レノボISGの急成長、AIインフラ事業が牽引する業績
レノボで、サーバ事業やストレージ事業などを担当するのが、インフラストラクチャーソリューショングループ(ISG)である。2024年度(2024年4月~2025年3月)のISGの売上高は、過去最高となる前年比63%増の145億ドルを達成。先ごろ発表した2025年度第1四半期(2025年4月~6月)の売上高も、前年同期比36%増の43億ドルと引き続き高い成長を維持している。
なかでもAIインフラストラクチャ事業が前年同期比2倍以上の成長を遂げていることが注目される。レノボグループでは「Smarter AI for all」をビジョンに掲げ、それを実現するための施策として「Hybrid AI」戦略を推進。
今回、来日したレノボ アジアパシフィック インフラストラクチャーグループ プレジデントのスミア・バティア氏に、日本およびアジアパシフィックにおけるAIを中心としたISG事業戦略について聞いた。
レノボが描く「Hybrid AI」戦略とは - 次世代AIの姿
--レノボでは「Hybrid AI」戦略を打ち出しています。この狙いを聞かせてください。
バティア氏(以下、敬称略):現在、世の中にPublic AI、Enterprise AI、Personal AIという3つのAIがあります。とくに、Public AIでは多くの人たちがAIを自由に使うことができる環境が提供されており、企業のCIO(最高情報責任者)は社員にもこれを使わせて、生産性をあげたいという気持ちがあります。
しかし、その場合には、企業や社員が持つデータが、パブリック環境に置かれることになるため、それが懸念材料となっています。CIOは、データをセキュアに管理した上で利用したいと考えています。
レノボでは、それを解決するために、Public AI、Enterprise AI、Personal AIを自由に行き来しながら、セキュアな環境で利用できる「Hybrid AI」という考え方を提案しています。レノボのAIソリューションは、Hybrid AIをベースに展開しており、お客様のニーズに柔軟性を持って対応することができます。
そして、レノボの最大の特徴はHybrid AIを実現するうえで、そこに必要とされるスマホからPC、サーバ、ワークステーション、ストレージ、データセンター、クラウドまでをカバーしている企業であるという点です。こうした企業はほかにはありません。レノボはAIの分野に対して10億ドル以上の投資を行い、80以上のAI対応製品プラットフォームを生み出していることからもそれは明らかです。
さらに、最新のThinkSystemおよびThinkAgileでは、21もの製品を投入し、AIストレージによるポートフォリオの拡充を行いました。
Hybrid AIプラットフォームを実現するために、コンピューティングやストレージ、GPU、ネットワークなどを、検証済みのモジュラー型のインフラソリューションとして用意し、柔軟で、簡単な導入を可能にしています。また、パートナーから提供される検証済みのソリューションも活用でき、ニーズにあわせて拡張ができるように設計されています。
エッジ製品に関しても、製造現場や小売店舗などにAIを導入する際には最適な小型デバイスが選択でき、データがある現場において処理を行い、データグラビティが発生する環境に、AIを活用することができます。
加えて、レノボではさまざまなAIサービスを提供しています。企業に対するアドバイス、今後の方向性に関する提言、迅速なAI戦略を開始するための支援、管理に関するサービスなどを提供することが可能です。
企業は、自らのニーズに最適化した環境を、迅速に構築でき、アジャイルな企業として動くことができるようになります。これがレノボのHybrid AI戦略であり、他社と大きく異なる点だといえます。
サーバ、ストレージ、データセンターといった製品をはじめ、AI PCを市場に投入し、スマホでもAIを活用できるなど、80以上の製品プラットフォームで、AI対応を図ることができています。
小型デバイスから、多くのGPUを搭載した製品まで、AIレディな環境が整つつあります。ただ、AIの進化とともに、AIプラットフォームも進化していくことになります。その点では、AIポートフォリオの拡張はこれからも続きます。
