7月16日、17日に「日本DX大賞2025サミット&アワード」が開催された。DX実践者の交流の場として、現場の担当者が学びを共有するイベントで、優れた取り組みに授与する「日本DX大賞2025」 と「第3回日本ノーコード大賞」の表彰式も同時開催された。

本稿では、16日のオープニングセッションの様子と、同日に開催された日本DX大賞2025表彰式から庁内DX部門・地域DX部門・支援部門の受賞自治体・企業・団体を紹介する。

DXは技術ではなく想像力がポイント

オープニングセッションには、6月末にデジタル庁を退官した前統括官(国民向けサービスグループ長)の村上敬亮氏が登壇。「地域を変えるDXシナリオ―官民で実現する『共創』と『横展開』の力」と題し、日本のDXの課題とチャンスについて語った。モデレーターは森本智子氏が務めた。

  • (左から)モデレーターの森本智子氏、前デジタル庁 統括官(国民向けサービスグループ長)の村上敬亮氏

冒頭、これからの日本のDXをさらに加速させるシナリオについて聞かれた村上氏は、「縦割りに横串を刺す」と言い切った。

DXは単純なデジタル化とは根本から異なり、トランスフォーメーションを伴う。村上氏は実例としてあるゴルフクラブハウスの地域連携事例を紹介した。

同氏はマイナンバーカードの利用を推進する立場でゴルフクラブを訪問したという。しかし、チェックイン、ロッカー、支払いなどのデジタル化はすでに完了しており、「マイナンバーカードを何に使うのか」という厳しい反応であった。そこで、外部サービスとの連携を模索。マイナンバーカードを用い、オンラインで予約をすれば、ビジターフィーノ割引を受けられるキャンペーンなどを提案したそうだ。最終的に、ゴルフクラブのID、オンライン予約サービスのID、地元のロイヤリティプログラムといったIDを全てマイナンバーに紐付けることで、マイナンバーを提示すればサービスが受けられるようにした。これにより、従来はなかった商流が生まれた。

これまで組織や業界の枠組みを超えた連携の例となるが、このようなことを実現するために必要は何か。村上氏は「DXの勝負は技術ではなく想像力であり、技術は全て揃っている」と述べた。

人手不足対策としてのデータ共有基盤

「横串を刺していくことがDX」だと村上氏は強調する。一方で課題として「縦割りの牙城が高いため、他の仕組みとの連携が難しい」と指摘した。

日本の行政組織は、人口増加時代のインフラ整備を効率的に進めるために、学校、水道整備、道路舗装といった分野ごとに縦割りの構造を発達させてきた。この構造は、明確に定義された課題に対しては極めて効率的に機能するが、複数の部局にまたがる横断的な課題に対しては対応が困難になる。

横串連携の具体例として、村上氏はデジタル庁が推進する「Public Medical Hub(PMH)」を紹介した。PMHは医療費助成、予防接種、母子保健等の領域でマイナンバーカードを活用したデジタル化の取り組みだ。

子どもの予防接種や問診票などの情報を管理するアプリを民間が作成するには、健康保険組合や自治体との連携が必要になる。しかし医療費助成をはじめとした支援制度は自治体ごとに異なる。全国1700余りの自治体情報を個別のアプリ事業者が収集するのは現実的ではない。そこで国が統一基盤を提供する。

これを活用することで、予防接種や健康診断が近づくとプッシュ通知を送るなどの便利なアプリを民間が開発できる。

このような横串サービスは、ユーザーの利便性向上だけがメリットではない。「一番のポイント」として村上氏が挙げるのは、「これから人手が足りなくなる」という現実だ。

「みんなでデータを上手に共有して使う、これをいかに信頼感を持ってやっていくかが大事になるのです」(村上氏)

官民連携を官がリードするとうまくいかない

官民連携のポイントについて、村上氏は興味深い見解を示した。「官がリードする官民連携はやらない方がいい。民間が良いサービスを始めて、それに自治体が合わせるのはOK」だと言うのだ。その背景には先述の縦割りの壁がある。

例えば、日本の医療費高騰の課題だ。これを解決する鍵として村上氏は、終末期の医療費の削減を挙げる。“ピンピンコロリ”、つまり在宅死亡率の向上が重要で、そのためには高齢者の外出率を上げることが効果的と指摘する。コミュニティバスを増やそうとすると、社会福祉部門とバス運行担当部門の縦割りが障壁になる。バス運行担当の立場では「社会福祉部のためにコミュニティバスの赤字を膨らませると、議会で責められる」ことになる。

