽勤怠はラクスの他サービスと比べまだ歴史が浅い分成長の余地が大きいとして、市場トップの位置を奪うべく開発業務のスピードアップを図っている。
アジャイル型組織への移行はDevOpsを実現する手段だった
2024年の吸収合併によって、楽楽勤怠開発部では以前からラクスに所属している開発メンバーと、ラクスHRテックからラクスへ転籍したメンバーが混在している状況だった。両チームは開発の進め方だけでなく、開発言語も異なっていたという。
勤怠管理サービスの市場は競合となるプレイヤーが多い。以前からラクスに所属しているチームはウォーターフォール型で開発していたのだが、競合の多い環境の中でシェアを拡大するためにも、譜久村氏はチーム全体でアジャイル型の開発組織へと変化することを決めた。
譜久村氏は「ウォーターフォール型からアジャイル型の開発組織にすることが目標だったのではない。組織全体の生産性を上げるために、DevOpsの手法を取り入れようと思った」と語る。
また、「事業を成功させるために必要なのは、"顧客志向"と"メンバー同士の協調性"。どちらも相手を深く理解する必要がある。開発組織にはバックエンドからフロントエンドまで多様な役割のメンバーがいるので、相互に理解を深めながら生産性を上げつつ良い製品を作るためにはDevOpsが適している」とも話していた。
DevOpsとはDevelopment(開発)とOperations(運用)を組み合わせた造語で、ソフトウェアの開発とシステムの運用を連携して効率性や品質を向上させるための手法だ。同社はDevOpsの原則である「小さなサイクルでの頻繁なデプロイ」を実現する手段として、アジャイル型を導入したとのことだ。
楽楽勤怠の開発部ではどのようにアジャイル開発を実践しているのか
アジャイル開発を実現するためのフレームワークには、エクストリームプログラミングやリーンソフトウェア開発、カンバン方式などいくつか代表的な手法があるが、同社はその中でスクラム方式を導入した。
スクラムはスプリントと呼ばれる短期間の開発工程を繰り返すアジャイル開発の中でもメジャーな手法であり、楽楽勤怠の開発チーム内にも経験者がいたことが導入のきっかけとなった。同社が実施しているスプリントは、「1週間で動くものを作る」と極端に短いのが特徴的だ。
導入当初は「日々、締め切りに追われているようで大変だ」との声もあった。だが短期間のスプリントに慣れた現在では「毎週成果を出せてフィードバックも得られるので、こちらの方が進めやすい」との意見が多いとのことだ。
スクラムチームはおよそ5人。内訳は要件を定義するプロダクトオーナー1人と、バックエンドエンジニア3人、フロントエンドエンジニアが1人といった具合だ。場合によってデザイナーなども参加する。現在は2つのチームが並行して開発を進めている。
その他に、効率的なスクラム開発をサポートするスクラムマスターや、技術的なサポートを提供するリードエンジニアなど、両チームを包括的に支えるメンバーも参画している。
「ウォーターフォール型で進めていたときは、完結するまでもくもくと1人で実装を進めるのでチーム内のコミュニケーションが少なかった。アジャイル型(スクラム)を取り入れたことで、相互に助け合う文化が生まれた」(譜久村氏)
上述の通り、譜久村氏が事業成功のために重視しているのは、「顧客志向」と「メンバー同士の協調性」だ。その考えの背景には、同氏の経験が影響している。
同氏のキャリアは大手SIerの中で大きな開発組織からスタート、そこではウォーターフォール型の開発手法を取り入れていた。その後、受託開発やエンジニア派遣を行うソフトウェア会社を起業し、少人数での開発を取り入れた。その結果、高い生産性を実感したという。
この経験から、「少人数で早いサイクルで開発を進める」という手法の利点に気付いたそうだ。そのためには、他人を深く理解しコミュニケーションを活性化させる必要があり、それは「顧客志向」と「メンバー同士の協調性」の実現にもつながっている。
将来の目標は「好きなときに新機能をリリースできる状態」
楽楽勤怠開発部がアジャイル開発を取り入れてから、1回当たりのリリース案件が5件(2024年5月)から27件(2025年2月)まで増加した。そのうち、売上増加に貢献した、または社内のコスト削減につながった開発案件は、月平均2.5件から5.1件まで増えている。
楽楽勤怠開発部は現在、2チーム体制で開発を進めている。これを今期中に4チームへと増やす予定だ。その中にはオフショア開発の構想も含まれており、現在はベトナムのラクス子会社でも開発可能な環境を整えている。これにより、現在は月1回のペースでリリースしているアップデートを、毎月2~4回まで増やすという。
「将来的には、月4回と言わずに好きなタイミングでいつでもリリースできるほど自由度の高い組織を作りたい。さらには、楽楽勤怠に加えてHRtechの領域で新しいサービスを創出しビジネスの幅を広げていけたら」と、譜久村氏は今後について語っていた。