--レノボグループ社内でも、AIを積極的に利用していますね。
バティア:レノボグループ自らが、Hybrid AIのアーリーアダプターだといえます。レノボが開発したものをレノボ社内で使用し、メリットを享受しています。これを「Lenovo Powers Lenovo」と呼び、自らが体験し、蓄積したノウハウをお客様にも提供しています。
製造部門では生産スケジュールの作成が90%も加速し、サプライチェーンに関する意思決定が60%速くなりました。
また、AIの活用によって、世界中の製造拠点における生産量が19%増加し、製造ラインのキャパシティが24%増加し、オンタイムでのデリバリーが3.5倍に増え、お客様に対しても大きな価値を生んでいます。
さらに、カスタマサービスでは使いやすいインターフェースをAIが実現し、セルフで対応できる環境を用意したことで、100万ドル以上のコスト削減を実現していますし、IT運用ではクラウド管理にAIを活用して60%のコスト削減が可能になり、ESGに関する知見を獲得するのに99%も速くなったという結果も出ています。レノボのHybrid AI戦略は、レノボ自らにも大きなメリットをもたらしています。
「AIノミクス」時代の到来、求められるサステナブルなAIインフラ
--レノボでは、「AIノミクス」という言葉を用いて、新たな時代が到来することを提言しています。AIノミクスとは、なにを指していますか。
バティア:レノボは、次のAI時代に向けて、エンドトゥエンドでAIに最適化したポートフォリオを整え、データを念頭においた顧客中心のイノベーションを進め、グローバルのイノベーションパートナーとともに、検証済みの環境において、AIソリューションを提供していきます。
しかし、これまでのAIは、その多くが実験段階だったといえます。企業がAIを使わなくてはならないという焦りや危機感を持っていても、なかなかメリットにはつながらないという時代でした。
レノボでは、これからのAIは新たな段階へと突入すると予測し、それを「AIノミクス」の時代と定義しています。その結果、AIがより多くのメリットをもたらすことになると考えています。A
Iによって、どれぐらい生産性を高めることができたのか、ROI(投資利益率)はどうなのかといったように、成果ベースで推し量る時代が訪れることになります。それは、まさに経済学の話であり、AIノミクスという言葉が生まれた背景といえます。
AIの普及によって、2つの状態が考えられます。1つは、ディスラプターとなり、業界を変革する立場になるということです。そして、もう1つは、ディスラプトされてしまう立場の企業になってしまうことです。もちろん、私たちが目指しているのは、ディスラプターとなる企業を支援することになります。
--レノボでは、2025年5月に「CIO Playbook 2025-AIノミクス時代の到来」を発表しました。ここからはどんなことが読み取れますか。
バティア:この調査は今年で3回目となるもので、アジア太平洋地域では12の市場において900人以上のITおよびビジネス意思決定者(ITBDM)をはじめ、2900人以上を対象に調査をしています。日本では、150人のCIOに対して調査が行われました。
その結果、アジアパシフィックのCIOたちは、より俊敏性を高めるAIの実現と、ROIを重視したAI投資を重視していることがわかりました。また、IT支出に占めるAIの割合が、アジアパシフィックでは3.3倍、日本では5.8倍に増加しており、日本のCIOの47%が2025年にAIおよびAI関連プロジェクトに投資する計画であることも明らかになりました。
彼らは、小規模なプロジェクトからスタートし、オペレーションを効率化し、その後、広範な用途に拡大していくという考え方を持っています。ただ、AIを利用する上での課題も浮き彫りになっています。その1つはデータです。データがさまざまなところに点在しており、これをいかに活用するかといった問題があります。
また、インフラが古く、AIを十分に活用することができないという点も挙げられます。AIは一歩踏み出したらそれで終わりというものではなく、長期的視点に立ち、投資や運用を考える必要があります。一方で、CIO Playbook 2025は、もう1つ重要な傾向を読み取ることができました。
--それはなんでしょうか?