しかし村上氏によれば、コミュニティバスの赤字が年間2000万円膨らんでも、5年間で医療費が2億円削減されるケースは十分考えられるという。だが各部局ごとに予算と人員が配置されている限り、こうした合理的判断は困難だ。

同氏はこの状況をテトリスゲームに例えて説明する。行政組織は縦穴のように整然と並んだ構造を持ち、まっすぐなかたちのピースには対応できるが、T字やL字型のピースが降ってくると拒否反応を示す。

「この構図にどう戦っていくかを考えなければなりません。想像力だけでは横串を刺したDXは進まないのです」(村上氏)

コミュニティバス問題への村上氏の提案は、民間が送迎を含めた事業を展開し、そのサービスを社会福祉部が利用するという構造だ。民間事業者はモビリティの新しい需要創造という姿勢で事業を設計する。自動走行車両やライドシェアの導入方法など、供給と需要の一体的設計を行う“交通商社”的な動きが求められると同氏は説明した。

デジタル公共財で自治体の格差を解消

DXの成功事例は各地で生まれている。日本全国への横展開の仕組み化について聞かれた村上氏は、国連で議論される「デジタル公共インフラ」「デジタル公共財」「競争的なデジタル」の3層構造の考え方を紹介した。

「デジタル公共インフラ」はマイナンバーカードのように誰もが使えるインフラ、「競争的なデジタル」は民間の競争領域だ。注目すべきは中間の「デジタル公共財」で、調達力の違いがDX格差を生まないよう、基礎機能に絞ったDXソリューションを複数自治体による導入前提で開発・販売するアプローチだ。従来、自治体向けのDXソリューションは販売見込みの不確実性から高額・高機能化し、一部の大規模自治体しか購入できなかった。この問題を「デジタル公共財レイヤーではDX格差が進まないような市場をつくったうえで、AIを使った最先端ソリューションなどは競争領域で競争する構造で解決する」と同氏は説明した。

村上氏によるとデジタル公共財の概念は広がりつつあり、政府もデジタル公共財に類するサービスのカタログを作成しているという。マーケットプレイスのような存在があれば、ベンダーと自治体の両方にメリットがあると見る。例えば、ソリューションを探す自治体が「調達モード」で検索すると推奨ソリューションが1つだけ表示され、随意契約での調達が可能になる。共同利用や共同調達を前提とした場合には補助率が2/3に引き上げられるなど、小規模自治体でのDX導入を促進する仕組みを入れることも検討しているそうだ。

従来、自治体向けソリューションを提供する業界は縦割りにマーケットをつくり、自治体ごとの「多重下請け構造」だった。しかし村上氏は「人手が回らない、コンプライアンスをどうするかなどの課題から“隙間”ができ始めている」としたうえで、「デジタルの横串を刺す変革期に入り始めている」と、将来への期待を示した。

庁内DX部門表彰式

大賞:都城市

プロジェクト名:「D(デジタル)に頼り過ぎないDX」~フロントヤード改革から実現する庁内DX~

評価ポイント:デジタルツールの導入を前提とせず、徹底したアナログ業務改革から着手。市民の待ち時間や職員の残業時間を大幅に削減した具体的成果と、全国の先進事例を学び続ける変革への姿勢が高く評価された。

優秀賞:指宿市

プロジェクト名:行政手続最適化プロジェクト

評価ポイント:大規模なシステム投資を行わず、国が提供する「ぴったりサービス」を最大限活用。他の小規模自治体でも再現可能な低コスト・持続可能な改革モデルを構築した点が評価された。

奨励賞:別府市

プロジェクト名:生成AIを活用したデジタル総合窓口Citizen Navigator構築事業~まずは、⼦育て分野から

評価ポイント:デジタルファーストを掲げ、行政の根幹である「正確性」を生成AIで担保するための努力と成果を実装。今後の他自治体への展開も期待される点が評価された。

奨励賞:福島市

プロジェクト名:出産・子育て応援DX「子育てするなら福島市」~BPRとデジタル完結で市民の利便性向上と事務の効率化~

評価ポイント:市民目線のシステム内製化でBPRを推進し、「行かない役所」の実現と職員・財政の負担軽減に貢献。市の重要施策である結婚から子育てまでの分野で実践されている点が評価された。

