サノフィ日本法人(以下、サノフィ)はこのほど、医療・ヘルスケア業界に関心を持つ高校生を対象とするサマースクールイベント「医療の未来をつくる高校生プログラム~製薬からITまで、誰もがかかわれる医療業界の多様な選択肢~」を本社オフィスで開催した。
夏休み期間の特別授業として開催されたこのイベントでは、男性看護師や女性ITコンサルタント、薬学系大学院生、企業で働く女性医師など、ジェンダーや社会的バイアスがある中でも活躍する関係者がパネルディスカッションに参加した。これまでのキャリアや進路選択の悩み、現場での苦労などが語られた。
登壇したパネリストは以下の通り。
・Nurse-Men グループ代表 秋吉崇博氏
救急医療の分野で10年以上、看護師として勤務。男性看護師だけの「Nurse-Men」および「ナスメン」を設立。男性看護師の認知向上のほか、キャリアパスの拡大を目指す。
・Veeva Japan アソシエイトコンサルタント 大村洲氏
大学の文学部を卒業後に日系大手広告会社に営業として就職。よりチャレンジングな環境を求めて約1年で退職。ITは未経験だったがVeevaに入社し、実務を通じてITを学べるCDP(Career Development Program)に参加。
・サノフィAMC(A Million Conversations)奨学生 国立大学大学院 薬学系研究科 佐藤氏(仮名)
多様な属性の人々がヘルスケア産業に参画することを促すグローバルな奨学金制度(サノフィ次世代奨学金)を利用し研究に従事。
・サノフィ女性医師社員 ジェネラルメディスンメディカル本部 白木ゆり氏
筑波大学医学専門学群卒(2005年)、土浦協同病院(茨城県)初期・後期研修の後、宇都宮中央病院 糖尿病内科および宇都宮記念病院 内分泌代謝内科に勤務。2022年より現職。
サノフィ 渉外部部長の落合利穏氏がモデレーターを務めた。
バイアスに負けず進路を選択した理由
落合氏:秋吉さんが、女性の多い看護の世界に進もうと思ったきっかけを教えてください。
秋吉氏:私は高校2年生のときに進路を聞かれるまで、将来の夢がありませんでした。大学進学は学費など親の負担になってしまうので、当時の担任の先生に「自分で稼ぎながら夢を目指せる職業はないか」と聞いたところ、看護師を勧められたのがきっかけです。
その後に自分で調べてみたら、看護師は准看護師と正看護師に分かれていて、准看護師は医療機関で働きながら学校に通って勉強できることを知りました。「これなら家族に迷惑をかけずに働ける」と思いました。
皆さんも知っているように男性の看護師は少ないですが、私は天邪鬼な面もあるので、むしろ男性が少ない看護業界に魅力を感じ、この道を目指すようになりました。
落合氏:看護の現場に入ってから、男性だからこそ任せてもらえた仕事はありますか。
秋吉氏:もちろんあります。私が所属する救急医療の現場は筋力や体力が必要な場面が多いです。例えば、救急車で運ばれてくる患者さんの中には暴れている酔っ払いや、痛み・苦しみのために取り乱して手足が強く出てしまう方もいます。そういう場面では男性の方が活躍しやすいですね。他にも、女性ばかりの空間に男性の私がいるだけで、雰囲気が少し明るくなるのを感じます。
落合氏:白木さんは秋吉さんと反対に、男性が多い医師の世界で働いています。大変なことはありますか。
白木氏:医師は男性が多いですが、病院の中は看護師が多いので普段は女性に囲まれています。医師になって数年は、ベテランの看護師にも指示を出さなければいけませんので、とてもプレッシャーに感じていました。おそらく男性よりも、そのプレッシャーを感じていたような気がします。
また、研修医だったときに、将来専門とする科を決める必要がありました。そうすると、必然的に先輩医師の中からロールモデルを探してしまいます。女性の先輩がいて「将来こんな感じで働くのかな」とイメージできる科の中から選ぶので、少し選択肢が狭くなってしまいます。