バティア:AIの普及に関連して、消費電力が増加することを懸念しているCIOが多いことです。CIOはAIへの投資を加速しながらも、その一方でサステナビリティに対して、強い関心を持っています。レノボはこうした分野に対しても、積極的に対応をしていくことになります。
その答えの1つが、レノボ独自の液冷ソリューションであるNeptuneテクノロジーです。これは決して新しい技術ではありません。IBMの技術をベースに、2012年からスタートしており、現在は第6世代へと進化しています。
ファンレスの構造としており、サーバ内の熱を100%取り除くことができます。また、特別な冷却液を用いず、真水を利用できること、40℃での温かい水でも冷却が可能であることが特徴です。液体を冷やすためにエネルギーを使用しないという点でも、環境に配慮したものとなっており、従来のものに比べて最大40%の省エネ化を実現しています。
ISGの事業成長を支える重要なソリューションのひとつであり、最新四半期の決算でも、液冷ソリューションの売上高は前年同期比30%増となっています。このことからも業界をリードしていることが裏づけられます。
日本企業におけるAI導入の課題と可能性
--その一方で、CIO Playbook 2025の調査を見ると、日本の企業におけるAI活用がグローバルのなかでも、遅れはじめているように感じます。
バティア:日本のお客さまは、慎重であり、注意深いという傾向があります。どんな成果を得られるのかをしっかりと理解してから、本格的な導入を図るケースが多いですね。AIの導入においても、それは同様で、日本の企業にはやや慎重な姿勢が感じられます。
AIの導入において重要なのは、企業のマインドセットを変えていくことであり、これはとても難しいものです。日本の企業は、この部分に気がついており、ここから変えていく努力をしています。これは決して悪いことではないと考えています。
日本のCIOの方々や、パートナーの方々と直接お会いし、話をしてみると、AIへの関心はとても高く、世界中でどんなユースケースがあるのか、どう実装していけばいいのかということに強い関心を持っていることが伝わってきます。
しかし、AIの導入に対して慎重であることは、マイナスの要素もあります。先行することで得られる経験や、失敗することで得られる経験が得にくいことです。これらの経験は、極めて重要です。また、先行することで業界におけるリーダーとしてのポジションを得られるはずなのに、それがかなわず、ディスラプターの位置を獲得できないという課題です。
とは言え、CIO Playbook 2025の調査からも、日本の47%の企業はAIに対して積極的な投資することが明らかになっていますし、個人的には、この数字がもっと高くなると考えています。
--2024年度の ISGのグローバルの売上高は、過去最高となる前年比63%増の145億ドルを記録し、急速な成長を遂げました。また、2025年度第1四半期も高い成長を続けています。2025年度において、ISGはどんなところに力を注いでいきますか。
バティア:引き続き高い成長を目指しており、市場を上回る速度で成長を遂げたいと考えています。最も重要なのは、AIの旅路を歩んでいくお客さまを支援することです。
LLM(大規模言語モデル)を開発し、提供するためにモデルをトレーニングするなどのニーズがあるクラウドサービスプロバイダー(CSP)への貢献や、エンタープライズやミッドマーケットのお客さま、工場やブランチオフィス、中小規模企業などのAIの利活用の推進においても、貢献していくことが重要です。
AIは、特定のお客様だけに広がるものではなく、あらゆる市場に広がっていきます。それは私たちのビジネスが、あらゆる市場に広がっていくことを意味します。つまり、あらゆる市場で成長することになります。
--日本でのビジネスチャンスはどこにありますか。
バティア:AIが活用される領域は、製造、ヘルスケア、小売、金融など、多岐にわたります。サプライチェーンにも影響を及ぼしますし、多くの場所で、AIの採用が加速していくことになります。日本においてもそれは同様で、AI活用の市場への貢献を目指しています。
AIを導入する企業における課題は、データをどう活用するのかという点です。どのようなユースケースで利用するのかによって、求められるデータは異なります。また、データが揃い、うまく使えるようになったあとには、インフラをどう整備するか、AIを活用するためのマインドセットをどうするのかといった課題もあります。
さらに、AI戦略をどう立案するのか、コンプライアンスをどう実行するのかといったことも考える必要があります。長期的な戦略を立案することに加えて、短期的な戦略を考える必要があり、短期的な戦略では、まずは成果を出せる部分から進め、身近なところからROIを達成したり、成功体験を積み重ねたりすることも大切です。
こうした課題を解決できる製品、サービスを提供できるのが、レノボだというわけです。レノボは「それができる」ということを口先で言っているだけの企業ではありません。AIに関しては、何年も前から投資を進め、自らが先行しながらAIを活用し、AIに最適な製品やサービスの提供にも力を注いできました。
AIに注力するという目標を明確に設定し、それに向けてHybrid AI戦略を打ち出しています。この強みをますます発揮する1年にしていきます。