地域DX部門表彰式

大賞:山形市・TXP Medical

プロジェクト名:なぜ救急隊DXは救急医療の質を上げることができるのか~いのちを救う救急DX~搬送困難を解消し、命を守る連携と革新

評価ポイント:救急搬送困難事案という社会課題に対し、文化やKPIの異なる消防・医療・行政の3者を連携させる情報共有プラットフォームを構築。市民の命を救うという直接的な価値創出と、全国へ展開可能なモデルを確立した点が高く評価された。

優秀賞:函館市

プロジェクト名:ノーコードで挑む「やさしい行政サービス」 “子育てに、余白を。“を実現した「現場で育てるDX」

評価ポイント:利便性向上に留まらず、子育て世代の心に「余白」を生み出すという「優しさ」の価値を行政サービスに実装。職員が主体となってノーコードでサービスを育てる文化を醸成した点が評価された。

優秀賞:福岡市・LINEヤフーコミュニケーションズ

プロジェクト名:屋台DX官民連携で革新を! 生成AIとIoTのデジタル技術×歴史ある福岡屋台で新時代の屋台文化創造へ

評価ポイント:DXから遠いと思われがちな“屋台”をテーマに、生成AIやIoTを実装したスピード感と、「AIおいちゃん」に代表される遊び心のあるUIを構築。アナログな文化資源に新たな体験価値を付与した点が評価された。

奨励賞:福島市

プロジェクト名:地域医療DX「休日の救急医療を守れ!」~オンライン診療を活用した小児科休日診療~

評価ポイント:逼迫しがちな小児科休日診療において、オンライン診療で待ち時間を平均18分まで短縮した実績を構築。子どもを持つ親の負担軽減だけでなく、地域医療全体の負荷を軽減する重要な取り組みとして評価された。

支援部門表彰式

大賞:ASAHI Accounting Robot研究所

プロジェクト名:“ご苦労さん”を“ありがとう”に 山形から東北、全国へ! 非IT人材×リスキリングで 挑むDXリボーン

評価ポイント:会計事務所という専門家集団が自らを変革し、その知見を活かして全国の中小企業へ伴走支援を展開。着実に支援の輪を広げ、非IT人材のリスキリングを通じて現場の業務を変革している実績が高く評価された。

 優秀賞:東北大学

プロジェクト名:業務のDX推進プロジェクト・チーム

評価ポイント:自大学の成功に留まらず、「大学DXアライアンス」を設立して知見を全国の大学へ共有。日本の高等教育全体のDXを底上げするプラットフォームを構築した展開力が高く評価された。

優秀賞:プロフェクト

プロジェクト名:全国の中小製造業8社が開発した 生産管理システムTEDによるDX実現で 「ものづくり復権」

評価ポイント:中小製造業が抱える共通課題に対し、当事者である8社が自ら生産管理システムを共同開発。現場のニーズに即した実践的なDXを推進し、業界全体の課題解決を目指すモデルを構築した点が評価された。

奨励賞:堺市・堺DX推進ラボ

プロジェクト名:有機的な連携でDX支援を変革~堺DX推進ラボによる地域ぐるみでのDX支援を通じた企業価値向上への道~

評価ポイント:産学官金の充実した連携体制で、多様なプレイヤーを巻き込みながら地域企業の課題解決に取り組むモデルを構築。数あるDX推進ラボの中でも群を抜くスコープの広さと、今後の地域経済への波及効果が期待できる点が評価された。

スポンサー賞表彰式

Claris FileMaker 賞:北海道立総合研究機構

評価ポイント:100年間続いた稲の生育調査を、ローコード技術で変革した着眼点を高く評価。現場に根差した地道な取り組みが農業研究の「革命」に繋がる可能性を示した点が受賞の決め手となった。

ポスターセッション表彰式

最優秀賞:グーニーズグループ

プロジェクト名:蛇口をひねれば水が出るように、福祉がそばにある。 誰もが、どこにいても、支援につながる社会へ

評価ポイント:秀逸なキャッチコピーで福祉の未来像を提示し、具体的なDXの取り組みを見事に表現した構成力が高く評価された。

優秀賞:宝塚市

プロジェクト名:DXの礎「ひとづくり」 宝塚市ビジネススキルアップゼミを通じた持続可能なDX推進体制づくり

評価ポイント:DXの成功に不可欠な「ひとづくり」に着目し、職員が主体的に学び、共に成長する持続可能な人材育成の仕組みを構築した点が評価された。