落合氏:白木さんは、なぜ病院の臨床の現場から製薬企業の社員として働こうと思ったのですか。
白木氏:私が医師を目指していた時期や、医師になりたての時期には、まさか自分が製薬会社の社員になるとは思っていませんでした。私は内科医として勤務していたのですが、その10数年の間に新しい薬がどんどん販売され、患者さんの寿命がどんどん伸びていくのを経験しました。
内科は特に、薬が患者さんの生活に与える影響が大きいです。医師が進化したというよりも、より良い薬が開発されたことで長く生きられる患者さんが増えたのだと感じ、多くの人にインパクトを与えられる薬の開発に携われる仕事を選びました。
落合氏:佐藤さんは大学で研究をしていますが、その中でジェンダーを意識する場面はありますか。
佐藤氏:私は研究の中でマウスを使っているのですが、教授や先輩に「女の子は解剖やグロテスクな実験は無理でしょ」と言われたことがあります。私は主体的に実験を進めたいので、そういうことを言われるとすごく悔しいです。
また、私の通っている大学は全体の女性比率が20%で、私が所属する薬学部も同じくらいの割合です。これでも理系学部の中では女性比率が高いほうで、数学や物理専攻は学年に数人しか女性がいません。理系の友人に「女性が少ない学部には進みにくい」と言われた経験もあるので、学部の男女比が進学にも影響していると思います。
落合氏:大村さんが所属するIT業界も、一般的には理系で男性が多いとされていますね。
大村氏:当社もやはり理系学部出身の男性が多いですし、主な取引先である製薬・医療業界も同様です。私以外のプロジェクトメンバーが全員男性という場面も珍しくありません。しかし、当社は男女で扱いが異なることがありませんので、大きな不便は感じていません。
私は文系学部出身で、IT業界に入る前は不安もありましたが、努力してなんとか周りの人たちに追いつくことができました。仕事をする際には適性や業務に対する姿勢が大切だと思っているので、ジェンダーやバイアスにとらわれずに対処できます。
「将来の夢は一つに決めなくていい」 - 参加者へのメッセージ
落合氏:本日会場に集まっているのは、これからキャリアを選択する高校生です。メッセージをお願いします。
秋吉氏:今日のようなイベントでは、壁を感じた経験や大変だった経験が語られますが、どの仕事にも壁はありますし、向き・不向きがあります。現時点で看護師になりたいと思っている方はもちろん、何かしらの夢を持っている人も、これから進路を考える人も、少しでも看護師に興味を持ってくれていたら嬉しいです。
大村氏:私はITの側面から医療を支えています。今日の参加者は製薬・医療に興味を持っている方が多いと思いますが、一言で医療と言っても多様な関わり方があることを知ってもらえたらと思います。
社会的なバイアスはいくつもありますが、それにとらわれることなく、自分がやりたいことを大切にしてほしいです。
佐藤氏:私は以前から薬学の分野に進みたいと思っていたのですが、それでも受験前に「理系は女性が少ないので大丈夫かな」と不安になることが何度もありました。
これから進路を決めて受験に挑戦する皆さんは、「女性 / 男性だからこうあるべき」というバイアスや固定観念を気にすることなく、本当に自分自身が進みたい進路に本気で進んでほしいです。
白木氏:私は「将来の夢は一つに決めなくてもいいよ」というメッセージを送りたいです。私が医師になったとき、まさか製薬会社に入ることになるとは思っていませんでした。今後も何か違う道があるかもしれません。
私は高校生のとき、一つの職業を決めたら一生そのまま続けるものだと思っていました。実際はいろいろなキャリアがありますし、前職の経験を生かして新しい選択にチャレンジすることもできます。
「この先何年もこの仕事でいいのかな」と悩むのではなく、まずは自分の興味のある分野に挑戦してください。女性・男性にかかわらず、たくさん挑戦してたくさん失敗できる人生を歩んでください。







